EP.14 彼方の記憶
「眩…!?」
緊急形成された道を走っていたウルフカットの少女は、進行方向から放たれた眩い光に思わず足を止めてしまう。薄目の視界で見やると、蒼白い稲光が徐々に収まって行く様子が見え…同時にヒュドラの気配も消え失せた。
「なんだったんだ…?」
『〈スバル〉!ヒュドラの魔力反応が消失した、報道の映像が途切れて状況を確認出来ない、何が起こったか分かる?』
「今から確認に行く」
腰に差した双刀を抜き放ち、スバルと呼ばれた少女は再び走り出す。彼女の名前は〈日名川ヒナ〉、砂原が岐阜から来る様に要請した準S級魔法少女である。
「うお…なんつー魔力濃度だよ…」
現場が近づくに連れ、空気が重くなって行くのを感じる日奈川。
彼女を始め、十分な研鑽を積んだ魔法少女は、八雲スズの様にあからさまに目に見えて感じる事は出来ないが、肌で魔力をある程度は感じる事ができる。
魔獣が倒された後はその体に溜め込まれていた魔力が空気中に放出され、周辺の魔力濃度はすぐに薄まって行くのだが、今回は余りに量が多すぎるが故、日名川にもハッキリと知覚出来ていたのだった。
「よ…っと」
宙を舞い、手近なビルから眼下を見下ろすと、日名川の視界に横たわる巨大な蛇が映る。中央の首から胴体を貫く傷跡に先ず視線を向け、続けて紫の血が流れ出るのを見て思わず顔を顰めるが、すぐに地上に降りると戦闘を行っていた魔法少女達を探し始めた。
「おい、大丈夫か」
最初に見つけたのは、シェルター前でへたり込んでいる2人の魔法少女達。日本支部から緊急派遣され、品川アリスにこの場を任された彼女達は、ヒュドラの威圧にあてられてしまっていた。
「あ…スバル…さん…」
「立たなくて良い、何があった」
「す、スズちゃん達が…向こうに…」
魔法少女が指差した方向には、ヒュドラが倒れ伏している。まさかと思い日名川が歩んで行くと、ヒュドラの胴体の上に佇む灰色の少女が視界に入った。
少女の左腕は肩口から失われており、右腕には火花を散らす巨大な筒が装着されていて—————
「ッ……」
振り向いた少女の、爛々と輝く蒼い目を見た日名川の背筋に冷たいものが走る。
「お、おい…」
「…救援…か…すま……が…動……切………回収…れ…」
しかし、少女は途切れ途切れに言葉を発すると、瞳から光を失いヒュドラの上から落下する。
「!?あぶねぇっ!」
慌てて双刀を放り、間一髪で少女を受け止めてホッと息を吐く日名川。だが腕の中に抱えた少女のあどけなさの残る顔と、黒く焦げた肩口が同時に視界に入り静かに目を逸らす。
(状況から見て、コイツがヒュドラを倒した…のか。こんな華奢な体で…)
思いながら周囲を見渡すと、瓦礫の中に金髪の少女や銀髪の少女が横たわっているのに気付き、日名川はその旨を支部に連絡するのだった。
◇
「3時方向!敵多数出現!!」
『イーグル1、爆撃機の到達まで3分だ。持ち堪えろ』
「…了解した」
枯れた大地の上を砲火が飛び交う戦場。
俺達の居る防御陣地の外にはSilent Legionの大群勢が押し寄せ、今にも防御壁を押し潰そうとしていた。
轟音。
すぐ横で爆発が起こり、部下の1人が塵となって消え失せた。それを一瞥し、思わずビームライフルを握る手に力が入るが、怒りを押し殺し迫り来る敵に銃口を向ける。
…3連射。しかし放った光弾は鈍色の波に対して余りにも矮小で、まるで効果は見られない。部下達の砲火も例外では無く、その尽くが群勢に吸い込まれて行った。
「クソっ…キリがねぇ…!隊長!爆撃機はまだですか!?」
「あと3分だ。……すまない」
「うおッ…!隊長が謝る事ないですよ!俺達はアンタの部下なんだ!地獄の果てにでも…」
話していた部下の声が途切れる。見ると頭をヘルメット諸共撃ち抜かれ、大穴が空いていた。直ぐに他の部下が遺体に目を向けるが、俺が首を横に振ると涙を浮かべ、再び銃を構える。
「ルイ…!」
「…………ッ」
…己を殺せ、決して揺らぐな。任務を遂行する事に集中しろ。引き金から指を離す事なく、前を向け。
誓っただろう?連邦に全てを捧げ、勝利の為に戦うと。
戦場に余計な感情など必要無い。悲しむ事など帰ってから幾らでも出来る。
今はただ己を殺せ。ひたすらに兵士であれ。
「ガァッ!!」
「ケイ!?今い…ヅっ」
おの、れを…
「アイアンソルジャーの適合手術を受けたいだと?確かに貴官は多くの組織を失ってはいるが、まだ人間として過ごす事も決して不可能ではない。それに適合手術には多大な苦痛が伴うのも知っているだろうに」
…だからどうした。
最悪ショック死する恐れがあると、上官が眉を顰めて言ってくる。コイツは何も分かっていない。痛みでショック死だと?ならその痛みすら感じずに死んだ部下はどうなる?
