第132話 こんにちは厄介事

 ラシアは今、この世に生を受けてから最も集中している。


 空気の流れを感じ、命の鼓動に全神経を集中させている。


 子供の頃に……後ろにも目をつけるんだ! と聞いた事がある。


 今ならそれがほんの少しだけ理解できる気がする。誰かが自分に意識を向けたのなら、逸らすように動く。


 だって……貴族とかXランクとかZランクがいる食事会など怖すぎて、会話とかしたくないからだ。


 今のラシアなら、銃口を向けられた瞬間に回避行動に入る事も可能かも知れない。


 また一つ、会話させられそうになるのを回避して、ラシアはこの食事会を眺める。


 Zランクの冒険者が三組。Xランクの冒険者がラシアを含めて10~11組ぐらい。後は侯爵や公爵などの貴族が来ていて、騎士団や聖騎士からも護衛という感じで人が来ているので、とにかく人が多い。


 アニメとか漫画で見るようなギスギスした感じではなく、わりとのほほんとした食事会になっているとは思う。


 ラシアの知っている人ではリュートリアや、そこの副マスであるフリオールなんかも参加している。ノアの古巣なのだが……ノア本人は気にせず話に行っているのでラシアはすげぇと思う。


 ラシアは買い物とかに行った時に前の職場の人とかに出会ったら、全力で逃げるタイプだからだ。


 グオンも知り合いがいたのか他の冒険者と話しているというか、皆、灰竜が気になるのか囲まれている。


 ティーガーは貴族扱いになるので貴族に囲まれて話している。みな騎乗用のドラゴンが気になるのだろう。聞こえてくる話題はそんな物ばかりだ。


 ラシア的には、冒険者が強くなって死者が減ったらいいなーというぐらいの気持ちなのだが、どう運用するのが良いのか? とか聞いたり、自分達で考えたりしている。


 ティーガーとクランメンバーは行き方も知っているので、その知識を好きなように使ってもらっていい。


 ラシアの知識は凄いとはいえ、ゲームからの知識がほとんどだ。竜のことに関してもそうだが……基本的には少し違うしズレている。


 だからその知識で富や名声が欲しいとは思わないので、誰かが話すならそれでも全然いいとは思う。


 ただ……ティーガーにこの前言われた事も分かるので、好き好んで自分からは言わない。


 この先、ノアやグオンがクランを抜けるか独立する事もあるだろう。その時に役に立てばいいなーぐらいの感覚だ。ラシアはこの世界から帰るのだから。


 あとは……ロディーだが、彼女が乗る竜もいる。自分もローウェンテニアではバリバリに乗っていたので乗りたくなったらしい。


 ラシアがティーガーに渡しておいた残りの竜酔いの酒をこっそり強奪後に、単機で竜の巣の二階層に乗り込んでいったそうだ。


 そこで別れたはずの、前から乗っていた相棒にもう一度出会ったので、問答無用で連れて帰って来たとの事だ。


 ゲームでもロディーは片目の赤竜に乗っていた。プレイヤーは死んだらデスペナをくらって竜がいなくなるが、再度、竜の巣に行くと乗っていたドラゴンがいる。


 グラフィックが同じでステータスがないのでどれでも同じだとは思うが……違いはあったのだなーとラシアは思う。


 ゲームでもロディーは片目の赤竜をよく世話していた記憶があるので、今もとても嬉しそうだ。


 まぁ貴重な竜酔いの酒を使ったので、デゴットや大公には、それがトップのやる事か? と怒られたらしい。


 どういう付き合いか知らないが……フウコウやガロニアなんかも来ている。まぁ有名な錬金術師なので呼ばれてもおかしくはないといった感じだ。


 騎士団や聖騎士からも、この前の会談の護衛として来ていた上位勢もいる。一緒にダンジョンに潜ったお兄さんお姉さんもいる。


 一人はドラゴンナイトの上のインペリアルナイトなので、とてもドラゴンに乗りたそうに目をキラキラさせている。


 話しかけられなければ平和だなーと思っているが、そうも行かない相手がいる。ラシアの感覚に、近寄ってくる者の気配が引っかかる。本日の主催者のエリゼと、そのメイドのメニスだ。


