第25話 山岳地帯へ

 昨夜の事だが幸運な事に大きな問題にはならなかった。


 謝りに行った憲兵が言うには、冒険者はよく喧嘩しているからだそうだ。そしてどちらかと言えば調子に乗っていた冒険者を懲らしめた感じになったので、感謝を言われたほどだ。


 喧嘩した冒険者の中にSランクで活躍している冒険者がいて、最近は少し目に余る行為が多かったとの事だ。ただこの町にも冒険者がいないと困るので、憲兵達もあまり強くは言えないとの事だった。


 最初はベルエドと喧嘩をしていて、一発で沈めてもすぐに復活して襲いかかってきた人がいたので、たぶんその人の事だろうとラシアは思う。


 そんな事を考えながら、この都市で行商達が購入した物を積み込んだりしているのを見ている。


 手伝う気はあるのだが……昨夜沈めた冒険者達が手伝っているから何もできないのだ。


 手伝おうとすると……「ラシアの姐さんは座っててください」とか「俺たちに任せてください姐さん」とかいった具合だ。


 二日酔いでは無いが頭が痛い。頭というより心が痛い、そんな感じだ。


 ダードやノア達の反応はあまり変わらなかった。ベルエドもノアもラシアがウルフマンを倒せる程の強者と言うのは出発前からギルドから聞いていたからだ。


 ラシアは大きくため息をつく。


 そのタイミングで眼帯をした男と小柄な男がラシアに報告にやってくる。


「姐さん。積み込み終わりやしたぜ」


「ラシアの姐さん。こっちもできたぞ」


 再度、ため息をつく……それをやめて欲しいと言っても、俺たちを一撃で沈めるような人には失礼な態度は取れません、との事だ。


 悪い事に小柄の男性もAランクでやっている冒険者との事だ。


「わかりました。ありがとうございます」


「しっかし、姐さんがCになったばかりの冒険者とか嘘かと思ったがそうでもないんですね。あのガキ共の引率かと思いやしたぜ」


「ああ。俺も思ったな。というかベルエドとか言ったか? あいつで大丈夫か? 少しモンスター多いぞ」


 そんな話をしていると一緒に掃除して仲良くなったのか……ベルエドもやってくる。


「ラシアの姐さんチーッス」


 馬鹿にしているのが分かるからラシアはもう一発殴ってやろうかと思う。


「おい。ベルエド。姐さん馬鹿にするなら俺らが喧嘩買うぞ」


「冗談冗談。それでなんか呼んだか?」


 君達も同じ事言ってますやん? とラシアは思うが言わない。真面目にモンスターや街道について話しているからだ。


 その話を聞いていると横から小柄なAランク冒険者が話しかけてくる。


「まぁ……姐さんなら大丈夫と思いやすが、この先は少し気をつけてくだせー」


「?山岳地帯に入るとは聞きましたが……何かあるんですか?」


 少し言いづらそうに男は答える。


「俺達も見た訳じゃないんですがね……ほかの行商が大きな鳥、燕みたいな奴を見たと言っていたんですよ。誇張があると思いやすが……家並みに大きかったと聞きやした」


 そのモンスターにラシアは心当たりがある。


 鳥形のモンスターは多い。だがそれが燕なら数はかなり少ないからだ。


「……軍艦ツバメ……バスタースワローどっちだ?」


「流石は姐さんだ。やっぱりその辺を知ってやしたか……個人的には軍艦ツバメと思っていやす。バスタースワローならどこかから飛来したとなれば情報が残っているので」


 ラシアは声に出したつもりは無かったがポロッと口から出てしまった。そのことを謝り、少し考える。


 軍艦ツバメは牛より少し大きいぐらいのモンスターだ。それに比べてバスタースワローは本当に家ぐらいある大きさの鳥だ。


 ゲームならどちらでもラシアなら倒せる。ただバスタースワローに関しては少し苦手意識がある。

 攻撃速度と回避が異常に高いからだ。中級ダンジョンに出てくるモンスターでも、その二つの能力は上級に出てくるモンスター並みに高い。


 だからDPSが低く一撃に攻撃を乗せるラシアは、躱されると時間がかかるからだ。


 そして範囲吹き飛ばし能力を持っている。空中に巻き上げられると攻撃できないという感じになるのだ。


(その辺って現実だとどうなるんだ? 画面内の決まった範囲ではなく見える範囲が戦いのフィールドになるんだろ?……攻撃あたるのか?)


