第101話 パーティー準備


 家に帰ったシリウスは、そういえば明日の夜の準備をしていなかったと思い出す。


 そう、パーティーといえば礼服で参加する必要があるのだ。S級冒険者として装備で行っても良いかもしれないが、目立たず料理を楽しみたいシリウスが装備で行くわけにはいかない。


 装備という目立つ格好で行けばシリウスがここにいますよと宣伝するようなものだ。きっと貴族達がわんさか集まって来るだろう。


 勿論、過去にパーティーに呼ばれたことはあるし、その時の礼服はあるのだが、女性のドレスだけではなく男性の服にも流行があり、シリウスが持っているのは数年前にパーティーの主催に用意してもらったものなのでガッツリ当時の流行に則った型なのだ。


 本来なら招待を受けて、行くと決めた直後に用意しておかなければならなかったのに、すっかりと忘れて前日に思い出すところがシリウスの……人間味のあるところだろう。


「仕方ない。作るか」


 ここで既製品を買いに行こうと考えないところが他の人達に理解されない部分なのだろうが、シリウスとしては他人にアレコレ言われながら服を選ぶより自分に似合う服を作った方が精神的に楽なのだ。



 シリウスは収納魔法に突っ込んで放置していた様々な布を取り出すと、流行の型というよりもスタンダードなスーツ型に合いそうな布を選んだ。

 因みに今の流行はタキシードタイプなので、上手く作らないと高確率でシリウスは浮く。


 それを知らないシリウスは、簡易的なデザイン画を描き、布と糸を錬金釜に放り込んだ。

 作成知識さえあれば、錬金術で他の生産を行うことも可能ではあるのだが、こんなことをするのはシリウスくらいだろう。


 作成イメージがブレたら成功しないので作業工程が多いものほど錬金術での作成が困難なのである。


「まぁ無難だな」


 黒に近いグレイに銀糸で蔓草の刺繍が入ったジャケットは、腰の部分が少し絞ってあり裾は少し長めにとってあり、スーツというよりはフロックコート風である。ズボンも同じような刺繍入りの細身のタイプであり、とても無難なものになっていた。

 シャツは白でアスコットタイは青を用意して、タイピンは過去に作った貝殻を使ったものを使う。


「手袋や靴は前に貰ったやつでいいか」


 これが戦闘用の装備であったならとことん拘ったのだろうが、明日のパーティーで使うだけの礼服なんておかしくなければ良い、くらいのものだった。


「あとは髪をどうするか……」


 別に髪の長い男性は他にも居るのだが、シリウスを見つけやすくする材料にはなる。

 シリウスは髪を切らないのではなく切れない。普通の鋏だとシリウスの魔力防御を抜けないし、シリウスは刃物を持った他人が居る場所で魔力防御を外すことが出来なかったのだ。


 そして、自分で切るのは面倒だった。特に後ろ部分は見えず、腕を後ろに回して切る必要もある。髪が長いのはある程度伸びたら髪を纏めて1本にした状態で固定して余分なところだけ切れば、毛先がガタガタせずにすむからだ。


 尚、精霊は時々『大は小を兼ねる』魔法の使い方をするので、それを身に染みてわかっているシリウスは絶対に精霊には頼まないだろう。


「いつものユルユル三つ編みじゃなくてガッチリ三つ編みにするか」


 面積が少なくなれば目立たないはず――とシリウスは思っているのである。




 パーティーで料理にだけ集中したいからと、本気で目立たないように頑張っているのだが……残念ながら入場の際に名前を呼ばれるので確実にバレるということを失念しているようだ。


 興味がないからこそ初歩的なミスをしてしまう辺り、シリウスも詰めが甘い。

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