胸にすうっと溶け込んでいくような文学作品がある。優しい余韻を残していくような。
弁護士の瀬川奈緒は、敗訴という経験に胸を痛めていた。また、恋人にフラれ傷心を抱えていた」。
そんな折、健二と幼なじみの由里ともに伊豆諸島の新島を訪れることに。彼らをむかえるのは、民宿のオーナー・霧島照夫。ある朝、奈緒は霧島照夫の不可解な習慣を知る……。
弁護士という職業柄、奈緒はどこか機械的な心を持つ人物として描かれる。だが、奈緒自身は、何が悪いのかが分からない。どこか奇妙な古来よりの風習との出会いが、彼女の心を優しく変えていく。
描写にはリアリティがあり、島のゆったりとした風景を詳細にスケッチする。潮騒が耳に届き、トーストの甘い香りが漂ってくるかのようだ。
本作は、傷ついた女性が、柔らかな風景のなかで、希望を取り戻す物語である。きっと優しい余韻があなたのなかに残るだろう。