第97話 問題発生

 いるはずのNPCがいない……最近は見ていないと、目の前のシスターは言った。


 それはロディーのように、ダンジョンから連れ出された可能性があるということだ。


 ラシアはシスターに礼を言ってから教会を出る。


「ラシアさんどうしたの?」


 ノアが心配そうに声をかけてくれるので、大きな声では言えないがメンバー達に伝えた。


「確定かどうかは分かりませんが……簡単に言えば、人をモンスターにできる人物がいなくなっています」


「……けっこうヤバいのでは?」


「はい……ですが、あのシスターが嘘をついている可能性もありますので……夜まで待ってみましょう」


 このダンジョンには昼と夜がある。ゲームなら出てくるモンスターと、配置されているNPCが少し変わるのだ。


 夜になってもいなかったら……たぶんダンジョンから連れ出されている。


 村の中で待ってもよかったが……皆からの熱い要望で外で待とうということになったので、外に向かおうとすると……目の前を見たことのある人物が歩いていた。


「……にゃんで……こんな肥だめみたいな村に来るにゃ……あいつらアホにゃ」


 目の前を獣人のフウコウが歩いている。ラシアにはまだ気がついていないようだ。


 こういう時は本当に悩む……友人は少ないので分からないが、知人以下の顔見知りがいた場合だ。


 こう……話しかけて、うざっ、話しかけるな。みたいなことを思われても嫌だし、相手が何か考えているのを邪魔するのも嫌だからだ。


 だから話しかけないのが正解なのでは? とラシアは思う。


 だけど……ここは危険地帯。相手は襲撃犯とはいえ……危ない場所。下手すると猫怪人のできあがりだ。


 そう悩んでいると……グオンとノアも気がついたようだ。


「ん? ……あれはフウコウか?」


「あっほんとだ! おーい! フウコウさーん!」


「にゅぅん?」


 それでフウコウも気がついたようで、こっちを向いて驚いている。


「にぎゃっ!? ホワイトニャイト! にゃんでお前らがここにいるんにゃ! ……でも冒険者ならここにいてもおかしくないにゃ……」


 驚いた後に自己完結して、トボトボとこちらにやってくる。その間に、フウコウを知らないメンバーにはどんな人物か伝えておく。襲撃犯の一員ではあるが、過度な敵対は控えるようにと付け加えてだ。


 呼んだのがグオンとノアなので、二人が話すのかなーと思っていると、フウコウはラシアの前にやって来た。


「こないだぶりにゃー。お前らも行方不明者の捜索にゃ?」


 ラシアは心の中で、私が話をするの? となるが、これもクランマスターになった使命だと諦めて話をする。


「いえ、深緑のダンジョンでクランメンバーと狩りをしていて、この村の道具を見に来たという感じです。フウコウさんは?」


「にゃるほどなー。こっちは今言った感じにゃ」


 昔からこのダンジョンは行方不明者が出ることで有名だったが、最近になって貴族の息子とその護衛達がまとめて行方不明になったそうだ。


 時間的に考えてたぶん死んでいるだろうが、それでも生きているなら助かって欲しいし、原因があるなら見つけて欲しい。


 そういう依頼が貴族からあり、フウコウのいるガーゼン達のクランがここに来ているとのことだ。


「ラシアはにゃんか知らにゃいか?」


 多分だけど……三つの内のどれかだ。


 一つ目は、この深緑のダンジョンでモンスターに食べられた。


 二つ目は……モンスターになって森を徘徊している。


 三つ目は…………この村の住人に食べられた。


 三つ目は危険だし、地下室に入る方法はこの村にいた司祭しか知らない。余計なことは言わなくて良いが……目の前のフウコウが死ななくても良いとは思う。


「フウコウさんは、白ナマズというモンスターを知ってますか?」


「にゃ? ……この深緑のダンジョンの夜に出てくる、真っ白い気味の悪い人みたいなモンスターにゃよね?」


 白ナマズ……プレイヤーがモンスターになった時のモンスターの名前だ。体は白く、脱皮した時の体液が残り、口は胸まで開いて目や耳もなくなり、鼻から二本の触手が出ているモンスターだ。


