第11話 レベルアップ

 その日も普通の一日だった。

 朝飯を食って、依頼をこなして、ガルドと酒場で飯を食って、宿に帰った。何も特別なことはなかった。

 キオが窓際で木の実をかじっていた。大吉はベッドに寝転んで天井を眺めていた。


「今日の依頼楽だったな」

「ウン」

「明日はもう少し難しいやつにするか」

「ニク トレル ヤツ」

「お前ほんとそれしか言わないな」


 沈黙。

 虫の音がする。風が窓を揺らす。

 ごく普通の夜だった。

 その時キオが突然言った。


「レベルアップ」


 大吉は天井を見たまま答えた。


「…何が」

「キオガ」

「何のトリガーだ」

「ワカラナイ」

「わからないのか」

「ウン デモ レベルアップ」


 大吉は起き上がってキオを見た。キオはいつも通りの木製の人形だった。変わったところは何もない。


「どう変わるんだ」

「ワカラナイ」

「わからないことだらけだな」

「ウン」

「まあいいか」

「ウン」


 大吉はまたベッドに寝転んだ。


「おやすみ」

「オヤスミ」

   *

 翌朝。

 大吉が目を覚ますと、ベッドの上に女の子が寝ていた。

 小さな、裸の、女の子が。


「………」


 大吉は目を閉じた。

 もう一度開けた。

 まだいた。


「……キオ」

「ウン」


 女の子が目を開けた。琥珀色の瞳だった。

薄い茶色の人間の髪とは明らかに異なる質感。柔らかい繊維質。

耳がわずかに尖っている。妖精種に近い特徴。

四歳から五歳程度の幼女。


「レベルアップ シタ」

「そうか」

「ウン」


 大吉は天井を見た。


「とりあえず服を着ろ」

「フク」

「ああ」

「ジャージシカナイ」

「それでいい」


 大吉は自分のジャージを投げた。キオが袖に腕を通した。丈が長すぎてすっぽり埋まった。


「ダイキチノニオイ スル」

「うるさい」


 大吉は窓の外を見た。今日も街は賑やかだった。


「飯食いに行くか」

「ニク?」

「ああ」

「ヤッタ」


 また普通の一日が始まった。ただし隣にいるのは人形ではなく幼女になっていたが、大吉は深く考えないことにした。

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