第78話 父・長政の正体。お前を救うために、国を滅ぼした男
秀次様は関白としてやらねばならなければならないことをやろうとしただけだ。なぜ、腹を切らなければならなかったんだ。それにあの方の奥方様たちや子どもたちが何をしたっていうんだ。
薬師様、薬師様と言って慕ってくれた子どもたちの姿が浮かんでは消えました。
茶々や江が、心配で大坂城にとどまっていた万吉でしたが、秀吉はあれほどお拾いを溺愛しているんだ。何があっても茶々やお拾いを守るだろう。もともと、自分は人々のために薬師になったんだ。もう、ここから離れようかと考えながら庭を歩いていました。
秀吉が茶々とお拾いを連れて歩いているのが見えました。
お拾い…あの子さえ生まれなければ、そう言えば、茶々はあの子を生むのを不安がっていたな。その予感は当たっていたのか。あの子には何の罪もないことだが。
「殿下、どうでしょう。江を徳川殿に嫁がせるというのは」
「そうだな。徳川を滅ぼすにしても、もう少し時がいる」
その言葉を万吉は信じられない思いをして聞きました。な…江まで巻き込むのか。江は完子と、今、落ち着いて暮らしているというのに…
万吉はおもわず二人の前にでました。
「なんだ?万福丸殿ではないか」
「今の話は本当ですか?江を徳川様に嫁がせるなど…」
「ああ…徳川殿を葬るには秀次のようにはいかんからな」
「秀次様…あの方は関白としてやらねばならないことをしようとしただけだ。それでもあの方はご自分が腹を切ればと……なのに、あの方の奥方様やお子様方まで…あなたは人でなしだ」
「なんだと」
「大政所様の言っていた通りだ。大政所様はあなたのような人でなしを生んだことを後悔していると言っていました」
「おっか様がそんなことをいうはずがない。おっか様を侮辱するな」
「本当のことだ。人でなし」
「異母兄上…早く…殿下にお詫びして…」
「茶々…お前が…そんななら、もう異母妹とは思わない」
「だまれ!だまれ!わしが人でなしならお前の父親はなんだ」
「父上?」
「ああ…お前の父はお前だけのために大勢の無辜の民を殺したのじゃ」
「どういうことだ?」
「教えてやろう。お前の父は信長公にお前の命を差し出せと言われて逆らったのじゃ」
「な…なぜ…」
「信長公はお前の父を愛していた。信長公は誰も信じない方だった。その信長公が唯一信じたのが、お前の父だ。信長公は確かめたかっただけなのじゃ。誰よりも自分を選んでくれると。だが、お前の父が選んだのはお前だった」
「浅井長政だってバカではない。弱小の浅井家では太刀打ちできぬと考えた。だから朝倉家を巻き込んだ。それもこれも、お前のためじゃ」
「………朝倉家が…なぜ…」
「朝倉家は雪と一向一揆に悩まされていた国だ。だが、信長公が足利義昭を担いでいる以上、逆らうつもりはなかったのじゃ。義昭様からの上洛要請にも無理をしてでも従うつもりだった。それをお前の父が止めた」
「だが、織田信長公に敗れた。それでも往生際が悪く、足軽上がりのわしに頭をさげたのじゃ。お前を助けてくれと」
「う…嘘だ…父上が、そんな…」
「昔、お前は徳川殿に言ったそうだな。妻子のために信長公と一戦しようと思わなかったのかと。徳川殿は妻子を見捨てた。民のためにな。民のために我が子を犠牲にした。だが、お前の父はなんだ?そんなお前がわしを責められるのか。父が子どもを守ろうとして何が悪い」
万吉にとって父は民を慈しみ…自分を裏切っていく家臣たちにも思いやりが深く…誇りでした。その父が自分一人のために信長に叛き、大勢の者を死に追いやった……信じられない話でした。
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