第2話 取引

「嘘だろ!? あのボロアームがBランクの核を『無傷で』抜きやがった!」

「おい、今の見ろよ! 破壊じゃねえ、解体だ! 芸術的なまでの査定じゃねえか!」

「ガルスに賭けた奴ら、ご愁傷様だな! 資産がゴミに変わる瞬間が見れたぜ!」


ギルは奪い取ったばかりの、まだ温かい核を掲げた。メイが駆け寄り、その核の輝きを見て目を輝かせる。


「やったね、ギル! これ、高く売れるよ……。これがあれば、あんたの肺のサブスクも、数ヶ月分は一気に払える!」


「……ああ。だが、こいつを狙ってるのは会場の連中だけじゃない」


ギルは周囲の視線を警戒し、核を油まみれの布で包んだ。勝利の余韻に浸る間もなく、会場のシステムが「興行終了」を告げる赤色灯を回転させ始める。数時間後には、ここは企業の清掃部隊によって「何もなかった場所」として処理されるのだ。


「ギル、急いで。上層の監査ログに、このコアのIDが『盗難』として登録されました。……追手(回収員)が来ます」


リィンの警告が脳内に響く。ギルはメイの肩を抱き、興奮冷めやらぬギャラリーを縫うように出口へと急いだ。


ギルは熱を帯びたコアを懐にねじ込むと、メイの腕を引いて闘技場の裏口へと滑り込んだ。追撃ドローンの羽音が聞こえ始める前に、この「熱すぎる資産」を手放さなければならない。


「ギル、あそこに行く気? あそこの仲介屋(ブローカー)、この前は偽造クレジットを掴ませようとしたんだよ!」


メイがぬかるんだ路地で足を取られそうになりながら叫ぶ。


「……背に腹は代えられない。今この瞬間も、サカモト社の追跡ビーコンがこのコアの価値を削り取ってるんだ。足がつく前に『洗浄』する」


たどり着いたのは、廃棄された医療ポッドが山積みになったスクラップ屋の地下。ネオンサインが不規則に点滅し、重度の「クローム熱」に侵された浮浪者たちが、酸素の配給を待って列を作っている。


その奥の強化ガラス越しに、白く濁った義眼を持つ男がニヤリと笑った。闇市場のベテラン、通称『秤のジョー』である。


「……ギルか。相変わらず、泥臭い『掘り出し物』を持ってくるじゃないか」


ジョーは差し出されたBランク・コアを、無機質なセンサーにかけた。


「サカモト社製、個体識別番号は『盗難』。……こいつはリスキーだ。今の市場価格なら48,000だが、洗浄費用と口止め料を差し引いて……2,000クレジット。それが俺の出す『公正な価格』だ」


「2,000!? ふざけないでよ!」


メイがカウンターを叩く。「Bランクの核だよ? どんなに安くたって20,000は下らないはずでしょ!」


「お嬢ちゃん、これは『価値』の話じゃない。『リスク』の引き取り価格だよ。ギルの肺が止まるのと、俺がサカモト社に消されるの、どっちが早いか賭けてみるか?」


リィンがギルにそっと告げる。


「ジョーの言葉は70%の虚飾。残り30%は現実です。上層の監査局がこのセクターを隔離し始めました」


さらに取引を嗅ぎつけたハイエナたちが、暗がりからギルの背後を狙っている。


ギルの左眼が、ジョーの背後の「在庫」をスキャンした。そこには旧型のメンテナンスキットや、出所不明のバイオ燃料タンクが並んでいる。


ギルは懐からコアを取り出し、カウンターの傷だらけの強化ガラスの上に無造作に置いた。青白い脈動を繰り返すコアの光が、ジョーの濁った義眼を照らし出す。


「……いいだろう。クレジットは2,000で手を打つ。だが、それは『手数料』だ」


ギルは重機クローをゆっくりと持ち上げ、ジョーの背後にある厳重にロックされた保管庫を指し示した。


「奥にある『無印(ノーブランド)』の高性能冷却剤を2缶。それと、メイ用の新型消音パッチ……企業のシリアルを削った奴を一つ。それを付けろ。……それでこの『熱い資産』は、あんたのものだ」


ジョーの顔から余裕が消えた。ギルの左眼(査定眼)が、隠し在庫の型番と劣化率を正確に読み取っていることに気づいたからだ。


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