第96話 掃き溜めの村

 ダンジョンの中にはいくつかの村がある。モンスターのものだったり、妖精とか二足歩行の虫の村だったりもする。


 何処の村でも大体同じようなもので、アイテムが売っていたり、宿があったりして休憩できる場所だ。


 ポータルなんかも設置できて、そこからゲームを続けたりもできる。基本的にプレイヤーが有利になる場所だが……


 ラシア達が向かっている村は、掃き溜めの村と呼ばれている場所だ。ゲームだと、何か色々と終わってる人が集まってできた村。


 ゲーム内でも、行きたくない場所No.1によく輝く村。


 入口にいる番犬は人の言葉を話せない……犬の格好をしているおじさん。村には人の皮膚で作ったドレスを着ているおばさんもいる。……そんな場所。


 だけどここの武器屋には、貴重な闇属性の武器が安く売っているし、わりと貴重なアイテムも多い。


 あと……ここは一部のプレイヤーに本当の人気がある場所。その村の食べ物を食べて教会に行き、司祭様に祈ると……プレイヤーは特殊なモンスターになれる。


 モンスターになるとスキルなどはそのままで、深緑のダンジョンに入って来た他のプレイヤーをPKできるようになるのだ。


 それだけならPKできるエリアでよくね? ってなるのだが、モンスター化すると装備などは奪えないが……経験値が奪える。これは本当にデカい。高レベルになってくると、マジでレベルが上がらないからだ。


 で、モンスター化するとモンスター名で表示され、プレイヤーが誰か分からなくなる。


 ……匿名で危険地帯ができあがるのだ。


 逆にプレイヤー側のメリットが無くないか? となるが、そんなこともない。モンスターを倒せば、装備を一つと経験値がもらえるのだ。


 だからこの深緑のダンジョンが実装された時は、地獄が完成した。


 モンスター同士でも経験値の奪い合いは起こるし、プレイヤーとモンスターでも殺し合う。


 村まで案内しますと騙して……モンスター同士で手を組み、プレイヤーを殺す。プレイヤーも皆で手を組み、モンスターの一掃作戦を始めたりする……


「うーん……ゲッソリするほどディストピア」


 村に行くキノコも赤、赤、赤、赤、青の順。たぶんこれは血を流しすぎると青くなるとか、そんなの。


 大事なのが村にある食べ物。これは公式サイトの説明にあったのだが……実は村の教会で祈るのはあまり関係無いとか。食べるとモンスターになるものが入っていて、それでモンスターになるそうだ。


 モンスターになっても、倒されると元に戻る。倒されないと……


 その設定はゲームだ。こっちの世界だとどうなるの? って話になってくる。ゲームとこの世界の違いは幾つもある。だけど警戒しなくて大丈夫ということはない。


 ゲームのことなどは伝えずに、どういう危険があるかをラシアはクランメンバーに伝える。


「何があるか本当に分からないので、一人で行動するのは本当に避けてください。最低二人、多い分にはいくらでも良いのでまとまって行動してください」


 ダード達、若い冒険者になった組の顔が青くなるが……ラシアもこの世界であの村に行くのは初めてなので、けっこう気分が悪い。


 そこでノアが手を上げてラシアに質問する。


「ダンジョンの状態異常ってダンジョンから出たら戻るけど、それでも危ないの? 食べはしないけど気になるから」


「私も食べたことはないですが……食べて手遅れになったら駄目なのと……モンスター化の状態異常ってないのでもしかしたらね」


「あー……もう人に戻れないってことかー」


 ピッグマンやポークマンがそんなに強くないので、会話をしながら森を進んで行くと……ようやく目的の村が見えてきた。


 はっきり言って、遠くから見ても分かるほどに淀んでいる……もう行かなくてよくない? ってレベルだ。


 ラシア、エリエス、ビエットはもう帰ろう組なのだが……他のメンバーはダンジョンの中にある村には行ったことが無いので、どうしても行きたいとのこと……


 色々と諦めて、村にあるものは水を含めて全て口にしてはいけないと忠告し、村に入っていく。


 入口からすでにテンションが下がる。肘と膝から先がない男性が、ラシア達に向かって吠えている。


 できるだけ視界に入れないように村の中に入ると……村というだけあってゲームの時よりは広く感じるし……まぁ色々と終わってる。


 ここは何をしても許されるような設定の村だが、一応はルールがあるので、街と同じように喧嘩などはしないようにと言って、ラシア達は二手に分かれる。


 ラシアはノア、ダード、ビエット、エリエスを引率し、グオンはその他と一緒に村を回ることになった。


「おっ、おうち帰りたい……」


 今のはラシアではない。エリエスだ。人の皮で作ったであろう服を着て歩いている人を見て、もうテンションだだ下がりだ。ラシアもビエットもそんな感じ。ノアとダードは耐性があるのか、気味悪がっているが大丈夫そうだ。


