鋼(はがね)の咆哮

@kkes

第1話 テスラ・ジャンクションの残価

天井の巨大な変圧器が青白い火花を散らし、浸水したコンクリートの床を不規則に照らし出す。ここ『テスラ・ジャンクション』は、企業の目を盗んで数時間だけ設営される「消失する宴(バニシング・ピット)」の一つであった。


鉄柵の向こう側では、数百人の「資産価値を剥奪された者たち」が、血とオイルを求めて叫んでいた。


「ギル、見て。オッズが出たよ。……あんた、相変わらず嫌われてるね」


メイが首筋の端子を会場のネットワークに直結し、空中にホログラムを投射した。


【ライブ・オッズ:テスラ・ジャンクション】

• 『企業の清掃人』ガルス:1.2倍(Bランク:全身サカモト社製。推定残価:48,000)

• 『鉄の鑑定士』ギル:8.5倍(Dランク:重機アーム換装。推定残価:250)


「あの重機アームを見ろよ、前時代遺物だぜ!」

「ガルス、あんな粗大ゴミをさっさとスクラップ(換金)しちまえ!」

「損壊予想:ギルの右腕が開始30秒で爆発するに100クレジット」


「……250クレジットか。随分と買い叩かれたもんだな」


ギルは重機クローを一度開き、ガチリと金属音を立てて閉じた。右腕の油圧シリンダーから、熱を帯びたオイルの匂いが立ち昇る。


「ギル、準備はいい? 私が電力を回す。……あいつの『静寂(サイレント)』を焼き切って」


メイが配電盤のレバーを叩き落とした。


瞬間、会場の四方に配置されたテスラ・コイルが激しく放電を開始した。不規則な電撃の嵐が、ガルスの「音を消すためのアクティブ・ノイズキャンセラー」を過負荷に陥れる。


「――チッ、ノイズが……!」


これまで闇に溶けていたガルスのBランク義体が、激しい電子音と共に姿を現した。精密な回路が外部電磁波を遮断しきれず、洗練されていたはずの動作に0.1秒のラグが生じる。


「リィン、査定(アセス)しろ」


「了解。……ガルスの胸部中央。主電源コアの放熱パネルが展開されました。……今です」


ギルはぬかるんだ床を蹴った。Dランクの義足が泥を撥ね上げ、重心移動の遅延が彼を一瞬だけ前傾姿勢にさせる。しかし、その「不格好な前倒れ」こそが、重機アームの質量を乗せた必殺の間合いを生んだ。


「おおっ!? 鑑定士が突っ込んだぞ!」

「ガルスの防御膜が間に合ってない! 誰だ、あんなデカいクローをかわせるって言ったのは!」


ギルの重機クローが、ガルスの美しい白い装甲を掴んだ。


「美学なんざ、腹の足しにもなりゃしないんだよ」


ガルスは必死に逃れようと、Bランクの人工筋肉を最大出力で駆動させる。しかし、ギルの重機クローは、元々数トンの岩石を砕くための代物だ。一度食いつけば、最新鋭の洗練された出力など、単なる「抵抗」にもなりはしない。


「リィン、内部構造の透視を維持しろ。ミリ単位の引き抜き(サルベージ)だ」


「……了解。熱源の中央、接続ラッチまであと3ミリ。……ギル、今です!」


ギルは重機クローのピストンを、あえて「逆方向」に微振動させた。それは破壊のための振動ではなく、部品の噛み合わせを浮かせるための査定士の技。


SYSTEM LOG:

TARGET: GALLUS - CORE INTERFACE BREACHED.

PARTS STATUS: INTEGRITY 98%.


「や、やめろ……! それを抜かれたら、俺の……俺のライセンスが……!」


ガルスの絶叫を、金属が外れる硬質な音が遮った。


ギルは、ガルスの胸部からサカモト社製の最高級パーツ、「Bランク:安定型高密度融合核」を、一本の配線すら傷つけずに鮮やかに引き抜いたのである。


次の瞬間、眩いばかりに輝いていたガルスの義体からすべての光が失われた。膝をつき、泥水の中に崩れ落ちるその姿は、一秒前までの「企業の執行官」ではなく、ただの「動かない鉄塊」に成り果てていた。


【ライブ・マーケット・アップデート】

• ガルス:機能停止。推定残価:48,000 → 4,500(コア紛失によるジャンク化)

• ギル:勝利。推定残価:250 → 12,000(Bランクコアの所有権獲得)


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