天才美少女に私の一番をぜんぶ奪われたんですけど!!
SEN
第1話 天才美少女あらわる
わたし、
いきなり何を言っているのかって?
定期テスト学年一位。体力テスト校内女子一位。先生生徒問わず圧倒的な支持を得る生徒会長。我が校初の全国大会優勝に導き、コンクールでいくつもの賞を取った華道部部長。もしそんな人物が居たら、あなたは何と呼ぶ?
改めて宣言しよう。わたし、狼谷一花はナンバーワンJKである!
2位 狼谷一花 883点
「へ?」
そんな私の鼻っ柱がへし折られたのは、二年生最初の中間テストのことだった。
〇〇〇
スマホのアラームと共に目を覚ます。いつのもように6時起床。ジャージを着て日課のランニングに向かい、帰宅後にシャワーを浴び、朝食を食べてから身支度を整えた。
「よし、今日も完璧」
鏡に映る美少女がパチンとウインクをする。肩のあたりまで伸びる黒髪に、ぱつんと整えた前髪。アクセサリーは飾り気のない黒いヘアピンだけ。校則に引っかからない優等生スタイルでも、私にかかれば地味ではなく清楚という印象が勝るようになる。この顔に産んでくれたことを親に感謝しつつ、素敵な笑顔で表情筋をほぐした。
「いってきます」
誰もいない賃貸物件にひとりごとを残し、自転車に乗って学校へ向かった。
東京の名門校、
「おっ、いちかだ」
「ぐっどもーにん」
「トラ子、すずめ。おはよう」
教室に入って自分の席に座り、出迎えてくれた二人と挨拶を交わす。この二人は
「今日も元気か?」
「もちろんよ。体調管理だって完璧なんだから」
背が高くてお腹が引き締まったモデル体型な虎徹は、男女問わず人気があるモテモテガール。名字と名前に虎が入っているからトラ子って呼んでる。実は地毛らしい茶髪に着崩した制服という見た目で、一見不良っぽいけど、気遣い上手な優しい子だ。
「努力は大事。でも、休息はもっと大事」
「すずめはだらけたいだけでしょ」
きめ細かい銀髪を輝かせるすずめは、小さな体がお人形さんみたいに可愛くて、言葉遣いが特徴的な不思議ガール。ふわふわした可愛らしい声は、まるで小鳥のさえずりのようで癒される。
田舎と違う事ばっかりで大変だった中、私が東京でやっていけたのは、シティーガールの二人がいろいろ教えてくれたおかげだ。
「それより一花、大ニュースだぜ」
「転校生、来たる」
そんな二人は私の席を囲むように前に立つと、目を輝かせながらそんなことを言った。
「転校生って、わざわざそんな騒ぐことじゃないでしょ。クラスメイトが一人増えたところでどうでもいい」
転校生が特別だなんてフィクションの中だけだ。何かしらの事情で後からこの高校に入学したというだけで、私たちと同じ高校二年生。そんなどうでもいい人間に意識を割く暇なんてない。
「そんなことより、ホームルームまで勉強するけど、二人も一緒にどう?」
「うひゃー、流石一花様だ。ストイックだねー」
「退散、避難」
カバンから参考書を取り出して見せると、二人は離れていった。相変わらず勉強のお誘いには乗ってくれないみたいだ。明日には中間テストだというのに。赤点を取るほど二人はバカじゃないけど、あの様子を見るといつも心配になってしまう。
まぁ、二人がどうあろうと私のやることは変わらない。今回も一位を取るために勉強あるのみだ。
「おーい座れー。ホームルーム始めるぞー」
先生に促されて、おしゃべりをしていた同級生たちが自分の席に戻っていく。しかし、転校生のせいだろうか、話し声は止まなかった。
「はい、おはようさん。今日のホームルームですが、まぁ、皆さんが気になってることからいきますか。さっそくですが、入ってきてください」
先生が教室の扉に向かってそう言うと、バンと勢いよく扉が開け放たれる。居眠りをしていた生徒も、私みたいに興味がなかった生徒も、その轟音によってクラス全体の視線が扉の先に向けられた。
「たのもー!!」
ここは道場じゃありません。あまりにも元気のよい声にそんなツッコミをしかけて引っ込める。堂々とした登場を見せつけた転校生はそのままずんずんと前に進んでいき、黒板に勢いよく文字を書き始めた。そして文字を書き終えると、すでに注目の的である彼女が、注目と言うように黒板を叩いた。
「あたしは天才美少女、
太陽のように眩しい笑顔で彼女はそう宣言した。天才、私の嫌いな言葉。初対面の集団を前にそう宣言できる強心臓は評価するけど、それは世界を知らない子供が使う言葉だ。
天才なんていない。積み重ねた努力のみが結果に結びつく。努力を惜しまずに一番を取り続けて証明してきた私の人生哲学。初対面だけど、私は彼女が苦手だ。
