第22話 スキルの謎

 都市を出てから三日目。出て来なくて良かったが、とうとうモンスターが現れた。


 ラシアが異世界にきて初めて戦ったモンスター。クレイハウンドだ。十頭の群れを形成し、一番大きな個体がリーダーで命令を出している。


「ダード!左です!」


 後衛でアーチャーのビエットは少し離れた所から全体を見て指示をだす。


 だがダードが反応するよりモンスターの行動の方が速い。魔法使いのエリエスの攻撃もそのまま打てばダードを巻き込む恐れがある為につかえない。


「やばっ!」


 ダードが声を出した頃にはラシアはもう回り込み攻撃体勢に入っていたので、そのまま大きなハンマーを振り下ろす。


 断末魔もあげるまもなくクレイハウンドは絶命した。


「ラシア、助かった!」


 ラシアは軽く頭を下げるが内心はヒヤヒヤである。ダードにハンマーが当たろうものなら結末はクレイハウンドと同じだからだ。


 加減ができない訳ではないが、パーティーでの戦いがラシアにはかなりキツい。加減を間違えると攻撃が当たらないし、強すぎると周りに被害が出る。


 やろうと思えばハンマーに当たった飛び石でダードを殺す事もできる。


 だから……ハンマーを振る方向にはとても気を遣う。バットを振るように横に振って地面をえぐり、石や泥を吹き飛ばしその射線上に仲間がいれば大変な事になるからだ。


 実際に魔法使いのエリエスはそれで少し怪我をした。


 ノアやベルエドは戦いに参加しない。試験官の様な立ち位置で、ラシア達がBランクでもやっていけるかどうかを見るからだ。


 よほどの時は参加するだろうが今は見ているだけ。


 そして一頭、また一頭と減っていき、残るは手負いの一匹になった。


 ダードが叫んだ。


「よし!最後の一匹だ俺がもらう!アックススラッシュ!」


 構えられた剣が少し光った後に振り下ろされ、残ったクレイハウンドも絶命しラシア達の勝利だ。


 魔石を取ったりやることはあるが、怪我をさせたエリエスにラシアは謝りに行く。


「エリエスさん。すみません……大丈夫ですか?」


「よけられなかった私と飛んできた方向が悪かっただけなので大丈夫ですよー」


 もう一度頭をさげるとビエットがやって来てエリエスの傷をみて回復魔法を使う。


「ライトヒール」


 柔らかい光が傷を包み込み、切れていた傷口を優しく治した。


「ビエット。ありがとう!ラシアさんも私の事はエリエスで良いですよ?そんなにかしこまらなくても同業者ですし」


「いえ、私はこの方が話しやすいのでこのままでいいです。エリエスさん本当にすみませんでした」


 また頭を下げてからモンスターを解体しているダードの所に戻る。行商達も手伝ってくれてるようでもう終わりそうだった。


「ラシアの倒したのは全く使えないって文句いってたぞ。魔石は大丈夫だが毛皮、骨は無理だってさ。まーあんな死に方したら使えないよな」


「申し訳ない」


 謝ってばかりだが……こればかりは仕方ない。加減が本当に難しいからだ。日常生活なら加減はできるが、生まれてこの方喧嘩もしたことないラシアに、パーティーメンバーに被害が出ないように周りを見て加減して戦えと言うのが無理な話だ。


 そして監督者のベルエドがやってくる。


「お前らなかなか強いな。クレイハウンドも初級ならしんどいが……倒せるもんな。よっぽどの時は手伝おうかと思ったが、大丈夫そうだな。……まぁラシアはもう少し加減を覚えろよ」


「……はい」


 片付けも終わりまた馬車に乗り込む。今日の昼過ぎには宿場町に着くとの事だ。


 だが……ラシアが考えるのは手加減の事でも村の事でもない。ダードとビエットが使ったスキルの事だ。


 初めて見た時は本当に驚いた。


 アックススラッシュは鍛冶職の系統、ブラックスミスが覚えられるスキルだ。ゲームなら剣士であるダードには覚えられない。


 ビエットにしてもそうだ。アーチャーなのに支援職が覚えるライトヒールを使った。ゲームなら本当にあり得ない事だ。


 装備アイテムによる能力ならラシアが持っているリジェネクティブハンマーもそうだ。だがスキルを覚えるアイテムは課金でもない。


 二人ともそんなアイテムを持ってる様には全く思えない。


 もう一つ覚える方法はあるが……この世界が現実というなら可能性はかなり低いだろう。


 だからラシアは考えた。モンスターがゲームでは使えないスキルを使った様に、人ももしかしたら職の垣根を越えて覚える事ができるのではないかと。


 そして新たな疑問が生まれる。この世界だとスキルってどうやって覚えるんだって話だ。ゲームならレベルが上がった分のポイントで職のスキルツリーからスキルをクリックするだけ。


