第10話 ぽっちゃりエルフの謎の理屈
俺は空間魔法で調理器具や鍋をしまうと、森の方へ顎をしゃくった。
「それよりよ、良い知らせだぜ。……ここは、妖精の繭が多くある場所らしい。キノコ探すときだけで結構見付けた」
「やったね! 災い転じて福となすってヤツだね!」
シャルは気遣わしげにリーナを見やった。
「リーナさん、森に入って妖精の繭をいただくことになるけど……いいの?」
リーナは頷いた。
「シャルは命の恩人だし、チハルはリーナに矢を射られる力を与えてくれました」
「ハハ、意外に律儀だな」
「妖精の繭の採取、リーナもお手伝いします。この近くにエルフの里もあるので、立ち寄ってください。休んでいっても構いませんよ」
「何から何まで助かるぜ」
俺は吠えるように笑った。
リーナが顔を逸らしながら、赤面して言った。
「その代わり、その……リーナに綺麗でカッコイイ身体の作り方を教えてください!」
「なに!? 俺のパーソナルジムに入会したいだって!?」
俺は狂喜して叫んだ。
リーナは慌てて言った。
「そこまでは言ってないです! リーナはこのポッチャ……ちょっとムチッとした身体をどうにか……あぁ、もう!」
俺は笑うと、シャルを見下ろした。コイツも同じ年頃のトレーニングフレンズが出来ると嬉しいだろう。
だが、シャルの表情は曇っていた。
「ふーん、先生……可愛い女の子だったら誰でも入会させるんだ」
何かマズい状況だと直感した俺は「サッサと繭を採取してエルフの里で休もうぜ!」と森の方へ急いで向かった。
「待ってよ、先生!」
「待ってください!」
後ろから少女二人が追いかけてくる。
俺はもう一人じゃない。イヤイヤではなく、進んでトレーニングを真剣にしてくれる仲間が二人も出来たのだ。
俺は意気揚々と森の木の幹についている綿のような白い塊をとってまわった。
「こんだけ集めれば十分だろう」
俺たちは大鍋いっぱいに溢れるほど妖精の繭を採取した。
シャルが額の汗を拭った。
「やったね、先生! 初めてのクエストだったけど、大成功だね! モンスターを倒して、また強くなれたし!」
「これだけの繭を売れば、高級霜降りお肉が買えますね」
リーナがジュルリとよだれを垂らした。
シャルに負けず劣らずの美しい顔立ちだが、ちょっと残念感があるのは多分気のせいではないだろう。
俺たちはリーナに案内され、エルフの里に立ち寄った。
意外にも規模の大きい里で、発光性の地衣植物が辺りにたくさん生えており、緑や青の光がぼんやりとたゆたっていた。
たくさんのエルフたちが興味深げに俺たちを見てきたが、リーナは構わず通りを突っ切り、
「ここがリーナの家です」
と、大きな家の前で立ち止まった。
「立派な家だ。そういや長の孫娘とか言ってたな、お前さん」
「そうです」
リーナは家の周囲をぐるりと周り、庭先へ行った。俺たちも着いていく。
「あ、いました。やいクソジジイ!」
壮年の男が、若いエルフや年少のエルフに弓を指導していところだった。
リーナに声をかけられると、「おうクソ孫!」と顔を綻ばせた。
「また旅人にイタズラするとかしょうもないことしてたのか?」
「しょうもなくないです! 人間に制裁を与えてやってる大切なお仕事です」
迷惑な話だ。
リーナは胸を張り、堂々と宣言した。
「聞いてください! リーナは弓矢を極めました! ヘルハウンドを百匹くらいバッタバッタと倒したのです!」
「この辺りにヘルハウンド?」
「またリーナお姉さんがウソついてるー」
「こないだもドラゴン仕留めたってホラ吹いてたー」
若いエルフが訝しみ、年少のエルフたちが小馬鹿にして騒ぎ立てた。
リーナが憤激する。涙目だ。
「本当だもん! リーナヘルハウンド倒したもん!」
「ハハ……どうも」
俺はリーナのあまりの残念な子ぶりにいたたまれなくなり、進み出た。
「曽田チハルです。こっちはシャル」
「ワシはシルヴァン。一応、長だ。アンタらもすまないな。どうせ、うちの孫が迷惑をかけてきたんだろう」
「そんなところですね」
俺が笑うと、エルフの長シルヴァンも豪快に笑ってくれた。
でも、とシャルはリーナに加勢した。
「ヘルハウンドの群れを倒したのは本当だよ! 百匹はウソだけど!」
リーナは「ね? 先生」と俺を見上げだ。
俺は頷いた。
「あぁ。まさかこの辺りにヘルハウンドが出るなんてな。中級冒険者や上級冒険者は何してるんだか」
俺はそういうと、時空間魔法で収納したヘルハウンドの皮を取り出した。
ざわ……と若いエルフたちがざわめいた。
「本物のヘルハウンド……?」
「本当だったら被害が出る前に退治してくれたのか。お手柄だなぁ」
「いや、それよりあの人間簡単に時空間魔法使わなかったか?」
「時空間魔法なんて、ほぼ失伝してる魔法だろ? マジか」
俺は少し後悔した。筋トレ器具の為に覚えた魔法だが、これを見せると悪目立ちするのを忘れていた。
最悪、トレーニーとしてではなく、魔法の使い手として弟子にしてくれみたいなことを言われてしまうのだ。
俺の出したヘルハウンドの死骸の矢傷を見つめ、シルヴァンは本当にリーナが活躍したと分かったらしい。
シルヴァンは視線を下に落とした。
「バカな孫娘が……食べることと、イタズラすることしか出来なかったカワイイ孫娘が……立派に弓を引いて、人様の役に立った……」
シルヴァンの声は震えていた。もちろん、怒りや負の感情からではない。純粋な驚きと喜びに満ちていた。
「ジジイ……? あの、じいちゃん?」
リーナは心配そうにシルヴァンの顔を覗き込んだ。
シルヴァンは目を拭った。
「リーナ。少しは立派なエルフになったな。だが、まだまだだぞ。弓の道も魔法の道も険しく、深い」
「……はい。じいちゃん」
「だがクソ孫! お前は普段、魔族の戦士の一団を壊滅させたとか、ドラゴンを射落としたとか言ってるよな!?」
「リーナは将来それくらいのことは出来るようになるので、手柄を前借りしてるだけです」
リーナはまったく悪びれもせず、ドヤ顔で胸を張った。
「どういう理屈だろう」
シャルが背伸びし、俺に耳打ちしてきた。
「さすがの俺にも分からん」
と俺は言った。
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