第12話「英雄の休息」

 転移魔法によって一瞬で魔王城の寝室へと戻った二人は、ベッドへ倒れ込むように重なった。

 豪華な天蓋付きのベッドが、二人の重みで大きく軋む。


 「はっ……ぁ……ベリアル……」


 レオは我慢できずに相手の背中に爪を立てた。

 先ほどまでの勇ましい戦士の顔はどこへやら、今の彼はただ愛を乞う一匹のオメガだった。

 戦闘によるアドレナリンと、魔王への思慕、そして本能的な発情が混然一体となり、理性を焼き切っていく。


 「焦るな。夜は長い」


 ベリアルは余裕のある笑みを浮かべているが、その指先は震えるほどに熱を帯びていた。

 レオの衣服を乱暴に剥ぎ取り、露わになった肌に吸い付く。

 戦場でかいた汗の塩気と、甘いフェロモンの味が、魔王の独占欲を極限まで煽り立てる。


 「レオ、お前は美しい。戦う姿も、こうして余の下で喘ぐ姿も」


 「うるさい……早く……」


 「言葉使いが悪いな。もっと素直に強請ってみろ」


 ベリアルはわざと焦らすように、レオの敏感な部分を指の腹で執拗に弄る。


 「あっ、あぁッ。意地悪、すんな……」


 レオは涙目で睨みつけたが、その瞳は完全に潤みきっている。


 「早く、して……俺の中を、お前で埋めてくれ……」


 懇願するような声。

 それが決定打だった。


 「いいだろう。望み通り、余の全てをくれてやる」


 ベリアルは自身の雄をレオの入り口にあてがうと、一気に最奥まで貫いた。

 強烈な異物感に、レオの喉から声にならない悲鳴が漏れる。

 強烈な異物感と、それを上書きするほどの快楽。

 体内に入り込んだ魔王の一部が、脈打つたびに魔力を直接注ぎ込んでくる。


 「あ、あ、すごい……。魔力が、入ってくる……」


 「受け止めろ。余の力、余の愛、その全てを」


 ベリアルが激しく腰を振る。

 その動きは、戦場での猛攻を彷彿とさせるほど荒々しく、しかしどこまでも愛に満ちていた。

 サイズ差があるため、ベリアルが動くたびにレオの身体全体が揺さぶられる。

 小柄な勇者が、巨躯の魔王に覆い尽くされ、貪り尽くされる光景。

 それは暴力的なまでに背徳的で、けれど涙が出るほどに神聖だった。


 「ベリ、アル……愛してる……」


 「ああ、レオ……我が愛しき番よ……」


 何度も名前を呼び合い、何度も唇を重ねる。

 互いの存在を確かめ合うように。

 明日世界が終わっても構わないと思えるほど、二人は深く、激しく愛し合った。


***


 事後。

 気怠い余韻の中で、レオはベリアルの腕枕に抱かれていた。

 窓の外には、静寂に包まれた魔界の夜空が広がっている。


 「……なあ、ベリアル」


 レオが指先で魔王の胸板に文字を描きながらつぶやく。


 「なんだ?」


 「俺たち、これからどうなるんだろうな」


 人間軍を撃退したとはいえ、戦争が終わったわけではない。

 むしろ、勇者が魔王側に寝返ったことで、人間界の王はさらに狂気に走るかもしれない。


 「どうなるかではない。どうするかだ」


 ベリアルはレオの手を握り、その手の甲に口づけを落とした。


 「余とお前がいれば、恐れるものなどない。世界が我々を認めぬなら、認めさせてやればいい」


 「……お前らしいな」


 レオは苦笑したが、その言葉に救われた気がした。

 そうだ。悩んでいても始まらない。

 自分たちはもう、後戻りできない場所まで来ているのだから。


 「俺は、人間界へ行くつもりだ」


 レオは決意を込めて言った。


 「ほう? 故郷に錦を飾るつもりか?」


 「いや。王に会いに行く。この馬鹿げた戦争を終わらせるために」


 危険な賭けだ。

 下手をすれば、裏切り者として処刑されるかもしれない。

 それでも、行かなければならない。

 かつて守ろうとした人々が、王の暴走によって犠牲になるのを止めるために。

 ベリアルはしばらく沈黙し、やがて静かに頷いた。


 「よかろう。余も同行する」


 「えっ? お前が?」


 「当然だ。番を一人で敵地に乗り込ませるほど、余は寛容ではない。それに……」


 ベリアルはニヤリと不敵に笑った。


 「人間の王という奴の顔を、一度拝んでやりたいと思っていたところだ」


 魔王が動けば、それは全面戦争の合図になりかねない。

 だが、今の二人ならば、それすらも平和への布石に変えられるかもしれない。


 「わかった。一緒に行こう。俺たちの未来を切り拓くために」


 レオはベリアルの首に腕を回し、再び口づけを交わした。

 その夜のキスは、甘さの中に、鉄のような意志の味がした。

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