 挨拶回りを済ませてやってきたのだろう。この辺はさすがに逃げられないので、ラシアは色々と諦めて来るのを待っている。


「ラシア様。楽しんでおられますか?」


「ええ。とても」


 いえ、全然楽しめないのでおうちに帰りたい、とはさすがのラシアにも言えないのだ。


「改めまして、あの時は本当に助けて頂いてありがとうございました」


 そう言ってエリゼとメニスはもう一度丁寧に頭を下げる。


 助かって元気そうならそれで良いので、ラシアは大丈夫だと言って話を続ける。


 どうして襲われていたのか、そういう事も含めた世間話だ。エリゼと同級生だということはパルサーから聞いていたので、ラシアの歳がゲームと同じなら19歳とかなので、一つ下ぐらいだと思う。


 大公の令嬢だからと特に思うような事もなく、話がしやすいタイプの人だとは思う。イメージ的にはリレッサとノアを足して二で割ったぐらい。


 世間の荒波にもまれているのか少し気がキツいようにも思えるが、悪い人間ではないように思えた。


 襲われていた理由だが……大公への恨みとか、そういうので狙われたとの事。その辺はほとんど解決しているようなので、前みたいに遠くにさえ行かなければ大丈夫とのことだ。


 この人はこの人で大変だなーとラシアは思う。


「ラシア様は冒険者と聞いていますが……普段はどのような場所に行っておられるのですか? あのドラゴンもラシア様が発見したとバカ虎……ではなくティーガーから聞いています」


「発見した……というよりは教えてもらったという感じですね。私がローウェンテニアから来たというのは知っているでしょう? あの国で竜の世話をしていた人から聞いたといった感じですね」


 エリゼもラシアがロディーと同じローウェンテニアから連れ出された事は知っているようで話は早かった。だから少しだけ話を合わせておく。


「まさか……連れ出された世界で慌てている時に、ドラゴンに襲われている人がいるとは思いませんでしたよ」


「本当になんとお礼を言っていいのやら……助けて頂いた兵士達も、よくお礼を言っておいてほしいとの事です」


「こちらも逃げて申し訳ないとお伝えください」


 それからしばらく話をしているとまた新しい貴族がやってきたので、エリゼが主催者なので挨拶に行ってくると言ってそちらに向かった。ラシアはまた静かに気配を消す。


 なんというか……中身が一般人な自分にはこういう所は合わないな。


 元の世界で言うのなら超一流の人達の集まりに呼ばれた一般人だ。話せる事もなければ聞きたい事もない。


 会話が合わないのだ。そう思って辺りを見ていると……危険地帯だけは空いていた。そう。デルパロア大公の近くだけは誰もおらずに空いていたので、ラシアは文句の一つでも言ってやろうと思い近寄った。


「どうも……このあいだぶりですね」


「ああ。そうだな。まさかお前の方から来るとは思っていなかったが……主催者を放っておいていいのか?」


「文句の一つでも言ってやろうかと……」


「言った所で何も変わらないがな」


 ラシアはこの前の話し合いで、ある程度だが大公の人柄は分かったと思う。危ないのは危ないが……感情に任せて力を振るうタイプではない。言葉には言葉で、暴力には暴力で返す。そんなタイプだ。


「それで? どうしてエリゼさんのお手伝いをしたんですか?」


「ふむ。こう見えても子煩悩なのでな。娘に頼まれたから手伝ったと言うのはどうだ?」


「どうだ? と聞かれましてもね……嘘くせーとしか言えませんし、放任主義と聞きましたが?」


「私の意見を信じるか。それを言った者を信じるか。それは君に任せよう。君にとっては、どちらも他人だ」


 前から分かったことだが……こういう性格の人なのでわりとめんどくさいとラシアは思うが……そう言えば伝えていなかった事があったので、それを伝える。


「謁見に関してはありがとうございました。Xランクにもなれましたので……」


「ああ。かまわん。が……冒険者という者たちは陛下から勲章をもらい、謁見するという事はとても名誉な事だと聞くが……お前はそうでもないのだな」


 こういうのはどう答えるのが正解なのかなーとラシアは思う。お金は持っているし、地位も名誉も欲しいとは思わない。その事は前の会談でも伝えてあるので難しい。


「何というか……場違いなので」


「ローウェンテニアの王女直属の騎士がよく言う」


 あーやっぱりそういうのは知ってるのね、とラシアが思っていると少し周りが騒がしくなり始める。


 ラシアが辺りを気にしていると、デルパロア大公が笑いながら呟いた。


「まぁ……早いか遅いかの違いがあるぐらいだ」


「ん? なんの事ですか?」


 ラシアの言葉を遮るように、少し周りが騒がしくなり始める。


 そして、どこかで口喧嘩が始まった。

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