第142話 次に備えて

 目的のアイテムが出たので、ラシア達LLLは街へと帰還した。


 もう少し簡単に出るかと思っていたが、思った以上に出なかったというのが感想だ。


「お帰りなさいませ。ラシアさん。記入された予定通りですね。ラシアさんはダンジョンから戻ったら魔石を出すことが多いですが……狩猟祭中なので、アイテムが大量にあるようなら別の部屋で精算しますが?」


 この場所でも良いと思っていると、ティーガーが少し助言をしてくれた。今回の場合は未開拓の場所だから、確実に別の部屋でやった方が良いと。


「ちょっと手間かかると思うからなー」


 こればっかりは仕方ないので、いつもの受付嬢に別の部屋で精算することをお願いすると、少し意外な顔をされる。


「ラシアさんって、騎士団や聖騎士の方々ともお話できたんですね」


「……あのですね。そんな私が全然人と話をしないみたいな言い方しますけども、話ぐらいしますよ? 冒険者ギルドでも他の職員さんと話ぐらいしているでしょう?」


「サラッと嘘つくのやめてもらっていいですか?」


 さすがはいつもの受付嬢だけあって、簡単に嘘を見抜いてくるなと思っていると、クランメンバー達からはなんとも言えない顔をされた。


 今回行った所は未開拓エリアなので、騎士団や聖騎士がいた方が話が早いだろうということになった。そのためティーガーとラシアが冒険者ギルドに残り、他の者達は宿へと帰還することになった。


 そして別の部屋へ行って精算するのだが……ティーガーが言ったように本当に大変だった。未発見のエリアに加え、二体のボスやその他のモンスターにも未発見のものが多かったからだ。


 お土産以外はギルドに提出し、全てが終わる頃には数時間ほど過ぎていた。


「こんなに時間かかるとは思わなかった。前に箱船ダンジョンに行った時は、パルサーさん達が手続きやってくれたのか……」


「そやろな。ウチは行ってへんけど、未発見のダンジョンを踏破やからなー。だいぶ時間かかったんとちゃうか?」


 戻ったらお礼を言っておこうとラシアは考えながら、宿へと向かう。


「しっかし、ラシが強いのは分かってたんやけど、姫様も強かったんやなー。ウチらももうちょっと頑張らなあかんな!」


 ティーガーが言っているのは、クジラマンでマラソンしていた時のことだ。個々の現在の強さがどんなものか知りたかったので、まずはラシアが一人で倒し、その後は組み合わせを変えながら挑んでもらった。


 ラシアは他のもっと強いボスも一人で倒しているので、何の問題もない。支援がなくても余裕といった感じだ。


 騎士団と聖騎士のお兄さんお姉さんズでは、アトラス、ヘッジ、ラオメが支援を受ければ一人でも倒せた。レクトアはビショップで戦闘には少し不向きなので、今回は省いている。


 ティーガーとパルサーも、支援ありで二人一組なら倒せた。


 グオン達は元からパーティーを組んでいる五人で撃破。ノア達の組にはラシアの代わりにフウコウが入り、ノア、フウコウ、ダード、ビエット、エリエスの五人でなんとか倒せたといった具合だ。


 まぁノアが炎型の魔法使いで水属性とは相性が悪く、ダード達も適正レベルよりかなり下という事情はある。


 あとは……フウコウが想像以上に強い。短剣を持っているのでシーフ職かと思うが……ダンサー系のグラファーという職だ。戦闘能力は低めになるはずだが、猫怪人なので身体能力がやたらと高い。そのうえスキルで味方を支援しつつ、相手にデバフをかけるタイプだ。


 そして……最後は姫様ことリレッサ。ラシアのディザスターナイトと同列の職だけあって、やはり強い。


 ラシアと同じで、一人でクジラマンを撃破した。スキルによる天使召喚と、ホーリーレイみたいな魔法ビームを使う戦い方だ。


 スキルに関しては驚くことはあまりない。ゲームの設定で聖職者のスキルは全て使えるようなことが書いてあったし、本人にも聞いた。


 驚いたというか想定と違ったのは……懸念していたリレッサの体力が、思っていたよりも多かったことだ。


 ゲームではイベントで火山とかに行くとすぐに息が上がり、戦闘中のHP表示もプレイヤーに比べると遙かに少なかった。だがこの世界では、その弱点がなくなっているように思える。


