第62話 大政所 仲の夢
大政所、仲は夢を見ていました。若い頃の夢でした。
「弥右衛門殿、戦にいくというのは本当か」
「ああ…織田信秀様が兵を集めておられるからな」
「けど、どうしても応じなければいかんもんじゃないと聞いた」
「そうじゃが、これはええ機会じゃ。手柄をたてて、いずれは一国一城の主になってやる」
「おっとうは殿さまになるのか」
娘のともを抱き上げて弥右衛門は言いました。
「おお…ともはいつもええ子じゃのう。そうじゃ。おっとうは殿さまになるんじゃ」
「じゃあ、綺麗なべべやかんざしも買えるようになるのか」
「そうじゃ。いくらでも買うてやるぞ」
「いかんでくれ。綺麗なべべなんぞいらん」
「なんか言ったか」
「いや、出世したらわしの様なもんは側にいられんようになるのう」
「何を言っとる。俺の女はお前一人じゃ。お前は俺の北の方じゃ」
途方もない夢を語る弥右衛門が好きじゃった。だから、わしは言えなんだ。戦になんぞいかんでくれと。
弥右衛門が戦に言って間もなく腹に日吉がいるのがわかった。どこのお殿様も田植えや刈り入れの時期は戦を避けてくれるから田植えまでには帰って来てくれると思ってた。けど、帰ってこんかった。一緒にいた人から討ち死にしたと聞かされた。幼いともをかかえて、腹が子もいては働けん。この子は諦めなあかんのか…
そう思ってわしは日吉を流そうとして、田んぼの水に浸かった。それを止めてくれたのは竹阿弥じゃった。
「何をしとるんじゃ。お前さんは」
「あんたは…」
竹阿弥の家に連れて行かれて、竹阿弥はわしに暖かい汁を振る舞ってくれた。
「何があったか知らんが…あんなところで水に浸かって…何を考えているんじゃ」
「亭主が戦で死んで…幼い娘もいて…腹に子がいて働けん。このままじゃ二人とも飢えてしまう」
「……もしかして、子を流そうとしたんか」
「………」
「あかんよ。あんたの死んだ亭主もそんな事、望んではおらんだろ。それで…娘さんは…今…どこに?お前さんがいなくて不安がってるじゃろ。あんたが無茶して、命を落としでもしたら、その娘さんはどうなるんじゃ」
「………」
「家はどこじゃ。それを食べたら送っていこう」
それから何かにつけて、竹阿弥は気にかけてくれ、生活の面倒も見てくれた。どうして、そこまでしてくれたのかわからなかったが、竹阿弥に頼るしかなかった。竹阿弥は織田信秀様に仕えている茶坊主だった。信秀様からくだされ物があったら、わしらにも分けてくれて…竹阿弥がいたから日吉も生むことができた。
日吉がまだ物心もつかない頃だっただろうか。高い熱が出て、貧しい家じゃ。医師も薬師も来てもらえん。やっと来てもらえた薬師は治すには高価な薬がいるという。それを聞いていた竹阿弥は、どこからか銭を持って来てくれた。それがどんな銭だったのか。竹阿弥は言わなんだが、きっと良くない銭だろうということはわかった。でも…わしはそれがわかって受け取った。その銭を薬師に渡して薬をもらった。そのおかげで日吉は命を取り留めた。その後、なぜか竹阿弥は織田信秀様の茶坊主というのをしくじったというのを聞いた。あの薬の銭の為に竹阿弥は……
後に竹阿弥と同じ茶坊主仲間の男に聞いた。なんでも信秀様の茶道具の棗を盗んだため、暇を出されたと。
問い詰めるわしに竹阿弥は言ったんだ。
「仲さんは気にせんでええ…信秀様はわしに暇を出すだけで済ませてくれたんじゃ」
「わしは…おまえさんに、どうやって償えばいいんじゃ?」
「わしが好きでしたことじゃ。仲さんに関係ないことじゃ」
「なんでじゃ。日吉のためじゃろ」
「いや…仲さん…わしは仲さんが…好きなんじゃ」
気づいていた。だけど知らないふりをしていた。
「嫁になってくれんかの?きっと大事にする」
「うん…」
わしは頷いた。
ああ…夢を見ていたのか。竹阿弥は日吉には絶対言うなと言っとたが、やはり、自分が亡うなる前に日吉に言っておくべきじゃろう。
大政所、仲はそう思いました。
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