帰還座標のない転移によって砂漠に放逐される、というグレイスの境遇は、よくある婚約破棄ものの導入を一段重くしている。王太子妃候補として税と備蓄の改革を進めていた政治的に有能な人物が、不正を告発する直前に冤罪で先手を打たれるという展開は、悪意の巧妙さをきちんと描いている。
特に印象的なのは、章タイトルの付け方だ。「第一部 追放、砂漠、契約」から「第二部 乾いた街に、深い息を」へと移る中で、「残り日数の実測」「下から減る」「匂いの筋」といった生存の実務的な細部にフォーカスした題が並ぶ。最強従魔と魔法というファンタジー要素がありながら、物語の核心は「ひとつずつ生きる仕組みを作っていく」という地道な積み上げにあるのが分かる構成だ。婚約破棄ものにありがちな逆転の爽快感ではなく、過酷な環境に対する具体的な対処の連続として描かれている点に独自性がある。
連載中・全15話、まだ序盤ではあるが、政治的陰謀と砂漠サバイバルという二つの軸が今後どう絡み合っていくのか期待が持てる一作だ。