第188話 再会

「お前はいっつもいっつもウチらになんか恨みでもあるんか!? このクソ忙しい時にコアラの王様を召喚したと思ったら、次は妖精の女王か! しかもちょっと片づいたとこやのに水浸しやんけ!」


 ティーガーがブチ切れているのには理由がある。というか何なら……宝物庫へボスモンスター名鑑を探しに来た騎士と聖騎士の殆どがブチ切れている。もちろんパルサーもだ。


 怒るどころか爆笑しているのはデゴットとキングぐらいで、リレッサとロディーはメイド達に髪を乾かしてもらいながら、とても困った顔をしている。


 そして新たにこの場へ加わったのが、ティーガーも言っていた妖精女王のフェリスロステだ。


 どうしてこんなややこしいことになっているのかというと……フウコウが右手と両足の下にあったボスモンスター名鑑から、三体を同時に召喚したからだ。


 キャプテン・ドレイク。シャークムーン。そして……妖精女王であるフェリスロステだ。


 フェリスロステは敵対しなかったが、残る二体とは召喚と同時に戦いが始まり、初手はシャークムーンのムーンウェイブだった。


 その魔法はゲームでは、戦闘エリアを水で満たし、水属性が有利になるフィールドへ作り替える魔法だ。


 その効果で宝物庫は水浸しになった。ただ、シャークムーンもキャプテン・ドレイクもフウコウのクランが倒せる程度の実力だ。騎士団と聖騎士の精鋭に加え、リレッサとキングまでいるこの場所では、濡れる以外の脅威にはならなかった。


 キャプテン・ドレイクはキングにほぼ一撃で倒され、シャークムーンもリレッサの支援を受けたデゴットやロディーによって一瞬で倒された。


 そして現在に至るわけだが……急に召喚されたフェリスロステも少し困惑している。


 フェリスロステは妖精達とテレパシーのようなものでやり取りできるので、街にいる妖精のことは心配しなくてもいい。だがそれでも、自分の意思とは関係なく強制的に召喚するアイテムが存在したことには驚いていた。


「一月にも満たぬ間に……また貴女達に会えましたが、騒がしいところは本当に変わりませんね」


「女王陛下。騒がしいのは認めるけども、そこの猫怪人と同列に思われるのは……人類に対する冒涜やで!」


「んなことはないにゃ!」


「お前は黙っとけ!」


 ティーガーとロープでぐるぐる巻きで正座中のフウコウを放っておき、フェリスロステはリレッサへ向き合った。ローウェンテニアの王女であるリレッサに挨拶をするためだ。


 妖精の国はローウェンテニアから遠く離れているが、この神童の噂はそこまで伝わっていたからだ。


「初めまして。リレッサ・ロード・ローウェンテニア王女。私はフェリスロステ。妖精を統べる者です」


「貴女のことは聞いています。ですが、私が王女だった国はもう滅んでいるので、王女ではなく町娘のリレッサと思ってもらえればと思います」


「分かりました」


 フェリスロステは微笑むが、内心ではよく言うと思っていた。


 彼女からは友であるラシア・ラ・シーラと同等の圧を感じる。確かに純粋な攻撃力なら、ラシアの方が遥かに上だろう。それでも魔力に関しては、目の前の少女の方が圧倒的に上だ。


 その上、近くにはローウェンテニアの赤虎までいる。敵対する素振りはないが……フェリスロステから見ても、油断できる状況ではない。


「それで? 私が呼ばれたこの状況を詳しく教えてもらえますか?」


 顔見知りであるキングやティーガー達が説明しても良かったが、この場所の責任者であるデゴットが一言詫びを入れてから、フェリスロステへ説明した。


 説明には少し時間がかかったが、全てを聞いたフェリスロステは「なるほど」と頷いた。


「事故のようなものなので、その猫の獣人を罪に問うつもりはありません。ただ一つ、ボスモンスターではない私がどうして呼び出されたのかは疑問ですね。そもそも私は妖精であり、モンスターではありません」


「そこに関しては女王陛下には悪いが……こちらも分からんとしか言えん。ボスモンスター名鑑というアイテムの存在を知ったのも最近のことだからな。しかも今は、事情を知っていそうなラシアもいない」


「なるほど……分かりました。それに関してはラシアに聞いた方が良さそうですね。私も王都まで同行させていただきますが、よろしいですか?」


「ああ、構わん。陛下が妖精の国を建国したと聞いているのでな。我が国としては賛成する意向であり、話をしたいと思っていたところだ」


「こちらとしても人の街などを見たいと思っていたところなので、話し合いの場は助かります」


 もう少しこの場を調べた後、フェリスロステを連れて王都へ戻ることが決まった。


 妖精の強さを知っているパルサーやラオメ、レクトアには、フェリスロステを王都へ連れて行って大丈夫なのかという不安があった。だが、いつかは話し合いをしなければならないことも間違いないため、複雑な心境だった。


 そこで今まで静かにしていたキングが、魔法を使ってボスモンスター名鑑を探せないかとフェリスロステへ尋ねる。


「できればこちらとしても楽に探したいのでな。女王よ、何かその手の魔法はないのか?」


「はぁ……獣の王よ。魔法とはそこまで便利なものではありませんよ。私の記憶にある物なら探せますが、ボスモンスター名鑑は見たことがありません。ですが、少しやってみましょう。この中でそのアイテムを見たことがある者は?」


