第131話 始まりの食事会

 エリゼ・デルパロアから食事会への招待状がラシアに届けられ、本日が食事会のお誘いの日なのだが……何かがおかしい。クランの副マスターも出席して欲しいと書かれていたし、武器までは必要ないが、防具での正装で来て欲しいと書かれていた。


 食事の方法はバイキング形式でどうのこうのという話なのだが……やはり何かがおかしい。


 今言った事がおかしい事その一、その二なのだが……その三が目の前にいて、申し訳ないというオーラを出しまくっている。


「……えっと、パルサーさんもティーガーさんも迎えに来てくれたんですよね? どうしてそんなに頭痛そうなんですか?」


「聞きたいか?」


「いや、聞きたいか? やなくてな……説明しとかなあかん。ラシ悪いけど先に謝っとく。あのアホボンが暴走した」


 こういう事は元の世界でも経験した事がある。悪い話ならまだどうとでもなるので、言う方も怒っている事が多い。文句を言いながらでもできるから。


 悪い話より下は? それはどうしようもない話だ。物理的に間に合わないとか、もう手遅れとか、そういう類いの話だ。


 会社の上司が次の日から出張でいないのに必要な書類を持って帰った時とかだ……。


 二人の表情はそれにとても似ている。


 クランメンバーのノアとグオンはまだ分かっていない。このまま行くと大変な事では済まされないのだ。だからラシアは大きな声で告げる。クランマスターとして。


「中止でーす! 中止!!」


「ラシアさん何が!?」


「全部!!」


 二人には伝えた。逃げるなら今しかない。ラシアは逃げ出した。


 だが……パルサー、ティーガー、虹竜に抱きつかれ、その場で確保されてしまった。


「ラシ! 逃げんな!」


「ラシア……すまないがこのまま食事会に行くぞ」


「絶対に嫌です! 二人がそこまでするとか絶対に嫌な予感しかしませんが!」


「大丈夫だ。とりあえず話だけは聞いてくれ」


「嫌です。聞いたら逃げられないじゃないですか!」


「ラシ……もうこの際や。大公の娘から食事会に誘われてウチら二人がここにいる時点でもうアウトや。今回に関してはウチらのミスやな。あのアホボンをなめとったのが敗因や」


 二人が悪い事をした訳でもないので、とりあえず話だけは聞く事にする。


 ……


 …………


 内容的には初めの方から危ない感じがプンプンとしていたが、全部聞き終わってもちゃんと危なかった。


 簡単にまとめると、今回の食事会の参加者はラシア達だけではなく、エリゼが声をかけて来られる範囲の高位冒険者や、公爵や侯爵といったデルパロア家と仲が良い貴族達が参戦するそうだ。


 あと、まだ来られるかは分からないが……国王陛下と第一王子まで来られるかもしれないとの事だった。


 ラシアは思う。目が覚めて異世界にいた時並みの衝撃かも知れないと。


 こういう時は人間は逆に冷静になれると思う。だからラシアは申し訳なさそうにしている友人二人に尋ねた。どうしてこうなったのかと。


 二人が声をそろえて言ったのは、油断していた、だ。


 パルサーはティーガーに、エリゼが余計な事をしないように声をかけていた。ティーガーもパルサーに言われたのだから気にはしていた。


 普段のエリゼはどこか抜けている所があるので、何かあっても何とかなると思っていたのだが……どうやったのかは分からないが……簡単に二人の包囲網をくぐり抜けたそうだ。


 ラシアはXランクではあるが、ほぼ無名みたいなものだ。


 こう、サプライズとして他の冒険者や貴族と縁を作る場を設けたかった。それが上手くいってしまった。


 ティーガーがたまに言う。貴族は他人の都合なんか知らない、だ。


 二人が気がついた頃には、国王陛下に話が行った所だったのだ。


「あいつがこんな事をできるとは思わん。できるなら……大公より先にラシアに出会っているはずだ。私も少しずつ情報を出していたが……あいつはラシアにたどり着けなかったからな」


