第100話 肉を売る


 家の紋章を収穫祭のイベントで提出する感性が理解出来ないが刺繍の腕自体は普通だな――とか言いました!?と、王子の言葉を頭の中で繰り返し、ピシリと笑顔が固まるシャルロット嬢。


 王子の発言が聞こえた他の鑑賞者達も驚きを隠せずにいる。


 一応、こういう場では明らかに失敗している場合以外は褒めるのが普通なのだ。

 王子の発言は、分かりやすく言い換えるなら「秋のモチーフにしとけよ空気読めないやつだな。あと刺繍は普通過ぎて褒めるとこねーから」と言ったようなものなのだ。


 そりゃあ皆してびっくりするだろう。


 なんせ言ったのが第一王子で、言われたのが婚約者のウエスト公爵令嬢なのだから。


「……確かに、収穫祭のイベントですから秋のモチーフにするべきでしたわ。私もっと精進いたしますわね」


 にこやかな笑顔で王子の発言を素直に受け止めて返すシャルロット嬢に、他の人々はホッとしたようだ。

 流石にトップオブトップの喧嘩など見たくは無い。


 因みにだが、学生がイベントに提出する作品については今まで作成したものの中から、授業中に出来が良いものを教師が選んで提出している。

 令嬢の多くが最初に仕上げる刺繍図案が家紋なのだから、作成回数の多い家紋の刺繍の出来が良いのは当然であるし、他の生徒作品でも家紋の刺繍が多く提出されている。

 そして、それは周知されていることなので誰もそこには突っ込まない。


 ただ、その事実は王子の評判を下げ、シャルロット嬢の評判を上げることに繋がった。


 尚、王子はシャルロット嬢の返しがつまらないと、目に見えて機嫌を悪くしているが、内心で『こんなもんかな?』と全て計算してやっている。




 ―――ここまでを見て、裏を知らなければ『ダメ王子とそのフォローをする公爵令嬢』にしか見えないのスゲェなぁ。と、呑気に考えているシリウスは、既にドラマか何かを見ている気分になっていた。


 娯楽扱いは王子に悪いと思いつつ、あの王子なら娯楽として扱うなら対価に便利な魔法でも教えてくださいと言い出しそうな気もするのだ。

 

「さて、このままだと延々と見てしまうからな。先に肉を売りに行かなければ」


 白衣は脱ぎ、薄手のローブを羽織って学園から商業ギルドの屋根に転移した。

 通常でも町中は人が多くて出現場所に困るのに、今は祭りで道に出るのは危険過ぎたのだ。


 人が多数出入りする商業ギルドの入り口を見て、下に降りて受付に行くのが面倒になったシリウスは、浮遊魔法をかけて少し降りた場所にある最上階の窓を叩いた。


 当然だが、忙しそうに書類を見ていた商業ギルドのギルドマスターは音に反応して振り向き、悲鳴を上げながら椅子から転げ落ちたし、ギルドマスターの護衛らしき人物が扉を開けて入ってきた。


「な、何者だ!!」


 と、言ってるんだろうなと推測は出来るが、ギルドマスターの部屋は窓が開いていない場合は機密保持のために遮音の魔法が掛かる仕組みで、全く聞こえていなかった。


 そのため、シリウスはもう一度窓を叩いた。


 護衛がやって来たことに安心したのか、窓から離れたので一先ず落ち着いたのか、商業ギルドマスターは窓の外に居る不審者を確認して―――護衛が止める間もなく窓を開け放った。


「ウォーカー様ではありませんかっ!」


「突然すまない。1階は人がすごくてな」


「いえいえ!どうぞお入りください!あぁ、この方はS級冒険者で学園の教授をされているウォーカー様だから大丈夫だ、ありがとう」


 商業ギルドマスターはシリウスを中に入れ、護衛にシリウスの説明をして部屋から出した。


「こんなことをギルドマスターに直接持ってくる必要も無いんだが肉を売りたい」


 シリウスの言葉を聞いて、商業ギルドマスターはむしろ自分に持ってきてくれて有り難い!と直ぐ様思う。

 流石に商業ギルドマスターともなれば王宮の発注ミスについても知っており、肉の確保に協力することになっていたのだ。


「種類と量を教えていただけますか!?」


「船食い半分」


「多すぎますね!四分の一くらいでないと保管ができません」


「じゃあそれで。あとはフライングコカトリスが10にアイスカウが5だな」


「申し訳ありませんが、その2種は寡聞にして存じ上げず……」


「ただの飛ぶコカトリスと氷を纏った牛だ」


 因みにドワーフ王国がある大陸の、人が全く居ない未開の地で倒したモンスターであり、商品として出回っていないので商業ギルドマスターが知らないのも無理は無い。


 ただ、情報を制限したであろう冒険者ギルドの意図を汲み取らずに現物を商業ギルドマスターに渡してしまうのがシリウスである。

 なんならドワーフ王国がある大陸のモンスターだと説明もした。


 余談だが、初めての肉を手に入れて、シリウスが最初に持って行くのは学園のシェフであり、味を気に入ればシリウスが追加で肉を渡して、食堂の日替わり定食で食べられる。つまり、学園の生徒達にとっては食べたことある味の肉だったりするのだ。


「では船食い四分の一、フライングコカトリス10にアイスカウ5を買い取らせていただきます………特大の収納鞄に入りますかね?」


「特大なら入るだろ」


「ではこちらに移していただいて、船食い以外の2種は査定が終わり次第の振り込みになりますが、種類と査定中とだけ記載して明細書を作成いたします」


 商業ギルドマスターに特大収納鞄を渡され、そこにさっさと肉を移して完了。商業ギルドマスターがきちんと数が入っているかの確認をして、とりあえず船食い分だけシリウスの冒険者カードに入金した。


「わかった。ではな、対応感謝する」


「いえ、良いお取り引きをさせていただきました。またのご利用お待ちしております」


 用事が終わったらさっさと帰るシリウスの性格を知っている商業ギルドマスターは、引き留めることもせずに窓から出ていくシリウスを見送った。


 そして、シリウスが転移で消えた瞬間に、ギルドマスターは急ぎ王宮へと連絡を入れるのであった。

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