本来ならば物語中の切ない恋の描写などを特筆すべきなのでしょうが──
今作を読んで『路面電車』について語りたくなりました!!(←なんで?)
では語ります。
路面電車、それはノスタルジーです。そして何より、物語の舞台としてとても『ちょうどよいサイズ』をしていると思うのです。
車内の誰においても視線を合わせることのできる距離感。そして公共の場所だからと互いに不干渉を貫いても妥当な空気感。そんな中で対面する座席や、隣り合う座席の間にふと生まれる人間ドラマ……やっぱり路面電車ってだけで物語を幾つでも作れますね。
よく物語の舞台として描かれるのは『学校の教室』が定番なんでしょうが……あそこを舞台にするのって苦手なんですよね。
やはりチンチン電車がいい!(←結論)
読後に「ほう」と息をつきたくなるようなノスタルジーと初恋の物語でした。
オススメです。
初恋の記憶は歳月を経ても色褪せず、主人公の胸の奥へしまい込まれていました。
廃線となった路面電車のように消えたあの日の恋心。
失恋という形で終点を迎えたほろ苦い記憶です。
〝路面電車は、楽しかったです〟
彼女の言ったその言葉。
共有された思い出は主人公の過去の心の寄す処でした。
半世紀を経て老いと喪失を経た再びの春。
〝旧電車通り〟に佇む主人公。
青春は戻らない。
誰かを想った自分は、今もここに停まっている。
そして、未来はまだ来ない。
郷愁と甘酸っぱさが去来する優れた短編です。
この物語を読み終えたあと。
遠い思い出が、あなたの心にもきっと蘇ることでしょう。
これぞ、一人称視点小説の巧みなトリックと言いますか……
相手の気持ちはわからないんですよ。
本当はどう思っていたのか、なんて。
主人公は、路面電車の中にいつもいる青山ミドリさんに恋をした。
しかし彼女は厳しい家庭に育てられているらしく、恋愛は御法度なのだそうだ。
そして今日も黒い車が彼女を連れ去っていく。
ここで、気がつかないといけないのである。
そうなのだ。送迎は黒い車が付いているのだ。
じゃあ、なんで路面電車に乗っていたか!?
彼女の本心はわかる術がないが、想像ならできる。
本当は、彼女も主人公との路面電車の時間が大切だったのではないだろうか?
しかし、子供にはままならないことはあるのだ。
厳しい家庭を持てば尚更のこと。
ミドリさんが何を思い、どういう気持ちで半世紀を過ごしたのかは、
読み手が想像するしかない。
ここが、この小説の一番面白いところなのだと思う。
ご一読を。
人生には様々な味がある。そのことを強く実感させられました。
主人公は路面電車に乗る。幼い頃から憧れていた車両の中に乗って高揚した気持ちを覚える。
そこで更に、隣のクラスのミドリさんという少女と隣り合わせになり、心を更に揺さぶられることに。
どこか寂しそうな顔をして、他の同級生とも距離を取り気味な彼女。そんな彼女に想いを抱くようになり、彼女に告白しようと決意するが……。
その後がなんと言っても切ない。「青春の甘酸っぱさ」と「人生の酸い」、そして「それでも滲み出る希望」という、青春や人生の様々な味わいを堪能することができる、素敵な作品でした。