概要
なくしたのは帽子ではなく、戻る道のほうだった。
恋人を亡くしてから、中年の男は「彼の帽子」を遺品として受け取り、日常の中でそれだけを拠り所にして生きてきた。被るだけで呼吸が整い、隣にいる錯覚が一秒だけ戻る。
だが寂しさを紛らわすために酒へ逃げる夜は増え、ある金曜、飲み過ぎて記憶を失った翌朝――帽子が消えている。部屋中を探しても見つからず、交番で紛失届を出すが、紙一枚の「受理」が戻らない現実を確定させるだけだった。
後悔に押し潰されながらも、彼は酒をやめられない。帽子のない部屋で、控えを机に置き、氷を落とし、また缶を開ける。戻らないものを抱えたまま、夜だけが繰り返し戻ってくる。
だが寂しさを紛らわすために酒へ逃げる夜は増え、ある金曜、飲み過ぎて記憶を失った翌朝――帽子が消えている。部屋中を探しても見つからず、交番で紛失届を出すが、紙一枚の「受理」が戻らない現実を確定させるだけだった。
後悔に押し潰されながらも、彼は酒をやめられない。帽子のない部屋で、控えを机に置き、氷を落とし、また缶を開ける。戻らないものを抱えたまま、夜だけが繰り返し戻ってくる。
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