このシリーズを読むのが楽しみになっている。今回もまた、期待を裏切らない見事な短編だ。
方違えで少将が訪れた屋敷に、夜ごと響く横笛の音。
恋の気配と怪異の気配が、すれすれに重なり合い、どちらにも言い切れないまま読者を引っ張っていく構成が魅力。さりげなく挿入されている和歌もよい。
雅びな語り口のまま、背筋だけがじわりと寒くなる「静かな怖さ」がある。
嵯峨殿の密かな怒りが伝わってきて、この二人のファンとしてはにんまりとするところ。
そして何より、タイトルどおり“悲恋”の余韻が強い。
派手に脅かすのではなく、音と気配と沈黙で心を締める一編。読み終えたあともしばらく、笛の音が耳に残った気がした。