現代社会にダンジョンができて◯◯年、発生当初は混乱したが今は探索者という職業があって、そんな中で――
という、駆け足の作品なら数行、じっくりやっても1話以内に終わらせるような設定。ネット小説においてはある意味で「そういうもの」として誰しもが受け入れている部分。しかし本作は、では、どうやって現代ダンジョンができていったのかをゼロから丁寧に追う、なかなか出会えないタイプの作品です。
それはある意味、日本社会がディストピア化していく過程でもあって、しかし、ネット小説読者的にはユートピア化でもあって、読んでいる時の感情曲線はジェットコースター並で、一度ハマると止まれません。
作中で起こっていることはある意味、たとえばHUNTER×HUNTERのキメラアントが銃を使うようになったり念を覚え始めたり、そんな「え、もう人類おしまいじゃん」というようなシーンの連続なのですが……それが同時に「あ、なるほど、これがこうなって現代ダンジョン社会に近付くのか!あり得る!」というワクワク感に納得感を与えてくれて、読み進める手が止まらなくなります。生まれて初めてSF小説を読んで知的興奮で眠れなくなったような、そんな感覚なんです。
また、作者さまのバランス感覚の凄まじさには、舌を巻く他ありません。
上で書いたような題材なので当然、作中には、政治、経済、そしてミリタリー描写がかなり含まれるのですが……
無能なだけの警察も、邪悪なだけの政治家も、腹黒いだけのビジネスマンも、嫌がらせにだけ精を出すパイセン探索者も登場しません。ミリタリー豆知識を世界の絶対真理のように押し付けてくることもありません。作中人物たちはあくまで、それぞれの暮らしの中で、それぞれのベストを尽くしている、けれどそれがうまくいくかどうかはまた別の話……というような、ある意味で非常に乾いた、ドライな視点でお話は進んでいきます。それが非常に心地良いんですよ。
こういった「社会」を描く作品にはいくらでも、現代社会に対する皮肉や、作者自身の主張などが混ざり込むものですし、それがジャンル的な魅力となることは確かなのですが、少なくとも私は、この作品の中でそういったモノは感じ取れませんでした。
ただひたすらに、お話を駆動させ、展開させ、爆発させ、一切の不純物なく物語を読者に楽しんでもらう。そういう純粋な気持ちしか、感じ取れないんです。言葉で言うと容易いですが、文章を書く上でそれが、どんなに難しいことか。
どうかこのまま突き進み書籍化、そしてその先まで、突き進んでいってほしい、そんなことをストレートに思わせてくれる作品です。