 ラシアならLV100なのでアクティブ、パッシブ込みで100のスキルが取れる。欲しいスキルを取るために取るスキルもあるので死にスキルも多いが、それはロマン職だからしかたない。


「はぁ……まだまだ考える事は多いなー。加減も難しいし、本当に一人が楽だー……その前におうち帰りたい」


 ただ一人だと今の様な発見もないので難しい所ではあった。


 そんな事をひたすらに考えていると想像以上に時間が経っていた様で宿場にたどりついた。


 人口も250人くらいの村だが、行商が通るので宿が三軒ほどあり空いているとの事だった。


 ベルエドやノアは特に疲れた様子も無かったが、ラシアを含めた初級組は疲れたのかやっとついたと大きく背伸びをする。


 そしてベルエドが冒険者を集めこれからの事を説明する。


「明日の朝には出ると思うがそれまでは自由行動でいいぞ。宿で休みたいなら自分の金で払え。無いなら業者に馬車を借りるか外で寝ろ。とりあえず俺はこの村で困った事が無いか聞いてくる」


 ダードがあったらどうするんだと尋ねる。


「そこはお前達の判断だ。困ってる人を助けようと思うなら助ければいいし放っておくならそれでいい。村も本当に困ってるなら都市に助けを出すしな」


 それもそうかとダード達は納得するがラシアはそうは思わない。こういうのは基本やっておくに越したことはないのだ。


 無視して進んで村に被害が出たのと、お願いを聞いて村に被害が出なかったのは決して同じでは無いからだ。


 進んで助けようとは思わないが到着が少し遅れて文句を言う奴はたぶんいない。行商も初級の人間が護衛をやっているのは分かっている。


 早く着くのも遅れるのもたぶん想定の範囲だろう。そういうのでBに上がれないは無いとしてもAランクに上がるのが少しでも早くなれば良いのだ。今の方が圧倒的にモンスターも弱く依頼も楽だから。


 それでも早く王都に着くに越した事はないので村長の家に向かうベルエドを眺めながら、何も無い事をいのった。


 そして、宿を探しに行こうと考えていると、ダードから話しかけられた。


「ラシア。悪いが俺と一回戦ってくれ。自分がどこまで通用するか知りたい」


 ふだんならそんな喧嘩まがいの事は絶対にしない。怪我をするのも怪我をさせるのも絶対に嫌だからだ。


 だが今回のラシアは少し違う。


「良いですよ。宿を借りてからで良いのと木剣を二本探して来てくれるなら付き合いましょう。太めの木の枝でもいいです」


「わかった。じゃあ適当にさがしてくる。俺は金が勿体ないから馬車でねる」


 そこまでいってダードは何処かに走っていったのでラシアは皆と別れて宿を探しにいく。


 ラシアが断らなかった理由はスキルの事だ。スキルがちゃんと発動しているのか?とかそういうのを確認する為だ。あとどうやってスキルを覚えるのか?も聞きたかったからだ。


 レベルの加減もあるだろうが、ダードの使ったアックススラッシュは弱かった様な気がする。


 そして宿はすぐに見つける事ができ近くには剣を振っても大丈夫そうな広い場所もあったので、先ほど別れた場所へと戻ってきた。


 まだ早い時間だったので行商達は小さな露店を開き村人達に様々な物を売っていた。


 ダードもどこからか木剣を見つけてきた様で手には二本の剣があった。


「ラシアあったぞ。この村を守ってる在住の兵士さんに言ったら貸してくれた。どこでやる?」


 宿の近くに広い場所があるからそこでやろうと伝えると、エリエス、ビエット、ノアも暇なのかついてくる事になった。


 心の中で見ないでとは思うが……こればかりは仕方ないとラシアは諦め、広場で剣を取りダードと向かい合った。


「合図はどうする?」


 調子に乗るわけでは無いが……LV10にも満たないソードマンにLv100のディザスターナイトが負ける事はまずない。そう思いラシアは告げる。


「こちらはいつでも大丈夫です。ですが……すこしスキルが気になるのでスキル使ってください」


「わかった。連発はできないが……怪我なんかしてくれるなよ。いくぞ!アックススラッシュ!」


 スキルを使い斬りかかってきたダードの攻撃をラシアは簡単に受ける。


 このままでも問題なかったが木剣を壊しては勿体ないのでウェポンコンタクトを使用、軽く横に薙ぐとダードは簡単に吹き飛んだ。


 やばっと思ったがその程度ではダードの勢いは止まらない様で、ラシアと同じ様にウェポンコンタクトを使用し打ち合いにきた。


「流石はラシアだな!まったく勝てるきがしねーな!」


 こういう時になんて返せば良いのかはラシアは分からない。ただ間違えて急所にだけ当たらないように注意して剣を振る。


「ダードさん。ソードスラッシュもつかえるなら使ってもらって大丈夫ですよ」


「期待に添えなくて悪いがつかえないんだ」


「分かりました」


 それからダードがつかえるスキルなどを使用してもらい二人は打ち合った。

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