 だから息が上がることもなく、苦戦することもなくクジラマンを倒したのだ。


 魔力も支援職だけあってやたらと多いので、もしリレッサと戦ったらラシアは負けるかもしれないなーと思う。


 ただリレッサにも弱点はある。反射神経や反応速度みたいなものは、普通よりちょい上といった感じだ。


 ティーガーとかラシアなら矢を射られても掴むことはできるが……リレッサにはそれはできなさそうだ。


 リレッサもダンジョンから連れ出されたことで、この世界のルールに当てはまったのかなーとラシアが考えていると、隣にいるティーガーに話しかけられた。


「ほんでラシは、この狩猟祭どう見とる? 水没ダンジョンの海底神殿とか見つけたし、勝ち確か?」


「いやー……それはないですね。少し言い方は悪いですが、ダードさん、ビエットさん、エリエスさんでは海底神殿エリアは無理かなーと思ってたんですよ」


「確かBランクとかその辺やもんな」


「はい。あそこで現実を少し知ってもらおうと思ったんですが……周りが強かったのもありますけど、普通に踏破できたので」


「ほうほう。それで?」


「簡単に言えば、私がいた国より人が強いという感じですね。ダードさん達が特別ということは確実にないので、他の冒険者もあれぐらいは簡単にやってのけるだろうなーと。私が勝ってるのは力と知識だけですね。技や経験みたいな物は負けてますから」


 たぶんここで手を抜いたりしたら、他の冒険者に負けると思う。今ラシが言った様に経験や判断に関しては他の冒険者の方が圧倒的に上だ。それはグオンやノアを見ていてもよく分かる。


「そんだけ分かっとったら、ウチの方からは言うことはないな。やけどそれはモンスターにしても同じやと思うわ。連中も考えて行動するからなー。祭りの時に言うことではないけども、けっこう死人出るんとちゃうかなー」


「祭りってなんなんでしょうね」


「ローウェンテニアは知らんけど、この国の歴史を見たら貴族の道楽やな。最近は減ってきたけど、まさか陛下が狩猟祭するとは思わんかったな」


「たまーに思うんですけど……ティーガーさんって貴族とか嫌い派ですか?」


「そんなところはあるけど、嫌いな奴に貴族が多いだけやな」


「まー……碌な奴いませんしね」


「ラシの知ってる貴族いうたら……大公ぐらいか。おっしゃ! 伝えとくわ!」


「マジでやめてください。あそこの家族、かなり苦手なんで」


 ティーガーの親はロディーだ。そのロディーはダンジョンから連れ出された、いわば異世界の人だ。ティーガーなりに親の苦労を子供の頃から見てきたんだろうなーとラシアは思う。


