第27話 石造りの密室で明かされる真実

 しんとした石造りの部屋に、燭台の光がゆらりと揺れている。

 アウレリオ、サラ、フリオ、そして王都に派遣していた使者……四人が簡素な机を囲んでいる。


 「……こちらを、ご覧ください。ご主人様――オルドラン伯爵より言付かったものです」


 サラが重い口を開き、封蝋の施された手紙を渡す。

 オルドラン伯爵からの手紙を開いて目を通した瞬間、瞳の奥の色が変わる。

 琥珀の瞳の奥は、怒りと悲しみ――様々な感情がないまぜになった色を宿していた。


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 アウレリオ・ファルネーゼ侯爵閣下。

 直接お目にかかれない無礼をお許しください。

 先日、我が妻ミレイアの件でご心配をおかけいたしましたことをお詫び申し上げます。


 その後、いくつか妻の行動に不審な点が見受けられましたので、私の方でも調査を進めてまいりました。

 謹んでご報告申し上げます。


 先日、私の体調が優れずに一時的に妻から贈られた指輪を外した際、裏に赤黒い粉末顔料を用いて描かれた印が判明いたしました。

 そして、もしやと思い、妻が私の部屋に飾った装飾品の裏を見たところ、指輪に描かれた赤黒い印が全てに施されておりました。

 設置されている場所も、「ここがいい」とした所は、術の結界のようなものの可能性が高いと考えられます。

 我が娘アリーチェの十八の誕生祝いに妻が用意していた贈り物も、妻が不在の時に調べたところ、やはり同じ印があったのです。


 私の服用しております薬についてですが、薬師を呼び確認したところ、薬師による正式な処方と異なる、印と同じ赤黒い粉末が混入されておりました。


 これは、宰相とミレイアによる裏切り、そう確信いたしました。


 娘アリーチェを父として、先代である私の母が亡きあと守るべきところを、このような身になってしまい、娘を守れなかった。

 あのような仕打ちを止めきれなかった自身に怒りを覚え、悔やんでも悔やみきれません。


 烏滸がましいお願いですが、娘を、どうかお守りください。

 全てを明らかにするため。


 フェルミン・オルドラン。

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 かちり、と全てが繋がり、動き出す音がした。

 

 アウレリオはサラの方を見て、頷く。


 「あと、こちらが……奥様の部屋より持ち出したものでございます」


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 ――ミレイア。

 いつも私のために尽くしてくれて感謝する。

 翡翠の血を消すことは、この国のためでもあるのだ。


 全てが終わったら、私と結婚しよう。


 それまで、君の衣装や装飾は、準備する。

 そして、来週も、いつもの場所で待っている。

 ――サヴェリオ。

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 その時、アウレリオの手が静かに、強く震えた。


(――宰相はまだしも、伯爵夫人も……夫だけでなく、実の娘までも間接的ではあるが――手にかけることは……いとわないというのか)


 サラが呟く。


 「それを知った日――ご主人様も、私も安堵いたしました。出立の日が誕生日でよかった、と。せめて……奥様が、アリーチェ様に贈り物を渡す前で……よかった」


 彼女の目からはとめどなく涙がこぼれ落ちる。その目は、アリーチェをずっと守り通してきた者の目だ。


 「――これで、全て……揃いましたな」


 フリオが深く低い声を落とす。


 燭台の光がゆらり、ゆらりと揺れ、四人は頷く。


 「一度、ファルネーゼ領に戻り、状況を再度整理してから――私は王城へ赴く」


 アウレリオが低い声で告げる。拳が、震えている。

 母親に常に刃を突きつけられていたアリーチェの境遇を思うと、いてもたってもいられない。

 決着を――つけなくては。


 すべてを終わらせるため――何よりも、アリーチェを守り抜くため。


 「サラ、オルドラン伯爵に『アリーチェは必ず守る』と伝えてくれ」

 「ありがとうございます――承知いたしました」


 サラが涙の乾ききらない目で深々と一礼する。


 石造りの部屋に、張り詰めた空気が重くのしかかる。

 ただ、四人の目の奥には『全てを終わらせ、明らかにする』という強い決意が宿っていた。


 使者にサラを屋敷まで送り届けさせたのち、ファルネーゼ領へ急ぎ戻る。

 カタカタと音を立てて進む馬車を包む宵闇。

 それをアウレリオとフリオは――馬車の中から黙ったまま見つめていた。


 真実が重くのしかかる。

 それでもすべてが繋がった今やるべきことはひとつしかない。

 状況を再度整理し、アリーチェに――伝えるべきところは伝え、王城へ赴き全てを終わらせること。


(間接的にとはいえ――母親に命を狙われていたということは、彼女に伝えないほうがいいだろう)


 これ以上彼女を無駄に傷つけたくない。重荷を背負わせたくない。アウレリオはそっと胸にしまい込む。


 外は次第に宵闇から東雲色に変わり、朝露を含んだ草を光が照らす。

 その光はすべてを終わらせる希望のようにも感じられた。


 「――フリオ。戻ったらビセンテに全て報告を。そして得た情報を整理する。用意ができたら――王城へ謁見の申し出を」

 

 フリオは深く頷く。アウレリオは指示を続ける。


 「アリーチェには、厳重な警護を。宰相が手を打ってくる可能性がある――その前に、終わらせる」


༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶

🔹作者より🔹

お読みいただきありがとうございます。

これで第四章終了です。

次の話からは一度アリーチェ視点に戻ります。

ファルネーゼ領で真実を知り、アリーチェが最後に下す決断とは――。


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