「貴官には後方で補給任務に当たってもらう、暫くの療養も兼ねているが…」
…黙れ、俺には力が必要なんだ。
無論、俺への気遣いには感謝する。
だが、アイツらはまだ、あの地獄の中で戦っているんだぞ。
だから頼む、俺を死なせないでくれ。
部下や仲間を、決して失わない力が。
どんな時でも揺らがない、鋼鉄の力が。
……必要なんだ。
-……我領域 活動を再開-
-警告 左腕全損状態 戦闘能力低下-
…長い夢を見ていた様な気分だ。相変わらず頭に警告音は響いているが、周囲に敵影は確認出来ず、警戒態勢を解除する。
意識喪失状態にあったか…やはり不完全な状態で専用兵装の使用は避けた方が良かったのだろう。ログを見ると、回路にかかった負荷が最大で平常時の18倍までに昇っていた。
確かにこれだけ負荷がかかれば、当然思考ユニットの安全確保のために意識を遮断せざるを得なくなるな。ただ、亜空間ハンガーとの接続を確立出来ればこんな事態はそう起こらないだろう。
さて、思考整理はこの辺で今の俺がおかれている状況はどうなっている…?
思いながら目を開けると、純白の天井と目に涙を浮かべた3人の少女の顔が視界に映った。
「あ、起きたっ!!」
「良か…った……」
「っ……!」
かなり、心配を掛けてしまったらしい。一抹の申し訳無さを感じつつ、俺が強化人間であり、そう簡単には壊れない事を周知していなかったのが悔やまれる。
俺が損傷ありきで戦闘すると始めから分かっていれば、彼女達に余計な精神的負担をかけることも無かっただろう。これは完全に俺の非だ。
などと、泣き喚く少女らを見ながら思う。しかしそれはそれとして…
「あまり騒ぐな、見た所ここは医療施設だろう?他の患者に迷惑がかかる」
「…っ」
「…ふふっ」
「?何が可笑しい?」
俺が注意し一瞬静まったと思いきや、月宮ハルカと品川アリスが笑みを浮かべる。何か変な事でも言っただろうか。
「いや、全然変わらないなぁって…こんなになっちゃってるのに…」
涙を浮かべながら笑う月宮ハルカ。十中八九全損した左腕の事だろう。そう言えば、これも説明していなかった————
だが説明するべく口を開こうとした時、病室から八雲スズが退出して行ってしまう。何か急用だろうか?
◇
イナズマちゃんの部屋から出た私は、その足で真っ直ぐ支部長の元へ向かった。
「ん?八雲か、見舞いは済んだの?」
「……砂原支部長、支部長は、イナズマちゃんが別の世界からきた強化人間だって知ってたんですよね」
「えぇ。本人の口から伝えられたわ。それがどうしたの?」
「私、イナズマちゃんの寝ている姿を見ながらずっと考えていたんです。近付くにはどうすれば良いのかなって」
今の私じゃ、イナズマちゃんの側には行けない。強さとか、そういう話じゃ無くて、私がこの体に拘っている内は、絶対に。
「…〈センチネル計画〉のテストパイロット、募集はまだしてましたよね」
「あぁ、確かにまだ募集してるけど…でもあんなのダメ元で、そのうち取り消されると思うわよ」
あ、良かった。まだ募集してたんだ。だったら…
「志願します、テストパイロットに」
「…え、待って、何を言ってるの!?」
まぁ確かに、支部長なら止めるよね。私だってアリスとかハルカが同じ事言い出したら止めると思うし。
でも、こればかりは譲れない。
「私が適任です。やらせてください」
「本気で言ってるの!?だってあれは—————
—————自分の四肢と引き換えになるのよ!?」
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