第21話 出発

 初めて街に来た時に話をした門兵に軽く挨拶してからラシア達は橋を渡る。この道はこの世界に来た時に通った道だったなーと少し感慨深い気持ちになる。


 記憶が間違っていなければしばらくは草原のような穀倉地帯が続き、その先で草原に入っていったはずだ。


(まぁ……走ってたしこっちの世界にきてパニくってたから記憶もあやふやだけども……)


 先頭は引率のベルエドが馬に乗り、馬車は全部で五台あるので一人が一台の馬車に乗り込む形だ。ラシア、ダード、ビエット、エリエス、最後の馬車をノアが守っている感じだ。


 歩くよりは速いが……サスペンションみたいな物はたぶんないので、これはケツが痛くなるなとラシアはため息をつく。


 ラシアの場合は荷台がいっぱいだったので馬車を操作する御者の隣に座る事になった。


 景色も見えるし警戒もできるから良いかと考えていると、隣の御者の男が話しかけてくる。


「また……偉いぺっぴんさんな冒険者さんだなー」


 無視する訳にもいかないので、どうもとだけ返事をする。明らかにラシアの女性的な部分に視線が集まってるが、見るなとは言えないので無視するほか無い。


「お嬢さん。それだけ美人なら冒険者みたいな危ない仕事はやめてウチで働かないか?給料ははずむよ」


「やりたい事があるので遠慮します」


 少し気になったのでその辺りを尋ねると、ダンジョン都市と王都を繋ぎ貿易している商会の偉い人だそうだ。


「トップでは無いが、様々なことは任せてもらってあるからね。君が入るというなら何も問題はないよ」


「そんな偉い人が自分から流通に関わらなくても……」


「はははっ。任せてもらっているからにはちゃんと仕事しないとね」


 ラシアは小さくため息をついてから警戒にもどる。と言っても見渡す限りなんの変哲も無い風景なので、見る物は本当に少ない。


 まだ街からも近くこの辺りは危険が少ないと分かっているのか、行商の男は必要以上にラシアに話しかけてくる。


 そんな事が数時間続き、ようやく休憩となった。行商達は馬に水をやり、冒険者は一度リーダーの元に集まった。


「ラシアも大変だったな」ベルエドの一声目はそれだった。助けてくれよとラシアは思うが、一般人相手にどれだけ我慢できるか?とか試されてるのかと思ったので何も言わずに頷くだけにしておいた。


「あのおっさん女好きだからな。秘書というか近くにいるのはかなりの美人揃いだぞ」


「ラッラシアさん!変なことされませんでしたか!」


「はぁ……特になにもありませんが人と話すのが苦手なので大変ですね」


「お前よくそれで冒険者やってるな……流石に少し可哀そうか。ダードかビエット、ラシアと変わってやれ」


 どっちも嫌だろうとは思ったがダードはそうでもなく、行商や商人には顔を売っておきたいとの事なので変わってくれるとの事だ。


「ダードさん。ありがとうございます」


「おう。気にすんな。こっちもその方が都合いいからな」


「確かにダードの言う事もあるな。ノア、休憩ごとに乗る馬車を変えるのはどう思う?」


「変な事されないなら良いんじゃない?私とベルエドは変わらないし」


「それでいくか」


 そして軽食を食べて少し雑談してから出発する。次は暗くなりはじめるまで進むとの事だった。


 ラシアからダードに変わった事で明らかに男は不満そうだったが、ダードは特に気にもせず明るい感じで男に接していた。


 次にラシアが乗った馬車は荷物がまだ少なめだったので後ろに乗って良いと言われた。そこで後ろから左右を見て警戒をはじめる。


 車の音や人の声、そういうのが全くない静かな世界だった。


 聞こえるのは馬車と蹄の音。たまに鳥の音や風の音が聞こえるぐらいで本当に静かな世界だとラシアは思った。


 襲ってくる魔物がいなくて冒険者達は少し退屈そうだったが、戦うのが好きではないラシアはこの静かな感じが心地よかった。


 この世界にきて気が休まる数少ない時間でもあった。


 そしてひたすらに道を進んでいく。


 今日はどうがんばっても村には着かないようで、野営になると先ほどの休憩で言っていた。


 代わり映えしなかった青い空がゆっくりとオレンジ色に染まっていく。


 そして暗くなる前に少し開けた場所へとたどりつき、ここで野営をするとの事だ。


 行商達は馬車の中で寝て、ラシア達冒険者が起きて交代で見張りをする。


 馬たちを馬車から離し休憩させ、冒険者も業者も関係なく焚き火の近くに集まり食事になる。


 ラシアが本当に苦手なやつだ。これがあと数日も続くとなるとそのしんどさは想像を絶する。


 風呂に入られないのも我慢できる。食事が一回とか一日おきでもたぶん我慢できるが……野営の度にこの輪になって夕食を食べるのかと思うと絶望しかない。


 かといって嫌だからと言って逃げ出しても何も解決しないので諦める以外の選択はないのだ。


 図書館で調べているが別の世界に行く方法も帰る方法も載っていない。今できる事はランクを上げて、深淵のダンジョンに行くだけ。


 他の街でも情報収集をすれば何かあるかも知れないが、今は無い。


(あーーーーーーーーーーーーー!おうち帰ってベッドに寝転がりながらゲームしたい!)


