第7話 苗木のダンジョン
ラシアは、少しだけ慣れた冒険者ギルドで数ある依頼を眺めていた。初心者ダンジョンを踏破し、苗木のダンジョン――通称、初級ダンジョンに入るためだ。
ゲームの設定と同じなら、広さはだいたい初心者ダンジョンと同じだが四階層になり、出てくるモンスターが少し強くなっているはずだ。
最初の頃に行くダンジョンなど長い間行っていないので、ある程度しかモンスターのことは覚えていなかった。
だから依頼を見て、素材の納品内容からどんなモンスターがいたかを思い出していた。
(そういやドッグマンとかいたな。あとは遠距離攻撃してくるラビットマンとかいたし……まだ昆虫系とかスライム系はいなかったと思うんだよな)
依頼にはラビットマンの弓の納品を望むものや、バトルゴートの角と毛皮の納品などが書かれていた。
初心者ダンジョンでモンスターの行動がゲームと違うことは学んだ。後に控える中級や上級を踏破するためにも、初級ダンジョンではゆっくり時間をかけて学んでいこうとラシアは考え、ポータルの列へ並んだ。
ポータルに並んでいる、なぜか冒険者になったばかりであろう男性たちにラシアはちらちらと見られる。特に何も悪いことはしていないのだが、街にいる時でもたまに視線を感じることがあった。
自分の装備を確認するが、特に周りと変わりはないように思える。でっかいハンマーを持っているわけでもないし、フルプレートに身を包んでいるわけでもない。女性の冒険者も多い。何か悪いことでもしたのかなーと少し怖くなるが、気にしても仕方がないと諦めた。
(武装した人間に話しかけるほどの勇気は私にはない!)
そんなことを考えていると、ようやくラシアの番がやってきたので中へ入る。基本的にこのポータルから繋がるのは初心者ダンジョンと、ラシアが向かう苗木のダンジョンだ。
他の街へ行きポータルに入れば、こことも繋がり別のダンジョンや街にも簡単に行けるようになる。冒険者が多いのもそういう加減だ。
宿屋の親父に聞いた情報だと、この街は少し治安が悪い分税金が安いので、ここをメインに活動する冒険者も多いとのこと。他の街だと治安は良いが二〇~三〇%の税金はざらにあるらしい。
治安の良さを取るか、お金を取るかは人それぞれだ。
新しい街へ行き新しく人付き合いを始めるくらいなら治安が悪くてもいいかなーとは思うが、日本に住んでいたことを考えると治安は良い方がいいので悩むところだった。
そして前にいた若い冒険者がポータルに入って消えたので、ラシアも後に続く。行き先を考えながら入るとそこへ行けるらしいので、「苗木のダンジョン」と呟きポータルをくぐった。
光が体を駆け抜ける。
目を開けると、初心者ダンジョンの草原地帯ではなく森林地帯のダンジョンが広がっていた。
森の優しい匂いと、聞いたことのない鳥の声が聞こえてくる。
そして、もう一つ気になることがあった。それは、サーバーのように入れる人数が決まっていて、この苗木のダンジョンも複数存在しているのでは? という事だ。
この広さに対して冒険者の数が少ないからである。初級や中級になりたての冒険者がここに来るはずだが……全員がいるにしては明らかに数が少ない。
初心者ダンジョンの時もそう感じていた。ただ他の街やダンジョンに行っている可能性もあるし、階層が違う可能性もあるので断定はできない。
「まー一階層東京ドーム一・五~二個分くらいの広さで、戦闘しながら進むんだから人と会わないと言えばそんなもんかもしれない。ここだと草木も生い茂って縦もあるし」
そう言ってラシアは崖や木を見上げ、辺りを警戒しながら進んでいく。
少し進むとガサガサと音がした後、ラシアめがけて大型犬が二足歩行になったようなモンスター、ドッグマンが飛び出してきた。
強さは初級ダンジョンで戦ったボスのラットマンと同じくらいだが、こちらは簡易とはいえ槍を装備していてリーチがある分、厄介だ。
迂闊に槍を振り回せば周りの木々に当たる。ドッグマンもそれを理解しているのか、ラシアに向かって突き攻撃を繰り返し、意識がそちらに向かった頃を見計らって足払いをしてくる。
戦闘経験はほとんどないが、体のおかげでドッグマンの攻撃は見切ることができる。少し余裕もある。だからこそ、後ろの崖から聞こえた音も拾えた。
