第52話 武器庫

 ラシアは城の裏手に回り、階段を下っていく。


 城なのにダンジョンはおかしいのでは? と思うが、危険だが資源や報酬のある攻略エリアがダンジョンだと思うので、ここはダンジョンなのだろう。


 階段を下ると中廊下エリアに出る。城だがダンジョン。場所が変わると一気に空気というか気配というか、世界そのものが変わる。ダンジョンで一層から二層に行く時の感じにそっくりだった。


 宿の二階から一階へ行く時は全く違う。こういう所がダンジョンなのだろうと思っていると、さっそくお出ましだ。


 金属同士が当たり、カシャン、カシャンと音が近づいてくる。


 中身のない鎧が走っている。


 目的のレギオンだ。


 生ける鎧。人の体なら関節になる部分は青白い炎で接続され、兜はあるが頭部はない。


 鎧が盾を構え、剣を握り、ラシアに襲いかかってくる。


 鋭く研ぎ澄まされた剣がラシアに向かって振り下ろされるが……ラシアは難なくそれを躱し、すぐにハンマーをたたき込む。


 鎧や盾はひしゃげ、レギオンは動けなくなり、そのままボロボロと朽ちていった。


「……なんか振りが鋭い。こう、力任せに振ってるんじゃなくて……技になってる」


 今まで戦ったモンスターの剣の振りではない。死んだ者の技なのか、それは分からないが、明らかに違っていた。


 ラシアが知っている剣士のダードよりも、明らかに上の剣だった。


「雑魚モンスターでこれか……トロッコVみたいに弱体化してるモンスターもいれば、強化されてるモンスターもいるのか……」


 そう言いながらレギオンが落とした剣を拾おうとすると、ヒュッと風切り音がする。


 狙いはラシアの頭部で柱と柱の間を縫う様に矢が飛来した。


 すんでの所でラシアは躱すが、長い髪が何本か落ちた。


「あっぶね!」


 レギオンアーチャーだ。レギオンが弓を持っているだけで姿はそっくりだが……高台にいるため、ラシアの攻撃は届かない。


「それは卑怯だろ!」


 ゲームなら別のフロア扱いになる場所からの攻撃だ。


 こんな開けた場所で狙われたらたまったものではないので、ラシアはそそくさと中廊下を抜ける。


「流石はローウェンテニア城。たしか……人類最後の希望が残る城とかいう設定だったかな? だけど滅んだからこうなってる。原因はここの玉座にいるボス。墜ちた勇者ローリス……通称腐ったロリコン」