 元の名前は……ホワイトマンとかそんな名前だったが、プレイヤーがナマズっぽいとか言い出して白ナマズと呼ばれ始め、運営が気に入って名前が変わったモンスターだ。


 どこまでフウコウに伝えるかは迷う。かといって、ラシア的には富も名声も欲しい訳ではないので、犠牲が減る方がいいとは思う。


 ないとは思うが、フウコウが元の世界に帰る方法を知っているかもしれないからだ。


「信じるか信じないかはフウコウさんに任せますが……あれは元は人です」


「……マジにゃ?」


「はい。探すなら……その辺を調べてもいいと思いますが……絶対にこの村の食べ物を食べては駄目ですよ」


「…………まさかとは思うにゃけど、食べたら白ナマズになるとか言わにゃいよにゃ?」


「話が早くて助かります。信じるか信じないかは……フウコウさん次第ですけどね。できれば気をつけてもらえればと思います。水もアウトなので」


 フウコウがそのことを考え始めたので、自分が嘘を言っている可能性もあるのでは? と尋ねると、獣人の間ではこの村の物は絶対に口にするなというのが普通らしい。


 フウコウから見ても、匂いも感覚的なものも絶対にヤバい物であることは確かなので、口にはしないとのことだ。


「あとはにゃー。前からこの村の食べ物は食うにゃって噂は出ているにゃ。自我をなくすとか……白ナマズになったとかにゃ」


 やっぱり危ない物というのは伝わっているんだなーと納得する。


 そしてラシアが気になっていた司祭をフウコウは見たことがあるかと尋ねると……全く見たことがないとのことだった。


「一昨日の夜にこっち来て教会とかも調べまくってるけど、全く見ないにゃー。この村にはたまに来るけど、見たことないにゃ」


「えっと……マジですか?」


「マジっすにゃ。こんなしょうもないことで嘘言っても仕方ないにゃ。それで? この村のもの食べたらどれぐらいでアウトにゃ?」


「食べたことがないので分かりませんが……わりと早めにアウトだと思いますよ。すぐに作り替えが始まると思うので……」


「わかったにゃ。仲間にはよく言っておくにゃ! 助かったにゃ!」


「はい。私達も司祭がいないと分かればもう帰るつもりなので、お気をつけて」


 ラシアがそう言うと、帰りたいオーラが出まくりのクランメンバーはとても嬉しそうだった。


 そしてフウコウと別れ、ラシア達は村の外に向かう。外でゲートポータルを使うためだ。


「悪い奴には見えないんだけど……にゃんで大公の娘に命狙われてるんにゃ?」


 等と呟いていると、仲間達が奥から歩いてきた。


「フウコウ。どうした?」


「にゃんでもないにゃー。お前らこの村の物食ったりしてにゃいよな?」


「ん? 俺は食ってない。水だけだ……他は食ってたぞ? シチューが美味かったって話だ」


「…………はぁ?」


 食べたのはガロニアの弟子のベニユッド達とのことだ。


「普通のシチューでしたよ? 本当にあれでモンスターになるんですか?」


「お前らドアホにゃ! ラシア! ラシアは何処行ったにゃ!」


「なんだ? あいつも来てたのか?」


 …………


 ゲートポータルを抜けてギルドに戻ると、誰かに呼ばれた気がしてラシアは振り返るが、後ろにはポータルがあるだけで気のせいだった。


 宿に戻っても良いのだが……どうせいつかは魔石とか売らないと駄目なので、先に売ってから宿へと戻る。


 気分的なものだろう……全員がすでにヘトヘトだ。途中までは覚えたスキルの影響でテンションも高かったのだが……あの村のせいだろう。


 宿の道具屋の方は混み過ぎなので、裏口から食堂へと入る。他の冒険者がご飯を食べているが、まだ席は空いていたのでラシア達も席に着き、戻って来たことをおやっさんに伝えた。


「なんだ? えらい疲れてるが、ドラゴンとでも戦ってきたのか?」


「深緑のダンジョンの村に寄ったら……あの村の気配にやられました」


 なるほどな、というおやっさんの顔も嫌そうになったので、冒険者時代に行ったことを思い出して嫌な気分になっているのだろう。


 おやっさんのご飯を食べて、ようやく元気が回復すると今日は解散ということになった。次の予定はまだだが……とりあえず明日は休みということにすると全員が喜んだ。


 そしてラシアは人がいなくなった食堂に残り、片付けをしているおやっさんと世間話をしていると、少し落ち着いたようでセレットもやってきた。


 おやっさんは引退したし、セレットもたまにダンジョンに行くぐらいとのことなので、ラシアはあの村の司祭のことを尋ねた。


 すると……二人が現役の頃にはいたそうだ。


「え? ……あの司祭様、今はいないの?」


「……かなり問題なのでは?」


「ラシア。かなりじゃなくて大問題だぞ」


 ラシアの頭は痛くなった。

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