第31話 野営地

 ノアが目を覚ましてから約十日ほど経った。


 それだけ長い時間、森の中にいると役割も決まり安定して進める様になってくる。昼はノアがモンスターを倒し、夜はラシアが守る。という様な感じだ。


 それと追加で分かった事もある。


 確実ではないが、ゲームの様にパーティーを組むという括りが存在しないという事だ。


 モンスターは先ほども言った様にノアとラシアが倒している。


 ゲームならそれに見合った経験値は入るはずだし、パーティーを組んでいるならダード達にも入るはずだ。


 だがダード達が強くなっている感じはしない。


 LV10あるかないかの者がレベル30〜40付近の魔物を倒せばレベルアップするはずだが、そういう気配がないのだ。


 だからラシアは、魔物を倒せばスキルを覚えられる数は増えても、数値で表すようなレベルアップは無いのだろうと考えていた。


(でも……レベル差があったらパーティー組めないのはあったからその辺か? でもノアさん、ダードさん達なら組めるはずだしな)


 その辺がゲームと現実のズレなんだろうとラシアが考えていると、先を歩いていたビエットが手を上げた。


 何かを見つけた時の合図だ。


 皆が集まると、ビエットは少し先を指さした。


 まだ少し遠くだったが、少し開けた場所に煙が上がっていた。


「あそこに煙が上がっているんですよ。ノアさん、どう思います?」


「うん! かなり進んでいるし騎士団か、聖騎士じゃないかな! あそこに向かってみよう。火があれば誰かいると思うから道を聞こう!」


 ようやく見つけた希望だったが、ラシアは二つ気になる事を尋ねる。


 一つはモンスターが火を使うことはないのかという事。マウスマンとかウルフマンとか、マンがつく亜人系のモンスターだ。


 もう一つは盗賊や賊といった可能性だ。


 その事を尋ねると大丈夫だそうだ。


 確かに亜人種も火は使うが、この樹海にいるモンスターなら自分でも倒せるし、ラシアなら余裕だ。まだ苦戦する所は見たことがない。


 あと賊だが……少しはいるが基本的には少ない。冒険者を狙う様な賊がいるなら、賊にならずに冒険者になる方が圧倒的に稼げるし地位も名誉も手に入るからだ。


 しかもモンスターよりも冒険者の方が様々なアイテムを使うぶん手強い。格下が格上に勝つ事もある。だから人が人を狙う事は少ないとの事だ。


「なるほど」


「たまーにダンジョンの中で冒険者を狙う賊がいるけど、ダンジョンを出る=ギルドだから、一人でも生き延びたら通報されて捕まるからあんまりいないね」


「いる事はいると」


「他の都市でギルドが裏金もらって見逃してたとかはあったかな。まー0ではないけどかなり少ないって話だね」


 教えてくれた事に礼を言って、少しでも早く樹海を抜ける為に煙が上がっている所へと行こうという事が決まった。


 また樹海を進んで行く。目的地があるだけ皆の足取りは速い。


 そしてちょうど中間くらいになった所でノアが一旦、皆を止めた。


 何事かと思っていると、ラシアに借りていたローブを脱いで畳んで返す為だった。


「……ラシアさん。見る人が見たら確実にややこしい話になるから先に返しておくね。騎士団や聖騎士は武具に詳しい人も多いだろうし」


 ラシアは礼を言って受け取り、それをアイテムバッグの中に仕舞った。


「まー。ラシアはそんな事しねーだろうけどどっかの貴族から盗んできたとか言っても信じられるぐらいには高そうなローブだもんな」


 そう言うダードを失礼過ぎるとエリエスが頭を殴る。


 ラシアも確かにその通りだと思う。ローブにしても聖銀鋼の鎧にしても、持っている装備は異色すぎるからだ。


 だから揉め事が起こるなら隠しておくほうがいい。


 更に進んで行くと、人が歩き踏み固められた道が現れる。


 ビエットが見つけた位置からだと見えなかったが、櫓なども立ち旗も掲げてあった。


「おっ! 王都の旗だ! みんな騎士団だよ!」


 皆が喜ぶが、ラシアは妙な視線を感じる。観察するような、そんな仕草だ。