 なんでラノベの主人公とかはすぐに別世界になじめるんだ?武装した人間やぞ? とか心の中で大きく叫んでいると、夕食の準備が終わった様で鍋になんか色々ぶち込んで煮たよく分からない物を皿に入れられて、作っていた男に渡された。


「ありがとうございます」


「ねぇちゃん。美人なんだからもう少し愛想良くした方が周りの連中は喜ぶぞ」


 苦笑いしていると全員に行き渡り夕食の時間になった。


 お腹はあまり減ってないが食べないと色々と耐えられないので木でできたスプーンですくい口に運ぶ。


 異世界に来て食べた物で多いのは食感もそうだが、食べた事のない味がとても多い。これもちゃんと料理され味付けもされているが、何かの肉と思うのだが変わった食感がする。


(うーん……まぁ食べられるからいいけど調味料とかも普通にあるんだよな。その辺の流通ってどうなんだろ?まぁダンジョンの攻略に関係ないからいいけど……)


 気にはなるが気にしても仕方の無い事はあるとラシアは思っているので、基本的にダンジョンの攻略に関係ない事は考えないようにしている。


 例えば……食べている物だ。気にしたら食べられなくなる物は確実にある。だから気にしない。都市の屋台で人の腕ぐらいある大きな芋虫が大量に並べられて売っていて、店主であろう人物が焼いて良し煮て良しと言ったのを見てからラシアは気にするのをやめた。


 食べられる物は食べ物。それで良し。調理した物に限る。


 そんな事を考えているとシチューも食べ終わった。ダードやベルエドなどは美味しいと言っておかわりしていたが、ラシアはごちそうさまだ。


 そんなラシアを心配してノアが話しかける。


「ラシアさん。もう食べないんですか?食べないと明日しんどいですよ」


「はい。元から小食ですし、少し疲れたのでこれくらいにしておこうかと」


「そうなんですか?ティアちゃんがラシアさんはご飯持って行くと残さず綺麗に食べるって言ってましたよ。おじさんの宿って食事の量多くないですか?」


 こういう所が知り合いだと困るのだ。


「ははっ……馬車に慣れないので少し酔ったのもあると思います」


「なるほど。これから王都までは長いので体調管理も大事ですよ」


 ノアの言う事は最もである。


 だから無下にもできないのですみませんと静かに謝る。元の世界で働いている時ならともかく……冒険者は本当に大変だなと思う。


 そして色んな人との会話をのらりくらりとやり過ごし、本格的に夜を迎える。


 商人達は馬車の中で眠り、ベルエド、ダード、ラシアの三人が先に見張りとなった。


 後の三人も馬車に少し空きがあるので中で丸くなって寝て、後で交代といった感じだ。


「と言う訳で……男二人にラシアさん一人だけど何かあったら私の火炎魔法が火を噴くのでどうぞよろしく」


「あのな。仕事中じゃなかったら口説きはするが流石にするか。アホな事言ってないでさっさと寝ろ」


 ノアとベルエドのやりとりを見てラシアは苦笑するしかない。たまに自分でも体は女だと言う事を忘れる事があるからだ……


 そして三人で焚き火に集まるとベルエドが今日の感想としてラシアとダードに話をふる。


 こういう所も試験というか評価の一環なのだろうとラシアは思う。


「俺は特に大丈夫だな。モンスターが出た訳でもないしな。行商のおっさん達は少し話しすぎだと思うが……って位だな」


「なるほど。ラシアは?雑談だ。なんでもいいぞ」


「そうですね……穀倉地帯が多かったですが穀物より背の低いモンスター……昆虫系とかスライム系が出たら大変だなとは思いました。発見=接敵なので。あと支援職は欲しいと思っています」


「そんなモンスターってこの辺にいるのか?」


「いないかも知れませんが……いたら面倒なので」


 少し面白そうに「なるほどなるほど」とベルエドは頷き、他には?と話を進める。


「後は……今この時の配置ですね。前衛が三人で後衛が三人なので前衛2後衛1か後衛2前衛1に分けるべきと思います。後衛は火力はありますが接近されない方がいいので」


「ほー。静かな奴とは思っていたがちゃんと見てるんだな。なんで俺が前衛ってわかった?」


 ベルエドがそう言うが装備見れば分かるとは言いにくいので、なんとなく性格ですと答えるとツボに入った様で一人で笑っていた。


「ノアが一発で見破られたって言ってたが……まんざら嘘でも無いみたいだな」


「ラシア。お前すげーな。どうやったら分かるんだ?」


 それからも辺りを警戒しながらだが少し会話をし、夜も更けていった。

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