第8話 人と魔物
他の冒険者の戦闘を見てから、何度目かの戦いを終えると、ようやく二階層へ繋がる階段が見えてきた。
そしてここも初心者ダンジョンと同じで、階段の近くには多数の冒険者が休憩していた。
図書館で調べた情報によると、モンスターは階層を移動できないため、よほどの時は階段に逃げ込めば助かるとのことだった。
だから皆、ここに集まるのだろう。
この辺りはゲームと同じだったので、親切設計だなーとラシアは感心する。
今回は苗木のダンジョンの様子見だったので、二階層には行かず、このまま来た道を戻るつもりだ。だから階段近くにはとどまらず、別の方向へ歩き出す。
休憩中に話しかけられても困るからだ。
ただ、階段近くで休憩している冒険者達を見て思うことがある……どうにも、胸がざわつく。昔ネットミームで見た、あれだ。
……そんな装備で大丈夫か?
大丈夫だ、問題ない。と言えそうな者は、ラシアがぱっと見た限りでは思ったよりいなかった。何というか、先ほどのドッグマンと戦っていたパーティーと同じで、ここに来るには早いように思えた。
(かといって……知らない人に「ここはまだ早いから初心者ダンジョンに戻った方がいいのでは?」なんて言えないしな。……どんな煽りだよ。まー、モンスターの行動も違うし、最適化されたPTの戦い方があるんだろう)
人には人の、自分には自分の戦い方、生き方がある。ラシアのステ振りも似たようなものだ。他人にどうこう言われる筋合いはない。
実際、初心者ダンジョンより苗木のダンジョンの方が稼ぎは良い。ボスは倒していないが、ドロップなどを考えれば、初心者ダンジョン踏破時の半分近くは稼いでいるはずだ。
それに彼らも、あれだけ人数がいれば帰る時に一緒に戻れば問題ないだろう。
人は夢を見て、夢に死ぬ生き物。
ラシアは、やっていたスマホゲームの言葉を思い出す。
「……まーお金を稼ぐのも夢の一つだよな。私がおうちに帰りたいのと同じか。私は死んだら帰れないから無理しないけど…………あれ?」
死、という言葉を口にしたことで、ラシアはもう一つ思い出した。
ゲームの仕様…………モンスターのレベルアップだ。
ラシアがゲームで通っていたような高難易度ダンジョンでは、モンスターのレベルは最大値に固定されているため問題はない。
だが……ゲームの仕様と同じなら、モンスターはプレイヤーを倒すことでレベルが上がる。
例えばマウスマンがプレイヤーを倒すとラットマンになる。だがマウスマンがラットマンになったところで、脅威はたかが知れている。
問題は進化回数が少ないモンスターだ。
レベル1のモンスターはプレイヤーを一度倒せばレベル2になる。レベル2から3に上がるには十回必要、といった具合だ。
マウスマンの進化は、マウスマン→ラットマン→グレートマウスマン→マウスマンナイト→キングマウスマンと続く。
だがマウスマンがキングマウスマンになるには、合計で百回近くプレイヤーを倒さなければならない。現実的ではない。
だから危険なのは、進化回数が少なく、すぐに上位種へ到達できるモンスターだ。
ドッグマン→ウルフマン→Mr.フェンリル。
こういう系統が問題になる。
Mr.フェンリルはラシアが通っていた高難易度ダンジョンに出現する魔物で、相当強い。
ドッグマンは一回。
それだけでウルフマンになる。ウルフマンからさらに十回倒せばMr.フェンリルだ。
特にドッグマンからウルフマンへの進化は危険だ。中級ダンジョン級の強さになるため、初見ではまず勝てない。
ゲームではこの仕様を利用し、サブキャラや仲間に頼んで意図的に進化させてから狩るという方法もあった。大量の経験値が入るからだ。
だがここが現実なら、この階層にいる冒険者ではまず勝てない。
ただしゲームでは、一日経過すれば適正階層にいない高レベルモンスターは消える仕様だった。初級者向けのダンジョンに高レベルモンスターが居座っていては、狩りにならないからだ。
「倒したモンスターの死骸が消えるのも一日だから……その辺りも、もしかしたらゲームと同じなのか?……というか、よく考えたらグランドドラゴンが人を喰ってクエイクドラゴンに進化していなかったから、ゲームの仕様とは違うか」