 その視線を探ると、櫓の上にいたたぶん騎士であろう者と目があった。


 そして次の瞬間。ラシアに向かって槍を投擲してきた。


 ラシアの額が到達地点だ。風を切る凄まじい音がする。


 だがラシアにそんな物は通用しない。簡単に片手で掴み止める。


 凄まじい速度の槍を掴み一瞬で止めたので、辺りに衝撃波が発生し皆が驚く。


「なっなんだ!?」


「ラッラシアさんだいじょうぶ!?」


「ええ。大丈夫ですよ……遠目でしたからモンスターとでも間違えたのでしょう」


 確実に目は合ってこちらを認識していたのに投げてきた。人だと分かっていたはずだ。


 だがそれはノア達には言わない。もしもの時は助けるが、今の喜びを邪魔するのは悪い。


「おー。ミスリルの槍でかなりいい物かも。これを投擲するって……戻って来なかったら勿体なくない?」


「騎士団様だから金持ってるんじゃないか?」


 飛んできた物をノア達が確認する。


 せっかく助かると思っていた所で知らない奴から攻撃されて、ラシアは割と気分が悪い。


 だからノアに尋ねる。


「ノアさん。樹海が深い方角ってどっちですか?」


「え? 南のほうかな?……ラシアさん怒ってる?」


 男なら一発で落ちそうな笑顔をノアに向けたあと、ラシアは教えてもらった方向を向いた。


 そしてやり投げの構えを取ると、助走をつけて思いっきり投げた。


 投げた時に衝撃波が発生し落ち葉が舞い上がる。


 放たれた槍はレーザーの様に一直線で空へと向かっていった。


 パンパンと手を叩き「これでよし!」というラシアに、皆はなんとも言えない表情をしていた。


 櫓の上にいた人物を見ると、とても慌てた様に槍が飛んでいった方角を見ていた。


 そして先を警戒しながら進んで行くと、ようやく目的の場所へとたどりついた。やはりノアが言った様に騎士団の駐屯地の様だった。


 入り口の様な所には兵士が二人立っており、ノアが代表して話を始める。Aランク冒険者なのでこの中で社会的な地位が一番あるのがノアだからだ。


 先ほどの櫓から攻撃してきた者とは違い話が通じる様で、ここを任されている者に話をしてくるので少し待って欲しいと頼まれる。


 何を言われるか分かったものではないので、さっさと街道に出る道だけ教えてほしいなーとラシアは思うが、言葉には出せないので思うだけに止める。


 そしてしばらく待っていると先ほどの兵士が戻ってきた。


「隊長の確認が取れました。少し皆さんとお話がしたいそうなのでご同行願えますか?」


 ノアは頷き中へと入っていく。


 中は想像以上に広く、兵士達が談笑したり訓練したり装備を磨いたりしている。


 職もたぶんナイトやパラディンといった者達がそろっていた。


 ダードやビエットは周りが気になるのかソワソワするが、好き勝手に見て良い物では無いので静かに兵士の後をついて行く。


 そして一つの天幕につくと、兵士が頭を下げてからお連れしました、と言った。


 すぐに中から入って良いぞと男性の声が聞こえる。


「では、どうぞ」と兵士に言われたので、ノアが先頭で中へと入って行く。


 中に入ると髭が多めの甲冑に身を包んだ男が座っており、女性だろうか、櫓の上から槍を投げてきた者がラシアをにらんでいた。


「なんか迷子らしいな。わしはこの隊を任されているデゴットだ。こっちの馬鹿はパルサーという。そっちの嬢ちゃんに投擲したらしいが……見間違いだったんだろう。許してやってくれ」


 こちらを確認してから投げてるのに見間違いもクソも無いだろうとラシアは思うが、樹海から出るのが先なので、大丈夫ですとだけ言った。


 そしてノアが順番に挨拶をし、モンスターに襲われて樹海に落ちて遭難中だと伝え、できる事ならBランクに上がる移動中なので街道に出る道を教えて欲しいと伝えた。


「ふむ。なるほどな。冒険者達がよくやってるあれか。それで? ノアとか言ったな? お前が嘘を言ってるとは思わないが……Cランクのひよっこ共を守りながらこの樹海を進めるとは思わん。そっちのライオンみたいな嬢ちゃんが強いと言ってもな」