風切り音と共に矢が飛来してくる。難なくそれを躱し、メイスで先にドッグマンを潰す。
そして崖の上に目を向けると、ドッグマンをウサギにしたようなラビットマンがいた。大きさも同じくらいだが、顔はウサギで大きな耳と弓が特徴的なモンスターだ。
メイスではハンマー系の遠距離攻撃は使えないので、下に落ちている石を拾い、野球のノックのようにラビットマンへ向かって打つ。
「ラシアホームラン!」
メイスに石が当たった瞬間に砕け、その勢いのままショットガンで撃ったかのように蜂の巣にする。空に向かって打ったくらいなら他の冒険者に当たる心配はないだろう、と思ってのことだった。
倒した魔物の魔石を回収する。この作業だけは何度やっても慣れないなと嘔吐きながら抜き取る。
崖にも登り、上で蜂の巣になったラビットマンからも魔石を回収しながら少し思うことがある。
ゲームと違いモンスターの行動の自由度が高い。それを強く感じる。
下手をすれば、遠距離に対抗する手段がなければ今のように上から一方的に攻撃される。
ラシアは幸運なことにゲーム時のステータスそのままなのでまったく問題ない。だが初心者ダンジョンを出たばかりの者がこちらに来て狩りをできるのかという話だ。
「うーん……PT組むにしても、一人でラットマン倒せるくらいじゃないとしんどくないか? ギルドに講習とかあったしPT募集とかもあったから行けるのか?……ダンジョンから緊急脱出するアイテムはゲームにはあったけど……こっちにもあるのか?」
そんなことを考え、ゲームの仕様も思い出しながら先へ進む。ドッグマンにラビットマン、草木に擬態している植物型の魔物ペンシルラベンダーなどを倒し進んでいくと、近くで戦闘音が聞こえた。
こちらの世界に来て、冒険者の戦闘をまともに見たことがなかったので、気付かれないようラシアは音のする方向へ近寄っていく。
すぐに音の主は見つかった。三人PTで二体のドッグマンと戦っている。一人は大きな盾と小さなメイスを持つタンク型。もう一人は両手剣を持つ剣士。もう一人は背後から魔法を使う魔法使いといった構成だ。
近くに他の敵の気配もないので、静かにラシアは戦いを眺める。
「ハイテックハンド!」
盾とメイスを持った男の腕に力がみなぎり、ドッグマンの突きを難なく受け止め、即座にメイスで反撃する。直撃はしなかったが少しかすったようで、剣士が続いた。
「ソードスラッシュ!」
振り下ろされた両手剣はドッグマンの足を切り裂き、行動の自由を奪う。
「今だ!」
その声に合わせて魔法使いが呪文を唱える。
「ロックバレット!」
いくつかの大きな石が倒れたドッグマンの頭上に現れ、降り注いだ。
「よし! 残り一体だ、油断するなよ!」
盾を持った男がリーダーなのだろう。仲間に指示を出し、問題なく残りのドッグマンも倒した。
「これくらいなら問題ないな。もう少し狩っていこう」
「ああ、遠距離にも魔法使いがいれば問題ないしな」
誰も反対意見はないようで、ラシアよりも手際よく魔石や残った装備を回収し獲物を求めて別の場所へ向かっていった。
そんな彼らを眺めながら、ラシアは思う。
大丈夫か?
決してPTを組んで羨ましいとか、そういう妬みではない。
連携は問題ない。ただゲームならレベルが足りていない感じに思えた。特に最初に使っていたハイテックハンドだ。あれはラシアの使うギガンテックハンドの最下位のバフだ。
ハイテック、オークテック、オーガテック、ギガンテックと続く。全部取るのは大変だが、オークテックはLv10で覚えられる。ハイテックは5だ。
この苗木のダンジョンの適正Lvは12。MP温存だったと言われればそれまでだが……剣士にしろ魔法使いにしろ、Lvが足りていない気がした。
「うーん。ドッグマンは地属性なのに地属性の攻撃してるし、そういうスキル取りか? まあ中級とか行けば特化してる方が強いから地属性特化にしてるかもしれないけど……わからん」
まあ初心者講習とかあったみたいだから大丈夫だろうとラシアは考え、彼らとは逆の方向へ歩いていった。
ラシアのような上級になると忘れられる。というより意味がなくなる設定があった。
ダンジョンに出現するモンスターには、初心者殺しの設定が――
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