四章 いにしえの城

第51話 納品の依頼

 今日も一階の道具屋と宿は大盛況だった。


 そんな事を考えながらラシアはティアが運んで来てくれた朝食を食べている。


 少し前におやっさんから宿の事について相談された結果、どこから探して来たかは知らないが……簡単な料理ができる人と雑用の人を雇ってきた。


 その二人はラシアが提案した様に、一つの部屋に二人で住み込んで働いている。給料は他の宿に比べると少しだけ高め。仕事ができる人を呼び込む為の必要経費だ。


 週に一度、交代で休み。料理人が休みの時はおやっさんが厨房だ。


 おやっさんはおやっさんで味付けを教えたり、お金の管理をしたり、セレットさんの道具屋を手伝ったりと、暇になったらどうしようかと雇う前は悩んでいたが……今は雇う前より忙しくなっている様だ。


 ちなみにラシアはその新しい従業員二人とは「分かりました。失礼します」しか話していない。


 セレットのお弟子さんとも話していないので、それがラシアだ。


「人が変わると味付け変わるな」


「ラシアさんは今日はダンジョン行くの?」


「うん。指名の依頼が入ってたらそれをこなす感じかな? 場所によったら向こうで寝るかも」


「わかった。ラシアさん気をつけてね」


 心配してくれるティアの頭を撫でて飴をあげてから食堂に食器を運び、その足で冒険者ギルドへと向かう。


 冒険者ギルドは最近は少し人が少なめだ。初級者が中級者に上がり活動拠点を他の都市に移しているからだ。


 王都からなら様々な都市に繋がる。鉱山のダンジョンの近くにある都市だと、ドワーフなどが多かったり温泉があったりする。


 入りに行きたいが男湯にも女湯にも入れないラシアは色々と諦めた。探せば混浴もあるだろうが……それはそれでなんか嫌なのでこの体を呪った。


 そしていつもの受付嬢に挨拶をして依頼が入って無いかを尋ねる。


 冒険者が指名依頼を受けるメリットはあまり無い。普通の依頼を処理するのとそんなに変わらないからだ。ただ少しメリットがあるなら依頼主とパイプが作れるといった感じだ。


 だから冒険者側がギルドに指名依頼受けてもいいですよと言っておくと、そこから依頼主に伝わり依頼が来る。


 依頼する方も名も知らない冒険者に依頼を出すよりはギルドに頼んで普通の依頼として出した方が楽なので、あまり意味はないと言えば意味はない。


 そんな事を考えていると何件かありますよといつもの受付嬢が教えてくれる。


「いつも通りセレット様からの依頼が数件とモカル商会の方からモンスター武具の納品になります」


「……セレットさんの方はいつものですよね?」


「……はい。石鹸、高級石鹸。消臭剤材料の納品と壊れていない魔導エンジンの入手になります」


 まだ諦めていなかったのかとラシアは頭を抱える。石鹸や高級石鹸は従来の物よりかなり品が良いらしく出せば売れるらしいので、供給がまったく追いついてない感じだ。


 取りに行ってもいいが……鉱山のダンジョンに人が多いのでラシア的には行きたくない。


 エリエスやダート達も噂では鉱山のダンジョンに行っているとの事なので、レベルに合った狩り場に行ってくれてるなら安心だなとラシアは少しほっとする。


 壊れていない魔導エンジンは無理。ボスは目立つから倒せないし鉱山のダンジョンの床をぶち破って遺跡に行くのも不可。他にもドロップする奴はいるが……目立つので却下だ。


 となってくると受けるのはもう一つのモカル商会の依頼だ。


 これはラシアが樹海から出た時に街道から王都まで送ってくれた商人の商会だ。ちなみに…………めちゃめちゃ驚いたがスケベ親父もそこで働いている。


 送ってくれた人がモカルさんと言って商会のトップで、エロ親父はサポート役のナンバー2だ。


 そんな偉い人が自ら動くなよと思うが……商会の方針とか何とか。ちなみにエロ親父もちゃんとセクハラするおっさんとして有名だった。


「それで武具の納品の依頼って何になりますか?」


「はい。古城のダンジョンに出るレギオン、アーチャーレギオンの剣や弓の納品になります。幾つでも良いとの事ですが……合計で二十は欲しいとの事です」


「あいつらかー。久しぶりに先生に挨拶しにいくかな?」


「ん? 先生とは?」


「…………すんません。こっちの話です」


「ラシアさんなので深くは聞きませんが……それと注意して欲しいのはラシアさんは中級ですので城門前と中庭まででお願いします。城の中は上級となるので何かあっては困るので侵入は控えてください。すべて自己責任になりますので」


