本作は、巨大なシステムの末端に生きる一人の青年が、正しさと優しさの決定的な乖離に直面し、もがきながらも自分の足で立つまでを描いた重厚なヒューマンドラマです。
驚かされるのは、世界観の解像度の高さです。
聖騎士団の白い回廊の冷たさ、ラステンの村に灯る遺物のオレンジ色の温もり、そして冬が近い空気の匂い。
五感に訴えかける瑞々しい描写が、読者を一瞬で物語の内側へと引き込みます。
特に音と光の使い方が見事で、静かなシーンほど、登場人物の心の鼓動が伝わってくるような臨場感がありました。
静かな筆致の中に、激しい意志の炎が宿っているような作品でした。
読後、どこか遠い荒野で歩き続ける一人の男の足音が聞こえてくるような、深い余韻に包まれます。