 普通の服を着ている人もいるが、色々とおかしい……村の中を進んでいくと、驚くことに他の冒険者もいる。


 大丈夫? とは思う。貴重なアイテムも売っているが、麻薬のようなものも売っているので……関わらないのが無難だ。


 そして目的の武器屋に行く。ここの店主はゲームだとおかしいので、あーとかうーしか言わない。アイテムの持ち逃げとかはできるが、それをやると襲ってくるので、ちゃんとお金を払う必要がある。


「……ありましたよ。ビエットさん……この弓です。めっちゃ安いのに闇属性……うーん。お買い得」


「ラッ、ラシアさん。これは……」


 ビエットの顔がかなり引きつっている。それもそのはず……何かの骨で作られた弓だからだ。ラシアは骨には詳しくないが……明らかにそれっぽい骨もある。


 だけどここまで来て買わない選択肢はない。基本的に弓には属性はない。矢にあるので、そちらの属性が乗る。で、何が貴重かというと、弓に属性がある場合は木の矢とか鉄の矢という無属性の矢を撃つと自動的に属性がつくし、火の矢を撃つと火と闇の二つの属性が乗るからだ。


 正直……この弓にお金を出したくないのも分かる。でも三十万セルと超お買い得。ビエットの弓で二十五万セル。


 この辺は……クランのお金で買ってもいいかなーとは思う。特に呪われている訳でもないので……


 あーとかうーしか言わない店主にこの通貨でも使えるのかと尋ねると、頷いたのでたぶん大丈夫だろう。


「という訳で二張ほどクランのお金で買おうと思うので……ビエットさん、良さそうなのを選んでもらえますか?」


「ぼっ、僕がですか!?」


「はい。私はスキルのことは分かりますが……戦士職なので、弓職のように良い弓悪い弓が分からないのでお願いします」


 クランマスターのラシアにそう言われては仕方ないので、ビエットは色々と諦めて呪われそうな弓を手に取る。


 ラシアも本当に弓のことは分からない。だから、けっして触りたくないとか、そんなことではないのだ。


 とても嫌々に握るが……触った途端にその弓の凄さが分かったようで、顔つきが変わり本気で選び始める。


「ラシアさん。僕はこれにしますが、弓に関しては好みがあると思うので、もう一張はゲニツさんを待った方がいいと思います」


 ラシアは分かりましたと言ってから、先に店の主人にお金を払う。


「あー……」


 たぶん……ありがとうございました、と言いたいのだろうが……めっちゃ怖い。


 店の中は結構広いので色々見ていると、すぐにグオン達がやってきた。理由を説明して、ゲニツにも弓を選ばせて購入する。


 フォルグも気になった短剣があったので、それを購入していた。


「それで? 姐さんこれからどうします? もう帰りますか?」


「また、来ようと思えば来られるので、この村の教会に寄って、村を出てから帰りましょう」


「分かりやした」


 全員が……この村の空気にやられたのだろう。入る前は元気だった組も、帰れるとなると本当に喜んでいる。


 そして今言っていたように、ラシアは教会へと向かう。


 用事というか確認だ……この教会には外面だけは素晴らしい司祭がいるので、この世界をどう見ているか聞きたいからだ……中身は……この教会に地下室があるということで察して欲しい。


 そして他の建物より明らかに立派な教会にたどり着く。ラシアが先頭に立ち中に入ると、村人達が虚ろな目で祈っている。


 ラシアは言葉を失ってしまった……ゲームなら女神像の前にいるNPCの司祭がいないのだ。


 ダンジョンといえどもゲームではない。中にいる人は動きもすれば、食事もするはずだ。


 ラシアは変な汗をかきながらも、近くにいるシスターに尋ねる。


「シスターすみません。この教会の司祭様は何処におられますか?」


 この村は数人、会話ができる人物がいる。司祭やシスターもその一人だ。


「司祭様ですか? 最近は見ていません。帰って来るとは思うのですが、今は私達シスターがこの教会を支えています。本当に何処へ行ったんでしょうね」


 ラシアは、とても嫌な感覚に体を覆われた。

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