「あー、はい。ありがとうございます。みなさんも仲良くやってくださいね。はじめさんの席はあそこなんで、座ってください」
「はーい」
先生が私の後ろの空席を指さし、華猫さんが席に座った。うわぁ、まじか。
「よろしくね!」
「えぇ、よろしく」
苦手意識は顔に出さず、にこやかに対応する。私はナンバーワンJK。人付き合いも完璧にこなすのだ。
「天才美少女ね……」
腰まで伸びた長い金髪は夜空に浮かぶ星のように輝き、琥珀のように深みのある橙色の瞳はつい目で追ってしまうほど綺麗だ。きめ細かい肌は触れればふわりと沈むくらい柔らかそうで、すれ違った瞬間に香った甘い匂いはミツバチが飛んでいる花畑を思わせる。至近距離で見た彼女は確かに整った顔立ちをしていた。美少女という部分は合っているかも。そんなことを思いながらひとり言をこぼした。
あんな派手な登場をしたからか、単に可愛いからか、休み時間は後ろの席が騒がしかった。クラスのみんなは明日のテストも忘れて華猫さんに質問攻めをして、華猫さんも楽しそうにそれに答えている。もっと集中して勉強したいけれど、彼女がクラスに馴染めたのならいいかと自分を納得させた。
そして、次の日から中間テストが始まった。常日頃から勉強を欠かさない私にとって、この程度のテストはお茶の子さいさい。今回も変わらず学年一位だと確かな手ごたえを感じながらテストを終えた。
2位 狼谷一花 883点
「へ?」
休みを挟んで次の週。貼りだされた順位表を見て、間抜けな声が漏れる。そんな馬鹿な。ありえない。この高校に来てからずっと私は一番だった。二位なんて、こんなの知らない。いい点が取れた手応えだってあったし、ちゃんと高得点だった。古典と英語と世界史は満点だった。それなのにどうして私は二位なんだ。いったい誰が私の一番を奪ったんだ。
「わーい! いちばーん!」
その答えは、私が自分の名前の上を見るより先に聞こえてきた。ムカつくほど無邪気な喜びの声。鈴の音が鳴るような悔しいくらいに綺麗な声の主は、華猫はじめだった。
1位 華猫はじめ 894点
11点差。ギリギリ上回られたとかじゃない。ちゃんと差をつけられての敗北。それがさらに私のプライドを傷つけた。
「はじめちゃんすごい! 狼谷さんに勝っちゃったよ!」
「ふふん、とーぜんでしょ。あたしは天才なんだから」
クラスメイトに囲まれて自慢げに胸を張る彼女が、私の嫌いな言葉を口にする。ムカつく。ムカつくムカつく!
負けるなんてあり得ない。私の努力は絶対だ。たゆまぬ努力で勝ってきた。天才を自称する人間に負けたままなんて許せない。
「華猫はじめ!」
「およ? 怖い顔してどーしたの?」
怒りに任せて華猫さんに詰め寄る。自分らしくないほど声を荒げてしまって、よく知らない人間にこんなことをされたら普通なら萎縮しそうなものだが、華猫さんは気の抜けた顔を崩さない。私を敵だとすら思っていない態度が、燃え上がる対抗意識に薪をくべた。
「私と勝負しろ!」
「しょーぶ? 勝負! 本当に?! やろやろ!」
呑気な顔をしている華猫さんにびしっと指をさし、白昼堂々勝負を仕掛ける。そんな私の宣戦布告になぜか彼女は目を輝かせ、前のめりに私の手を取ってすぐに勝負を受けた。こんな反応が返ってくるのは予想外で、仕掛けた私の方が逆に面食らった。
私が言うのもなんだけど、こんなの二つ返事で了解しないってふつう。華猫さんの反応で私の脳天まで吹き上がっていた血が下りてきて、周囲を冷静にみられるようになった。派手に騒いだから、テスト結果を見に来た生徒たちの注目が集まり、清楚な生徒会長で通っている私が取り乱した姿に困惑している。やばい、やらかした。ナンバーワンJKとして積み上げてきた私のイメージが……。
「ねぇねぇいちかー。どうやって勝負するのー?」
「え、あぁ、勝負、勝負ね……」
「え? もしかして勝負しないの……?」
「するよ! するから、ちょっと待ってて。いまどうやって戦うか考えてるから」
冷静になったせいで目の前のやる気満々の華猫さんの熱意に即答できずにいると、彼女の目はみるみる潤んでいって、泣き出す前に慌てて弁明した。
「ほんと! なんでもいいからね! あたしは天才だから!」
私の返答ですぐに涙は引っ込んで、キラキラと自信満々の笑顔を見せてきた。仕掛けたのは私なのに、完全に彼女のペースだ。くそう。私の一番を奪った憎たらしい奴のはずなのに、コロコロと表情を変える彼女が可愛いとすら思ってしまった。
「決めた。勝負の内容は──」
でも、負けるわけにはいかない。やるからには必ず一番だ。
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