 病弱な妹の為に戦った勇者だ。だが、その妹は自分ではなく仲間と恋仲になった。そこで勇者は勇者である事をやめた。


 魔王軍と手を組み、人間をやめ、ローウェンテニアを滅ぼした。ゲーム内でも生粋のクズで、嫌われキャラ。


 それだけならまだマシだが……作った方もノリノリなので、HPが半分切ると体に取り込んだ妹を前面に出し、盾にするというクズっぷり。


 だが、それを凌駕する嫌われキャラ、外道騎士とかいうガチもいる。


「玉座のほうなんか敵も強い上にレアもないから、ボスモンスターを狙わないなら行く必要が無いよねって話な訳で……」


 そんな事を考えていると兵舎に到着する。ここからは強さの桁が一つ上がる。上級ダンジョンの中でも上澄みの部類に入ってくる様な場所だ。


 だがラシアが普段行ってたダンジョンは超級。だからこの辺りならまだまだ問題なく狩れる場所だ。


 暗闇の中から、かすかに風を切った様な音がする。すると即座にラシアめがけて、宙を舞う斬撃が飛来する。


 ラシアはそれを躱して距離を詰める。


 相手はレギオンと同じ系の生ける鎧。だけど強さが違う。


 このダンジョン固有のモンスター。朽ちた騎士。


 傷やほころびはあちこちにある。だがそれでも、体は無くしても誇りは忘れない。侵入者は倒す。そんな輝きを持つモンスターだ。


 ラシアはレギオンと同じ様にハンマーをたたき込もうと振り下ろす。


 だが……いなされた。


 左手で構えていた剣で力を殺され、朽ちた騎士の足下にハンマーは落とされた。


 そして右手に持っていた盾がラシアの顔面に入る。


「がっ!?」


 ラシアの顔面が跳ね上がる。


 大きなダメージではないが……この世界に来て、ようやく警戒していたモンスターのお出ましだ。


 力ではなく技を持ったモンスターだ。


 ラシアの戦いかたは身体能力を生かした、いわばモンスターじみた戦い方だ。これは元の世界では一般人なので仕方がない。


 レギオンや朽ちた騎士といったモンスターは、力がない代わりに技でカバーする者達だ。


 だからラシアとは相性がかなり悪い。


 だが……ラシアも人間をやめている。極論だが、銃弾を躱す人間がいてもグレネードで焼き払えば良いのだ。


 殴られた盾を即座に掴み、逃げられない地面に叩きつけ、そのまま力任せにハンマーで叩き潰す。


 レギオンと同じ様に朽ちた騎士は朽ちていき、魔石だけが残った。


「……柔よく剛を制すって感じか。これ、もっと上のモンスターだと倒せないかもしれん」


 今の攻撃で口の中を切った様で、ペッと血を吐き出してから先に進む。


 この世界に来て、自ら受けたダメージではなく、攻撃として受けた初めてのダメージだった。


 中は広く、モンスターもやたらと多いが、中庭の様に開けていて他の場所から矢で射られる事がないので、今いる兵舎は少し楽だった。


 ただ力任せにハンマーを振ると先ほどの様になるので、細かくスマートに振る必要があった。


「もと一般人がどうやって戦い方を覚えろと……」


 モンスターを倒し、仕掛けを動かしながら、ラシアは目的の武器庫へ向かう。


 ゲームでは武器庫や宝物庫は隠し部屋扱いだ。そこへと繋がる部屋のギミックを解除すると通路が現れる。


 現実なら武器を取りにいくのに毎回ギミック解除するのか? と思ったが、ゲーム通りに仕掛けを動かしたら動くので、ラシアは悩みつつ最後のギミックを解除すると、遠くでガチャンと音がした。


 ゲームとは違い全ての通路が繋がっているので、音の方向へと向かうと大きな扉が開いていた。その扉に見覚えがあったラシアが中に入ると、そこは見慣れた武器庫だった。


「やっぱりあったか」


 ラシアの想像通りに武器庫には様々な武器が並んでいる。一応は隠し部屋扱いなので、誰かが来たら面倒だ。先に扉を閉めてから調べる。


 時間が経って劣化しているが、使用はされていないのだろう。十分に使える物ばかりだったので、ラシアは依頼された剣と弓をいくつか手に取り、アイテムバッグに仕舞っていく。


 ここで少し疑問が浮かぶ。持って帰った物がダンジョンのオブジェクト扱いなら、次に来た時に復活しているのか、という話だった。


 そこは次回来た時に確認だと考え、武器庫を回る。ここにはモンスターが出ないからだ。


 槍や大剣。バリスタの矢や大砲やその弾といった物まで、本当に様々な武器があり、盾やフルプレートの甲冑まである。


 フルプレートの甲冑は、ラシアが持っている聖銀鋼の鎧とデザインしたイラストレーターさんが同じなので、所々に似たようなデザインが見受けられる。


「うーん……本当にこの辺ってどうなんだろうな? ゲームの世界って訳でもないけど、ダンジョンはゲームなんだよな。かと言ってこの世界の過去とか未来って訳でもないだろうし」


 早く戻っても怪しまれるだけなので、ラシアは安全な武器庫の中で都市や王都の図書館で見た本の事を考える。


 書物を調べた限りでは……ラシアの様な異世界から来た人間はいない。物語や創作にも異世界めいた話は見当たらなかった。この世界には、そういう発想自体がないのかもしれない。


 そして、ゲームとこの世界に出てくるモンスターが同じなのは、少し興味深い事だった。


 セレットがダンジョンを初めて見つけたのは冒険者と言っていたので、その辺りを調べると、この世界でダンジョンが見つかったのは大体、千年くらい前と書かれていた。


 その頃、この世界ではモンスターというものは未確認だったらしいのだが、冒険者達がダンジョンから連れ出したらどうなるのかを試した結果、増えて野生化したそうだ。


 ただ、残っていた資料は古すぎて正確な事は分からない。元からいたのかもしれないし、後からそう解釈された可能性もある。ラシアが読んだ本にも、そう書かれていた。


 元の世界の様に化石を調べたり考古学をやっている人がほとんどいない世界なので、生物の進化とか歴史がほとんど分からないのだ。


 だからこの世界では、人間は神様が生んだという説が普通に信じられている


 その辺はラシアが元の世界に帰るのに関係ないからどうでも良いのだが……神様がいるなら元の世界に戻せオラッ! とは言いたくなる。


 ラシアが思っているのは、ダンジョンを通して元の世界とも繋がっているという事だ。


 そうじゃないと説明できない事が多いから。目の前にある鎧のデザインもそうだが、この前戦ったトロッコVもそう。


 元の世界でデザインされた物がかなり多い。


「うーん……わからん。まーでも帰るならダンジョンを進まないとどうしようもないな。ここしか元の世界とつながりないし」


 元の世界に帰る為に気持ちを入れ直していると……扉の方で音が聞こえる。


 ガチャン!!


「ん?」


 誰かが兵舎の仕掛けを動かした様で……ラシアがいる武器庫はまた閉ざされた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る