「我が家としてもそんな感じやなー。おかんの方も今日の空いてた時を狙われたみたいやしな。おかんもデゴット様も……騎士団、聖騎士の上位勢参戦やな」


「一言いいですか?」


「いいぞ。だいたい分かるし、私達も同じ気持ちだ」


「分かるわー。頭痛いやろ? ウチらも激痛やな」


「「「はぁぁぁぁ……」」」


 三人が同じタイミングでため息をつく。


 そしてグオンに心配され、ノアから質問される。どうするの? だ。


 はっきり言って行きたくない。だが行きたくないの話ではない……行かないと目の前のパルサーとティーガーにも迷惑がかかる。


 もちろん親のデゴットやロディーにも迷惑がかかるだろう。


 下手をしたらクランメンバーにも迷惑がかかるので、行かないという選択肢は消えている。


 それでも行かなかった場合は……きっとまたデルパロア家との仲も険悪になる。娘の暴走とは言え、デルパロア家が陛下を招いたのだ。


 その責任はそこにある。


「エリゼさんでしたっけ? かなり頭が回るんですね……ある意味、人質を取られたようなものじゃないですか……考えましたね」


「はっきり言うが……あいつは馬鹿だ。ここまで考えてやってるとは思わん。どうやって私達の監視を抜けたという話だ」


「大公が力を貸した……という事もあるんやけど……そんなタイプちゃうしなー。大公は放任主義やしな」


 偶然というのは考えにくいが……ラシアも知らない間に地下の施設を見つけたりした功労者にされたりする事もあるのだ……そういう可能性もゼロではない。


 ラシアはもう色々と諦めた。生きる事は辛いのがデフォルトなのだ。その中で自分なりの幸せを探していくのだろうと思う。


「……諦めて行きましょうか」


「ああ。そうしてもらえると助かる。こちらでもできるだけサポートしよう。ノアもグオンもすまないな」


 騎士団長の娘に頭を下げられてノアもグオンも驚くが、本人達はそこまで嫌ではないので気にしていないようだった。


「エリゼにはキツく言わなあかんな……」


 そしてラシア達はルインエルデの冒険者ギルドから王都に渡り、そこから迎えの超豪華な馬車に乗って、前にも行ったデルパロア家へと向かった。


 ティーガーとグオンは外で竜に騎乗しているし、馬車もやたらと豪華なので……もう見慣れた人混みが、切って割れるように道を開けていく。


 そしてデルパロア家にたどり着くと、中へと案内される。竜も通れるほど広いので、連れたままで中へと案内される。


 重厚な扉が開けられ入って行くと、絵に描いたような広いホールがあり、ゲームや漫画で見たことのあるような服を着た貴族達がいた。


 冒険者もルインエルデや王都で見かけるような者達とは桁が一つ上の冒険者達が集まっていた。


 ノアやグオンは建物に圧倒されるが……ラシアは周りの視線に圧倒される。本日の主役で全ての目が集まっているからだ。


 そしてこの騒ぎの張本人がやってきた。


 エリゼ・デルパロアだ。隣には前に来たメイドのメニスもいる。


「ラシア様。本日はようこそおいでくださいました」


 エリゼがそう言った所で、ティーガーから少し待ったがかかった後に、ここに似つかわしくない台詞をぶちかました。


「黙れドブス! お前いっぺん死ね!」


 時間が止まったように変な空気が流れ……どこからともなく笑い声が聞こえたのでそちらを向くと、デルパロア大公が笑っていた。


 なんとなくだが……ラシアは分かった。デルパロア大公が娘の暴走を支援したのだ。


 ラシアは心の中で、あの野郎と呪詛を吐く。


 そこでようやくエリゼが我に返り、口喧嘩が始まった……


 パルサーは止める気もなくティーガーを応援しているし、ティーガーとエリゼの関係を知っている貴族達は笑っている。冒険者達はよくある事なので特に気にしてもいない。


 とりあえず放っておいて、人の多い所へ行って紛れた方がいいかなーとラシアは思う。


 ちなみにこういう時は壁際や角に行くと逆に目立つ。後の事も考えると、人に紛れて会話しないのが一番なのだ。なんて事を思っていると……ロディーがやってきてティーガーの頭をしばいて喧嘩を止めた。


「お前は何をやってるんや! このドアホ!」


「せやかておかん! 明らかにこいつが悪い!」


「そうかも知れん! そうじゃないかも知れん! けど時と場合を考え!」


 ロディーに首根っこを捕まれたまま、ティーガーとエリゼはお互いに威嚇し始めたので……こう、背後に虎とカピバラがお互いに牽制し合っているようにも見える。


「ラシア隊長。失礼しました。一度ここを離れます。また後ほど挨拶に来ますので」


 こんな所でロディーみたいな人が頭を下げないでとは思うが、もう遅い。きっと色んなつかみはバッチリだろう。


 そしてエリゼはメニスに手伝ってもらい、服装をもう一度整えた後にラシアへ向き直る。


「ラシア様。ようこそおいでくださいました。私の名前はエリゼ・デルパロアと言います。あの時は助けて頂き本当にありがとうございました」


「ラシア・ラ・シーラです。お元気そうで何よりです」


 長い間、出会う事がなかった二人は、ようやくここで出会う事ができた。


 そしてエリゼと大公の挨拶があった後に食事会が開かれた。

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