第18話「魔王の花嫁衣装」

 魔界への帰還後、すぐに結婚式の準備が始まった。

 それは単なる式典ではなく、人間と魔族の融和を象徴する世紀の大イベントとして計画された。

 城中がお祭り騒ぎになる中、レオは深刻な悩みに直面していた。


 「……これ、本気か?」


 衣装部屋で、レオは目の前に吊るされたそれを指差して絶句した。

 純白のシルクで作られた、豪華絢爛なドレス。

 レースやフリルがあしらわれ、背中は大胆に開いている。そして極めつけは、長い長いベールだ。


 「レオ様はオメガですし、細身でいらっしゃるので絶対にお似合いです」


 メイドたちは目を輝かせ、一歩も引く気配を見せなかった。


 「着れるか。俺は男だぞ。なんでウェディングドレスなんだよ」


 「ベリアルめ……面白がってるな?」


 レオはギリギリと歯ぎしりをした。

 確かにオメガバースの世界では、男性オメガがドレスを着ることは珍しくない。だが、自分は勇者だ。筋肉だってある。タキシードでビシッと決めるつもりだったのに。

 そこへ、騒ぎを聞きつけたベリアルが現れた。


 「気に入らないか? 最高級の繭から紡いだ糸だぞ」


 「素材の問題じゃない。デザインの問題だ。俺に女装させたいのか」


 レオが抗議すると、ベリアルは真面目な顔で首を振った。


 「女装ではない。これは花嫁の正装だ。余にとってお前は、守り慈しむべき華なのだから」


 ベリアルはドレスを手に取り、レオの身体にあてがった。


 「想像してみろ、レオ。これを纏ったお前が、バージンロードを歩いてくる姿を。余はその美しさに、再度恋に落ちるだろう」


 うっとりとした表情で語るベリアルに、レオの毒気は抜かれてしまった。

 こいつ、本気で似合うと思っているのか。


 「……わかったよ。着ればいいんだろ、着れば」


 「本当か」


 「ただし条件がある。式の後は、すぐに脱ぐからな。二度と着ないぞ」


 「善処しよう」


 こうして、勇者レオのウェディングドレス姿が決定した。


***


 当日。

 着替えを終えたレオが鏡の前に立つと、そこには意外なほど美しい姿があった。

 鍛えられた肉体はコルセットで締められ、滑らかな曲線を描いている。露わになった背中の筋肉美が、逆に妖艶さを醸し出していた。


 「……悪くないかも」


 少しだけそう思ってしまった自分を殴りたい。

 控室のドアが開き、ガープ将軍が入ってきた。彼は今日、新婦のエスコート役を務めることになっている。


 「レオ殿、お迎えに……っ」


 ガープはレオの姿を見て、一瞬言葉を失った。


 「……言葉もない。魔王様の審美眼には恐れ入ります」


 「笑いたければ笑えよ」


 「滅相もございません。あなたは、今まで見た誰よりも気高く、美しい」


 ガープの真剣な言葉に、レオは照れ隠しにそっぽを向いた。


 「行くぞ。旦那様がお待ちだ」


 レオは深呼吸をして、重い扉の向こうへと歩き出した。

 新しい人生の幕開けへと。

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