「まぁ個人的には他の鳥形モンスターって思っていやす。あっしらも実は別物って事は案外よくある事なので。鳥って言ってワイバーンだったって事もね」


「……それを言ったらもっと強いモンスターの場合もあるのでは?」


「その場合だったらもうお国が動いてやすよ。強いモンスター=危険度が高いので」


 高レベル帯でも、攻撃するまで襲ってこないノンアクティブモンスターは普通にいた。その辺はどうなんだろうとラシアが考えていると、ベルエドの話も終わった様だった。


「まーこっちは王都に行くだけだからな。このまま行くつもりだ」


「姐さんいるから大概の奴は何とかなるだろ。それでも気は抜くなよ」


 良い感じにまとまりそうだったのでラシアはベルエドに意見する。


 ベルエドでもノアでもそれこそダード達、三人ではもしバスタースワロークラスの敵が出たら倒せない。


 Lvで60近いモンスターなら大体、範囲攻撃を持っている。ラシアだけ耐えられても他が死ぬからだ。


「ベルエドさん。もしもの事を考えて別のルートがあるならそちらを通った方がいいのでは?」


「……それは思ったがこっちの街道は無いんだよな。お前はこの辺詳しくないって言ってたから言うが、崖の下は大樹海って言ってな。凄まじく深い森が広がってる。そこはモンスターも強いからな、行商達を守って通る道じゃない」


「……」


「かと言って一回戻ってルートを変更するのもなんか違うだろ? 実際にそのモンスターを見た訳じゃないからな。いたとしてもなんか情報はギルドに入ってきてると思うが、それも無かったから大丈夫という判断だ。お前もはやくBランクになりたいだろ?」


 ラシアなら行かないという選択肢を選ぶ。命は一つだから。ただベルエドの言う事もわかる。ゲーム時のモンスターとプレイヤーの比率を考えたらバスタースワローは本当に大きい。そんなものが見つからないというのもおかしな話だ。


 見間違いか、いないという話になってくるからだ。


(でも隠れてるって事もあるよな? ラットマンでも突いたり払ったりをしてくるんだぞ? 賢いモンスターなら下手したら人間より頭良いのでは?)


 リーダーはベルエドで経験も知識も遥かに上だ。ラシアが勝っている所は武力のみ。だからこれ以上は言っても仕方無いなと諦めた。


「まぁ俺たちと同じランク程度の奴がバスタースワロー倒したって話も聞きますし。姐さんがいれば大丈夫でしょう」


 眼帯の男がそう言って笑う。周りにいた者達も釣られて笑うがラシアだけは笑わなかった。


 そして出発の準備がすべて整ったのでラシア達は出発する事になった。大量の冒険者に頭を下げられる中を抜けてだが……


 行商の荷物はこの町で売れた物と下ろした物で少し減り、冒険者達が整理を手伝ってくれたおかげで馬車に少し空きができたので、ラシア、ノア、ダード、ビエット、エリエスの五人は同じ荷台に乗っていた。


 息苦しい「おうち帰りたい」とは言えないラシアは静かに離れていく都市を見ている。


「まぁ……特訓してもらってる時から分かってたがラシアって本当に強いんだな」


 全員が一斉に頷きラシアの方を向く。


 昨夜の悪夢の続きである。


 無視する訳にもいかないのでラシアは静かに振り返る。


「なっ何をもって強いとするかは人によって違いますから……」


 何を言ってるんだ? と言うような顔をされるがラシアも何を言っているのか分かってないから仕方無い。困っているとノアが話を拾う。


「いやー……強いってもんじゃないよ。Sランクの人を倒すぐらいだから、同等かそれ以上って事になるからね。Sランクはまだ多いけどそれ以上になってくるともう数えられる程しかいないから本当に強いよ!」


 そのキラキラした感じの目に見覚えがある。血は繋がって無いのにティアにそっくりだからだ。


 だから思った。黙らせるなら飴でもなめさせておけば静かになるだろうと。


 アイテムバッグの中からいつもティアに上げていた飴を取り出し皆に配る。


「良かったら美味しいのでどうぞ」


 そう言って配られた飴の味はとても好評で、何処で買ったのか? とかどうやって作ってるのか? という話題になったのでラシアはホッと一息をつく。


 そしてゆっくりと道は険しくなっていき始め、山岳地帯へと入っていった。


 誰も気づいてはいなかったが……遠くから獲物を狙う瞳がラシア達の商隊を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る