「分かりました」とラシアが返事をすると、注意事項が続く。ラシアは詳しく知っているのだが、たぶん初めて行くと思われているのだろう。


 中は迷路の様になっているとか、城のなかはかなり強いモンスターが出てくるや、行方不明者がよく出る等だ。


「そういう訳でいくのであれば気をつけてください。それと……古城ダンジョンではこういう『きれいな石』がまれに取れるので、もし手に入ればギルドでかなり高く買い取るのでお願いします」


 ……帰還石の事だ。だがラシアは何も知らない振りをして値段を聞いて驚き、それを狙って来ますと笑いポータルに並んだ。


 古城のダンジョン。通称古城。ゲームなら上級ダンジョン扱いで数あるダンジョンの中で最も広いダンジョンになる。


 地下に潜るのだが、下にも横にもダンジョンが広がっている。名前の通り、城がまるごとダンジョンになっている巨大なダンジョンだ。


 この世界の王都にも城はある。それよりも圧倒的に広い。そんなダンジョンだ。


 城門からもゲームだと入られる場所が複数ある。下水道に繋がったり地下墓地に繋がったり、監獄に繋がったりと本当に様々な場所に出る。


 そして出てくるモンスターの種類も半端なく多く、ダントツで一番多いのが古城のダンジョンだ。


 ゲームでも始めたばかりの者は攻略サイトを見ながらいかないと迷う。見ても迷う。だから帰還石が必須なのだ。


 受付嬢が行方不明者がよく出ると言っていたがそうだと思う。敵が強い上にややこしいのでモンスターに追われて逃げたら何処に繋がっているかなんか覚えていないからだ。


 ラシアもしょっちゅう死んで、ようやく体にたたき込んで覚えられたダンジョンだ。


 時間湧きのボスモンスターも一番多いダンジョンだが……危険が多い分レアアイテムもかなり多いダンジョンだ。


 そんな事を考えているとラシアの番が来たのでラシアはポータルに入って古城へと向かう。


 受付嬢は知らないのだろうが……何が危険かというとポータルを出てすぐに襲ってくるモンスターがいるフィールドなのだ。


 だからゲームだとポータルに入って読み込んでる間にトイレとか飲み物取りに行くと、戻ってくると死んでデスペナくらう事がよくあるのだ。


 今回は攻撃してくる敵がいなかったのでラシアはほっと息を吐き出す。


 依頼のモンスターはレギオンとレギオンアーチャー。ゲームの説明だと、城を守って無念に死んだ兵士の鎧に魂が乗り移ったとかそんな感じのモンスターだ。


 簡単に言えば動く鎧の剣と弓。そのモンスターが使っている剣と弓を納品するのが依頼だ。


 粉々はダメだが多少は壊れていても武具の精練で修理して商会が店で売るとの事。ゲームではそんな事はできなかったが色々あるんだなーとラシアは感心し、ボロボロになった城門をくぐり城の中を調べる。


 受付嬢は城の中には入らないでくださいと言っていたがラシアが守るはずもない。


 倒せるモンスターばかりだし城の中には武器庫がある。そこに行って取ってきたら楽じゃね? という検証を含めてだ。


 というか中に入らないと目的のレギオンとレギオンアーチャーの数が少ないのも問題だ。中庭は中庭で時間湧きのボスがいるので近寄らない方が無難なのでいけない。


「受付嬢さんせっかく説明してくれたのにごめんね。ラシアは城の中にいきます!」


 全く悪びれもせずに進んでいくが、モンスターの数が少ないので戦闘にならない。だからここで集めるにしても効率が悪いのだ。


 そして一度も戦わないまま城へ入る為の大きな門が見えてくるとそこには兵士達が隊列を組んでいた。


「ん?何処かで見たことがある装備……あー樹海で」


 隊列を組んでいる兵士は樹海で出会った兵士達だったので、王都を守る騎士達だろうと思い出す。たしか……デゴットという騎士も先頭にいる。ラシア達に道を教えてくれた人物だ。


 近づいてあのルーンランサーがいて、いちゃもんつけられたらめんどくさいのでラシアはそのまま彼らから離れていく。


「まぁ樹海で特訓できるならここでもいけるか……こんな広いダンジョンで狩り場がかぶる事もないからほっとこう」


 ラシアの目的の場所は武器庫なので正面から入らずに裏の方にある道から入って、中廊下、兵舎を抜けて行く方が早いのだ。


 宝物庫や食堂なんかも城なので普通にある。だからラシアの心は久しぶりにウッキウキである。


 だが……あとで受付嬢の言葉を聞いておけば良かったと後悔するのはまだ先の話だ。

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