本気で進化するなら、冒険者ギルドももっと注意喚起するだろうとラシアは考えた。ただ、何か気持ち悪い感覚だけが残った。
そして、そういう悪いことほどよく当たる。呼びましたか? と言わんばかりにだ。
ラシアの耳に、犬の遠吠えのような鳴き声が届く。
この世界に来た時に倒したクレイハウンドによく似た声だ。ドッグマンは吠えない。
そういう行動もあると言われればそれまでだが……ラシアは走った。
違ったなら違ったで、ただの笑い話だ。
そうじゃないと分かっているから。
近づくたびに、気配というか圧力が変わる。
途中で泣きながら逃げる魔法使いとすれ違ったが、無視する。
悪いことほどよく当たる。本当のことだ。
ラシアが辿り着いた先は、凄惨な場所だった。
誰が見ても分かる。冒険者達が死んでいた。
胴は頭から外れ、壊れた玩具のように手足が転がり、血肉が飛び散っている。
その中心にいたのは、鳴き声の主――ウルフマンだった。ラシアを警戒しながら肉を喰っている。
吐きそうになるが、すぐに生きている者を探す。
ラシアが影から見ていた冒険者は二人とも死んでいる。他に倒れている冒険者が四人、喰われている体が三つ。腹を切られ、かろうじて生きている者が二人。顔は青く、もう長くはなさそうだった。
ラシアはすぐにアイテムバッグへ手を入れ、最上位の回復薬を取り出すと、生きている二人に投げつけて即座に回復させ、大声で叫ぶ。
「死にたくなかったらさっさと逃げろ!!」
急に怪我がすべて治り、冒険者達自身も意味が分からない様子だったが、LV100のラシアの圧力に命の危険を感じたのか、二人はすぐにその場を離れた。
「さっきの魔法使いも、よく逃げてくれたよな……もう少しでMr.フェンリルになってたぞ」
最上位に進化してもラシアなら倒せる。だが……フル装備での話だ。現状の軽装とメイスでは勝てない。
聖銀鋼の装備を見られて大公の娘に――というより、自分の強さを知られる訳にはいかない。かと言って、ここで戦っている初級冒険者を見殺しにもできない。
どちらかを天秤にかけるなら……ラシアは、もしかしたら見殺しにする方を選ぶかもしれない。
自分が大事だからだ。自分が嫌いになるような選択は……選ばない方がいい。
ウルフマンなら、冒険者ギルドで見かける上位装備の者なら倒せる。Mr.フェンリルよりは遥かに弱いし、目立たないはずだ。
それぐらいなら「少し強い冒険者」で話は終わる。
だから、目の前のウルフマンは確実にここで殺す。被害が増える前に。
本人も獲物を取られて、ラシアにご立腹だ。逃げる心配はなさそうだ。
誰が見ているか分からないので、ハンマー系の武器も聖銀鋼の鎧も使えない。使う必要もない。
「……ギガンテックハンド」
ラシアの腕が巨人のように大きくなり、右腕を守っていた軽装は圧力に耐えきれず、ぶちぶちと引き千切れる。
ラシアは怒っているのだろう。それが何に対してかは分からない。
そしてウルフマンよりも速く接近し、力いっぱいメイスを叩きつけた。
だがメイスは当たる前に耐えきれず曲がった。
結果、殴るような形になったが――……ウルフマンは一撃で圧死した。
大きくなった手には、とても気味の悪い感触だけが残った。
壊れた鎧もメイスも元には戻らない。だが大きくなった手は効果が切れ、元に戻る。
ラシアは亡くなった冒険者達に手を合わせた。
血肉の匂いが気持ち悪い。だが死者の前で吐くようなことはしたくないので、ラシアは我慢する。
そして亡くなった者達をできる範囲で丁寧に並べて寝かせながら、思う。
人の血とモンスターの血は見分けがつかない。モンスターの肉を切って魔石を取り出す時も、暖かい。
モンスターも生きている。
人とモンスターの違いは何なのだろう。
モンスターを倒し、魔石を手に入れなければ人は生きていけない。
生きるために狩っているのなら、それはモンスターも同じなのだろう。
「もしかしたら、人もモンスターもあんまり変わらないのかもしれない」
そんなことを考えていると、すれ違った魔法使いと、ラシアに助けられた二人が応援を呼んで戻ってきたところだった。
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