 そんな事を言われてもどうしようもないと思っていると、デゴットがニカッと笑いラシアの方を見た。


「お前さん。こいつと戦ってみてくれ。それで判断する。どっちかが参りましたと言ったらそこで終わりにするからやってみてくれんか?」


 ラシアの判断は早かった。


「私の負けです。参りました。でいいですか?」


 その場にいた全員がなんとも言えない表情でラシアを見る。冒険者は基本的にプライドが高く、簡単に負けを認めないからだ。


「……おれが言った事だが、流石にそれは駄目だな。パルサーが教えていいと言ったら街道までの道を教えてやろう」


「……これだけ騎士がいる駐屯地ですから外に出て足跡調べれば出れるのでは?」


「なるほど。おまえさん面白いな。だが訓練で遠回りして来ている。道を聞けば楽に帰られるがそれでもいいか?」


 ノアやダード達の顔を見る。困った様な顔をしているが流石に疲れが出ている。運良くここまで無事だっただけの話だ。


 早く出られるならそれに越したことはない。


 ラシアはため息をつきデゴットに確認する。


「方法はどんな戦い方でもいいですか?」


「ああ。お前さんが好きな戦い方でいいぞ。パルサーがいいと言うまでだ」


 そこでようやくパルサーと呼ばれた女が口を開く。


「絶対に言わないがな! お前達なんぞ迷ってしまえ!」


 そんなパルサーを無視してラシアは手を差し出す。


 正々堂々と戦う為の約束としてだ。


 パルサーは叩きつける様にラシアの手を握り力を込める。


 馬鹿が釣れたと心の中でラシアは微笑む。


 騎士など何処まで顔が広いかも分からない。ラシアがどれだけ強いというのもすぐに分かるかもしれない。


 まともに戦って得をする事は道が分かるくらいだ。


 だからこちらの土俵で戦うだけ。


 ラシアはパルサーに優しく話しかける。


「このまま潰してもいいですが……早く教えていいと言った方がいいですよ? 握力には自信があるので」


 デゴットがパルサーを見る。


 パルサーのその目は見開き変な汗が出始めている。


(こっこいつのこの握力はなんだ!? 人間か!?)


 ラシアが少しずつ力を強めていく。指を守っていた甲冑はひしゃげていき形を変えて落ちていく。


 ラシアは何も言わない。他人を見境無しに攻撃してくるような奴だ、このまま握り潰しても問題ないと考え力を強めていく。


 ひしゃげた甲冑がパルサーの指に食い込み、変色し始める。


 そして……メキ、メキっと変な音がし始めた頃に耐えきれなくなり負けを認めた。


「ぐっ! がっ!…………いい! 教えていいから! もう離してくれ!」


 ラシアはぱっと手を離してデゴットを見る。少し卑怯だが、負けを認めてごねる様なら嘘を言う事も考えられる。これで駄目なら遠回りして帰るだけだ。


 ラシアの心配を余所にデゴットは気持ちよく笑っていた。


「そういう戦い方もあるわな! ライオンかと思ったらゴリラの類いか! いやー参った参った。がははははっ!」


 それからの話は速かった。デゴットに道を教えてもらい食料を分けてもらったラシア達は、教えてもらった方角へと歩き出した。


「パルサー……お前の負けだな。せめて戦いの場ぐらいには持って行けよ」


「そうは言うが父さん。あんなゴリラみたいな奴だとは思わないだろ!」


「まぁな……ラシアとか言ったか? かなりのやり手だな」


 ラシアによって潰された籠手の部品をつまみ、デゴットは考える。


「まぁ……いいが、お前がやらかしたんだから部下連れて槍の回収行ってこいよ」


「どうやって?」


「方角がわかるんだから訓練がてらに行ってこい。全面的にお前が悪い」


「そんなー…………」


 そして駐屯地から二時間ちかく歩くと、ようやく樹海を抜ける事ができた。


 本来通るべき道が見えて来たとノアはとても喜び、全員が喜んだ。


 あとはこの道を進むだけだと思っていたが、幸運な事に商人の一団が通りかかり、これから王都に向かうとのことだった。


 ノアが事情を説明すると快く荷馬車に乗せてくれるとの事になったので、代わりに護衛を引き受ける形でお互いが納得する形になった。


 そしていくつかの夜を越えた後にようやく目的の王都へとたどりついた。


 ダンジョン都市を出て約一ヶ月ほど経っていただろう。


 ラシア達は生きている事への喜びをかみしめた。

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