 全員の視線が、縛られているフウコウへ集まった。フウコウは慌てて拒否する。


「絶対になんかやばい感じがするにゃ! 女王、騙されたら駄目にゃ! こいつら全員、早く帰りたいだけにゃ!」


「そらそうちゃうか? やることやったら、ささっと帰りたいやろ。女王陛下。フウコウの首が取れるぐらいやったら何してもええさかい、パパッとやったって!」


「首は取り外し不可にゃ!」


 暴れるフウコウを無視してフェリスロステがその額に手を載せると、バチッと電気のようなものが流れた。


「にぎゃーーー! むっちゃ痛いにゃーーー!」


「なるほど……これがボスモンスター名鑑というアイテムですか」


「ホンマに痛い時って声出ぇへんから、大丈夫そうやな」


「ティーガー! お前覚えてろにゃ!」


「やったの女王陛下やんけ!」


 そのままフウコウとティーガーが喧嘩を始めたので、フェリスロステは無視して魔法の詠唱を始める。


 すると小さな魔法陣が幾つも現れ、地面を這うように辺りを移動し始めた。


 五分もすればエリア内を魔法陣が動き回り、最後には消えていった。


「女王よ、今のは?」


「私が想像した物を追跡し、破壊する魔法です。威力はとても低いですが、ここにボスモンスター名鑑があれば反応するはずでした。何も起きなかったので、誰かが隠し持っているのでなければ、このエリアにはもうないでしょう」


「とのことだ。騎士団長よ。信じるか信じないかは貴殿次第だが、もうないとのことだ」


「分かった。一つぐらいは現物として欲しかったところだが……ない方がいいしな。撤収だ、撤収。女王陛下を信じて王都で話し合うと言っているのに、ここだけは信用しないというのも話にならん。それに、こっちもずぶ濡れだから早く帰りたい」


「父さん。分かったが、フウコウはどうする? 危険なアイテムを勝手に使用したが……」


「個人的には危険なアイテムを、ほぼ無害な形で使用してくれたからな。言うことはないが……お前が気に入らんって言うなら、ここに置いて帰るか?」


「うーむ……そういう見方もあるか」


「それがええな! 置いて帰ろや!」


「やめろにゃ! ちゃんと連れて帰るにゃ!」


 放って帰るのもそれはそれで面白そうだと皆が思ったが……連れて帰る方向で決まり、フウコウの縄がほどかれた。皆も宝物庫を後にする。


 ローウェンテニアの城内を歩いていると、モンスターの騎士達は相変わらずリレッサに遭遇するたび、膝をついて頭を垂れていた。


 だが、フウコウとキングには空気というか、気配が来た時よりも重く感じられた。


「にゅうん? にゃんか来た時より空気が重く感じるにゃ」


「うむ。怪人と呼ばれていても、さすがは獣人であるな。この感覚は人には分からんであろう」


 リレッサやパルサー達も何となく違和感を覚えていたが、それが何かと問われると説明の難しい感覚だった。


 そして……近くに冒険者のパーティーが見えると、キングは即座に接近してその冒険者達を叩きのめした。


「にゃ! キング、何をしてるにゃ!」


 フウコウが慌てていると、キングは冒険者達の兜を剥ぎ取って話しかける。


「はっはっは。上手く人間に化けたようだが……我を騙せると思ったか? お前達にやられたことを我は忘れておらぬのでな。加減などはせん」


 キングの攻撃によってすでに絶命していたが……兜の下から現れたのは、冒険者に化けていた天使達だった。


 仲間が倒されたことに気づいたのか、ほかの場所を調べていた天使達も次々とこの場所へ集まり始めた。


「ほんまや! こいつら全員、天城ダンジョンにおった天使やんけ!」


 天使がローウェンテニアにいる理由は一つしかない。デゴット達と同じく、ボスモンスター名鑑を探していたのだ。


 ほかの場所でボスモンスター名鑑を見つけたかどうかは不明だが、天使達を倒す以外に選択肢はない。すぐさま戦闘となり、集まった天使達は一人残らず倒された。


 出口のポータルへたどり着くと、デゴットがフェリスロステに詫びを入れる。


「こちらとしては妖精達と争うつもりはないが、会談まで少し時間が欲しい。遭遇した天使のこともあるのでな」


「分かりました。こちらも気になることが多いので、我が友であるラシアと話をしておこうと思います」


「分かった。本来ならそれ相応の部屋を用意するところだが……準備ができ次第、使者を送るので少し待っていてほしい」


「分かりました」


 リレッサがローウェンテニアの兵士達に自分は戻ると伝えると、メイド達は静かに頭を下げて戻っていき、兵士達も静かに持ち場へ帰っていった。


 その後、全員がポータルを抜けて帰還した。


 一方、冒険者ギルドに頼まれて閉じ込められた者達の救助に協力していたラシアは、夜になって宿へ戻った。


 すると……妖精の女王フェリスロステがティアと遊んでいた。ラシアはその光景にとても驚いた。


「なぜ……帰ってきたらフェリスロステがいるのか、誰か簡単に教えてほしい」


 フェリスロステの護衛としてついてきているティーガー、パルサー、ラオメ、レクトアは声をそろえて、こう答えた。


 フウコウのせいだと……。

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