「まー世の中色々あるわな! ……お? なんや。宿の前に馬車止まっとるやんけ」


 ティーガーもリレッサみたいに心を読んだようなことを言うので、たまにドキッとしてしまう。


 そしてティーガーが言った方向に目を向けると、確かに馬車が止まっており、どこかで見たような紋章が描かれていた。


「あれはパルサーさんちやな。デゴット様辺りがなんかやらかしたんか?」


 みたいなことをティーガーが言うので、恐る恐る宿に近づいて中に入ると……なんかめちゃ綺麗な人がいて、近くでパルサーが畏まっていた。


 ラシアが誰? と思っていると、ティーガーはパルサーのおかんだと教えてくれた。


「なんでここにいるんでしょうね?」


「そらあれやろ。王都でも盛大な祭りやってるのに、そっちに参加せんとデゴット様がこっちに遊びに来てるからちゃうか?」


 近くでナットンが掃除していたので尋ねたら、大正解とのことだった。


「ちなみにデゴットさんは飲み過ぎて二階で寝てます。おやっさんと久しぶりに話せて、お互い楽しかったそうです」


 なるほどと納得しながら食堂の中を見渡すと、クランメンバーも寄り道せずに戻ってきていたようで、何かを食べたり飲んだりしながら各々疲れを癒やしていた。


「よし、ウチがおとりになったるから、ラシはその間にこそっと奥に行っとき。騎士団長の奥さんやからなー。挨拶ぐらいしとかなあかんやろ」


 そう言ってもらえたら、断るという選択肢はない。ラシアが静かに気配を消して食堂の奥へと入って行くと、厨房ではおやっさんとティアがちょうど避難していた。


「戻りました。なんか凄いことになってましたね」


「ラシアさん、おかえりー」


 ティアが手を振ると、二匹の蟻もラシアに手を振るので少し面白い。


「おう。デゴッパチのせいだな。まーあの人はほとんど無害だからな。ここで飯食うくらいは構わん」


「おやっさん。セレットさんいるのに、美人に弱いとかどうよ」


「はっ倒すぞ! というかノアから聞いたが、また面白い所に行ってきたんだな」


「おやっさんも潜ったパターン?」


 ラシアがそう尋ねると、おやっさんは少し嬉しそうに笑った。潜って溺れた馬鹿が二人いて、おやっさんが助けたそうだ。ちなみに一人はデゴットとのことだ。


 そしてラシアは、水没ダンジョンで手に入れたお土産を二人に渡した。


 おやっさんには、サケカスから手に入れたなんとかの酒を渡す。ゲームの説明には、メチャメチャ美味い酒とかなんとか書かれていた記憶がある。食材用のアイテムとかではないが、たぶん呑める。


「ありがたいが……呑めるのか?」


「開けてみてヤバそうなら捨ててもらえれば。それでティアちゃんにはこれ」


 ミミックから低確率で手に入る幸せの小箱。開けると課金装備を除く全ての装備の中から、一つが手に入る。


「たまに思うが……そういう貴重なアイテムをティアにやっていいのか? 俺が現役時代でも一回ぐらいしか見たことないぞ」


「ティアちゃんいないと、私はこの世界で生きていける気がしないので全然おk」


「ラシアさんありがとう! 開けていい?」


 良いよーと返事をしながらラシアは思う。箱より大きな鎧とか出たら、どうなるんだろう? と。


 そんなことを考えていると、ティアが箱を開け、小さなヘアバンドが一つ出てきた。


「うーん。さすがティアちゃん。この国だといくらすんだろ……」


「ラシアさん、これは?」


「付けてみれば分かるよ」


 ラシアがそう言うと、ティアは分かったと返事をしてヘアバンドを頭に装着した。すると頭からはウサギの耳が、お尻の辺りからは可愛らしい尻尾が生えてきた。


 ティアが出したのは、動物ヘアバンドというレアアイテムだ。装備するとステータスの変化はないが、動物の耳と尻尾が生える。


「わっ! 可愛い! お姉ちゃんに見せてくる! ラシアさんありがとう!」


「出したのはティアちゃんだけど、どういたしまして」


 喜んで食堂に行くティアを見て、おやっさんが呟く。


「俺はあんなアイテム初めて見たんだが……あの耳とか尻尾、動いてたぞ。いくらするんだ?」


「おやっさん。そういう野暮な話はしてはいけない。ティアちゃんが喜べばそれでおk」


 二人で現実から逃避しようとしていたら、食堂の方から楽しげな声が聞こえる。


「にゅうん? ……ティア。お前、獣人だったんかにゃ?」


「ラシアさんからもらった箱開けたら出た!」


「えっ!? それ取り外しできるの? 見せて、見せて!」


「そんなアイテムもあるんやなー」


 みたいな感じで盛り上がり始めたので、ラシアは皆が楽しんでくれるならそれでいいと納得した。


 おやっさんに軽食を作ってもらいながら、本命である天城ダンジョンの攻略を考え始める。


「作ってはやるが……現実から逃げんな!」


「仕方ないですやん!」

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