第63話 皇室へ続く血筋

大政所の言葉もあり、一時保留になっていた明征伐でしたが、その明征伐にあたり、案内を頼んだ朝鮮が拒否したことで、秀吉はまずは朝鮮に攻め入ることを決めました。各地の諸侯が動員されました。その動員された中には江の夫の羽柴秀勝もいたのです。


それからしばらくして、羽柴秀勝が病死したという知らせが届きました。


「秀勝殿が…江はさぞ、気落ちしているだろう。私が行ってもどうなるものでもないが…行ってみよう」


大政所に気に入られた万吉はなんとなく、まだ、大阪城にいたのです。なんだか騒がしい声が聞こえて来ました。


「そんな…おっか様、その身体で聚楽第まで行くなど…」

「江が悲しんでいるんじゃ。わしが行っても慰めにはならんかもしれんが行ってやりたいんじゃ」

「北政所様、私が付き添います」

「万福丸…いえ…万吉殿…」

「わしも行く…どうか…おねさん、仲のやりたいようにさせてやってくれ」

「お義父様」


なんだかんだ、揉めましたが、結局、大政所、北政所、竹阿弥、万吉の四人は江の住む聚楽第に向かうことにしました。羽柴秀勝は秀吉の勘気に触れ、領地であった岐阜を取り上げられた為、兄の秀次を頼り、聚楽第に身を寄せていたのです。秀吉にしても可愛い甥のこと、この戦で手柄をたてさせて、新たに領地を与えようとしたのでした。その秀吉は遠く九州の肥前名古屋城にいました。


聚楽第につくと、江は、大政所に抱きつきました。

「ばば様」

「よしよし…泣いてはいかんぞ。泣いては腹の子に触る」

大政所は優しく江の肩を撫でました。

「そなたの異母兄上もまいっておる」

「あ…異母兄上、久しぶりです」

涙ながらに江は顔をあげました。

「大政所様の言う通りだ。泣いては腹の子に良くない」

「お前さま、江に茶など点ててやってくれ。気が休まるじゃろ」

「お…おう…」

「ばば様」


秀次もやって来ました。

「秀次か…どうじゃ、関白の仕事は?」

「なかなか、叔父上のようにはいきません。秀勝がいれば…まだ…いろいろと手伝ってもらえたのですが」

「これ」

大政所は窘めました。

「あ…すみません…」

「私がお手伝いできることがあればよいのですが」

そう言ったのはおねでした。

「助かります」


「おっか様、まずは旅装束を脱いでゆったりなさるといい。秀次殿、私たちのお部屋は…」

「ああ…用意しています。ばば様とじじ様は同じ部屋でよろしかったでしょうか?後は叔母上の部屋と薬師様の部屋を用意しています」


「やっかいをかけますがよろしくお願いします。後、おっか様が言ったように江殿に茶を点てられるように茶室もお借りできますか」

「ええ…それは無論」

「おっか様、私はいろいろと旅の後始末をして参ります。どうか江殿を労ってあげてください」


旅装束を脱ぐのもそこそこに大政所、竹阿弥、江、万吉の四人は茶室に入りました。


「美味しい。やっぱりじじ様の点ててくれるお茶は美味しい」

「そうか…そうか…江の気が休まるならいくらでも…なあ…お前様」

「江はうれしいことを言ってくれるのう。わしは、どうも茶の湯とかいう所作には慣れんでのう。そういえば、わしが仕えていた信秀様もそれは美味しそうに拙いわしが点てた茶を飲んでくれた。豪快なお方じゃった。あるときなどは立ったままでな、冷や飯に茶をぶっかけて食べておった」

「そのようなことがあったのですね。でも…どうしてじじ様は、その信秀様の元を辞されたのですか」

「もう…遠い昔のことじゃ、忘れてしもうた」

「わしは覚えておるぞ。わしが側にいて欲しいと言ったからじゃ」

「お…お前…何を言い出すんじゃ」

「羨ましい。じじ様にそんなに思われているばば様が…与九郎様も秀勝様も私の気持ちなどわかってくれなかった。私は大きな屋敷や美しい着物などいらなかった。ただ側にいて欲しかった。与九郎様は勝手に私に浪人暮らしは無理だと決めつけて、秀勝様は秀吉様の勘気を解いて、また、大きな領地をもらって、お前を楽をさせてやるなんて言って、私が行かないでくれって言うのを聞いてくれなかった」

「そうか…江は言ったんじゃのう。偉いのう」

「え?」

「わしは日吉の父親には言えなんだ。だから、わしはもう愛している人を失いたくなくて、竹阿弥には側にいてくれと言ったんじゃ」

「あ…愛している人って?」

「なんじゃ、お前さま…わしは言わんでもわかってくれてると思っとった」

「ああ…私の愚痴を聞いてもらうつもりが、ばば様とじじ様の惚気話を聞かされるハメになるとは」

「はは…」


竹阿弥は耳まで真っ赤にしています。

「竹阿弥さん、そろそろ認めたらどうです」

「な…何をじゃ…」

「大政所様が竹阿弥さんを愛しているってことをですよ。私はずっと気づいてましたよ」


その時です。江に陣痛が起こり始めました。

「何?この痛みは?」

「心配はいらない。陣痛が始まったんだ。これからだんだん痛みの間隔が短くなっていく」

「そうじゃ。気を強く持つんじゃ」

「竹阿弥さん、江にお産のできる部屋を頼んで来てください。それと湯を、さらしもできるだけたくさん」

「江、がんばるんじゃ。皆がついている。お前はけっして一人ではない」


大政所は江の手を握り励ましています。


やがて江は部屋を移され、長い陣痛の末に女の子が生まれました。


万吉と大政所、竹阿弥は手を取り合って喜びました。おねも江が無事、お産をしたとの知らせを聞いて安堵したのでした。後にこの女の子は九条幸家に嫁ぎ多くの子女を儲け、その血筋は現代の皇室へと続いていきます。


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