第86話 逃げなかった茶々。万吉に託された秀頼、そして三成が抱える罪

「茶々、お前はどうしても、私と一緒に行かないのか」 

「ええ…殿下が亡くなった今、誰が後始末をつけるというのです」

「太閤殿下も言ったではないか。もういいと…」

「愛してしまったから…あの強くて弱い男を…」

「殿下が亡くなった今、朝鮮に出かけていた武将たちが帰ってきます。異国での苦労は一方ならぬものだったでしょう。労ってやらねばなりません。その狭間にたたされる三成の苦労は想像を絶するものでしょう。それでも耐えてもらわねばなりません。また、各地で建立している寺院なども完成させねばなりません。それもこれも明日の民たちの為です」

「民たちはお前のそんな思いはわかってくれん。いや、わかろうともせん」

「誰かに褒められようとしてやってることではないわ」


「ねえ、ご覧になって」

伏見城の天守閣に万吉は誘われました。

「この城下町をの賑わいをどうお思いになって…殿下が亡くなっても…町の人々は懸命に生きているのよ。それは紛れもなく殿下が作った世だわ。人々をふたたび戦乱の世に巻き込ませないためにも私はここにとどまる。今は国内で争ってる場合ではないわ」

「そんなこと…お前が背負う必要はない…秀頼を巻き込むな」

「ええ…だから…秀頼は異母兄上にあずけます。完子も…」


「おね様はどうおっしゃてる」

「おね様には徳川様を動かしてもらって三成と朝鮮へ行っていた者たちの仲介を頼んでます」


「異母兄上…お願い…秀頼と完子を守って」

いつの間にか、侍女につれられて秀頼と完子がきていました。

「この方は」

「あなたたちの伯父上ですよ」

「伯父上?」

「太閤殿下が亡くなって、私はいろいろやることがあるの。だから、あなたたちは伯父上のもとでしばらく過ごしてちょうだい」

「父上が!」

「伯父様が…」



二人の幼い子供は太閤殿下の死を悲しむ暇もなく、伏見城から、出されました。石田三成が見送ってくれました。

「佐吉…いえ…石田殿、最後に太閤殿下に会わせていただいたこと、感謝しています。茶々のことをよろしく頼みます」

「ええ…」

「これから石田殿も大変だと思いますが…」

「秀次様が亡くなった時から覚悟はしていました。あの方もとうとう、最後まで逃げなかった…」


「泣いているのですか?」

「あのとき、なぜ、もっと殿下を止めなかったのか…」

「私も一緒です。あの時、なぜ、もっと秀次様を説得しなかったのか…」

「言っても詮無いことですが、あの方の妻子までも、殿下が処刑しろと命じられるとは…」


「あの時、他のものにあの方の妻子を処刑させずに私が手を下しました。これは私が一生、抱えていかなければならない罪です」

「あなたも辛かったのですね」

「ええ…あの方の妻子には何の罪もなかったのですから」


また、万吉の胸に薬師様と慕ってくれた秀次の子どもたちの姿が去来しました。


「伯父上?どうなさったのですか?」

「いや…なんでもない…行こうか」

「どこへ行くのですか」

「長浜だよ」


今度こそ…死なせない…この子どもたちは…


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