希望が有る人ー元天才子役の僕が1人の役者に戻るまで
山田しょう子
第1話 パニック症が僕を九州の田舎に逃がした。
※この物語は実在する病気や障害が出てきますが診断名は執筆時の2026年の医学的情報に基づいて書いています。
僕のお母さん(一般女性)は13歳のときに突然死した。
大動脈だったかどうか説明は聞いたけど13歳の僕は天才子役として名を馳せたくさんのドラマや映画なの出演経験があるのに現実と虚構の違いをわかったつもりでいながら「まるでドラマみたい」と心は現実を受け止めきれなかった。
元アイドルで今は舞台を中心に活躍しているお父さんはずっと泣いてた。あんなに泣いてるお父さんを前に僕は泣けなかった。
僕が泣いたらお父さんはもっと泣いてしまう。
だから僕は泣いちゃだめだ…と遺体の前で耐えていた記憶はある。
事件が起きたのは通夜だった。
お父さんはまだ泣いている。
隣にはお母さんの妹である祭子(さいこ)さん夫婦がいる。
「ゆきくん。無理しなくていいからね」と祭子さんが白いハンカチを出してくれて、もう我慢しなくていいのかな?と気が緩みかけたときだった。
目の前に僕にとって一番怖い人がいる。
我妻美希人(あがつまみきと)16歳。
お父さんの前の奥さんの息子さん。僕の腹違いの兄であり売れない役者でなんでかわからないけど彼は僕のことが恐ろしいくらい嫌いだ。
「泣くな」
「え?」
「寝取り女の汚い息子!父さんが泣いてるからお前は泣くな!!」と僕に平手打ちをしそうになり周りの大人達が必死に止めていたときだった。
お父さんが「俺の息子を侮辱するな!!」と美希人を平手打ちした。
もうその日の通夜はめちゃくちゃになり芸能ニュースになった。ついでに僕と美希人が腹違いの兄弟であることもアウティングされワイドショーではご想像通り人の不幸を楽しむ餌に僕らはなってしまった。
葬儀から1週間後。美希人は女子生徒に身体的暴力を行ったいじめを週刊誌に告発され僕はまだ難しいことはわからないけど警察沙汰になり美希人は裁判にかけられお父さんはいじめ加害者の親として責任を取る立場になった。お父さんは謝罪文を書き謝罪会見をし僕らは世間の悪意に食い散らかされる日々が続きボロボロだった。
そんな日々の中、僕は撮影現場で激しい恐怖と過呼吸で目の前が真っ白になり倒れ救急車で運ばれた病院でパニック症と診断された。医者からは芸能活動をやめなくては治らないと言われた。
僕はもう自分で何も考えることができず言われるがままに芸能界を去ることになった。
お父さんは祭子さんに連絡をして「ゆきくん。私達のところに逃げなさい」と僕は言われるがまま冬休みに祭子さん達が住む九州の田舎に単身逃げた。
そのときの僕の世界はひたすら灰色になってたけど正直お父さんといるより気が楽な祭子さん夫婦の家で僕はとにかく休みなさいと言われ処方された精神安定剤と眠剤に導かれるがまま、冬休み中ひたすら眠ってた。年越しそばもお雑煮も僕は何も食べられなかった。
何故か僕は幸せになってはいけないという強迫観念がすごかったのだ。何故かわからないけど。
冬休みが終わるとパニック症に理解がある学校にまず保健室登校から学校生活を始めた。
田舎の中学校も噂好きで元子役の僕に会いたくてわざと保健室に来る生徒も来たけど覇気の無い僕は誰から見ても何かの病気を抱えたただの中学生にしか見えず気がついたら誰も来なくなった。
集団の授業が辛い僕は個別に先生が来て保健室で授業を受けたけど最初の1年間はただ聞き流して言われるがままノートに書くだけしか出来なかった。
パニック症には波があり1年かけて症状は薬物療法が効いて楽になってきた。
楽になると同時に祭子さん夫婦がどう暮らしているかも見えてくるようになった。
祭子さんは精神科で看護師としてバリバリに働いてる。家事は苦手だから基本ほとんどしない。
休日は基本的に寝てる。そして起きたらよく食べる。趣味は無いの?と聞いたら食っちゃ寝が趣味だと返された。
賢治さんは僕はペンネームを知らないけど派手に売れてはいないが日々の生活に困らないくらいは稼いでる作家さんだ。ただ一度も執筆してる姿は見たことない。
賢治さんはおばちゃんよりのおじさんで専業主夫兼たまに作家のスーパーマンだと本人は自負している。ちなみに家事はプロ級で料理もめちゃくちゃ美味い。あまりにも家事ができるので祭子さんは専業主夫の賢治さんにちゃんとお給料を渡している。
「家事が当たり前にできる人は男女問わず貴重なのよ。だからちゃんと対価を払うのが礼儀」が祭子さんが賢治さんにお給料を渡すときの決まり文句だ。
賢治さんは半分貯金して半分は趣味の読書やジャンル国外問わず映画やドラマやアニメのDVDを買い祭子さんがソファーで寝てる横で洗濯物を畳みながらアイロンをかけ鑑賞するのが好きな人だ。
病気の症状が落ち着いていくにつれ僕は暇を感じるようになり、ひたすらスマホで何も考えずにすむパズルゲームに没頭するようになった。
九州に移り住んでからの主治医はそれは回復のサインだよ。課金だけには気をつけてねと肯定してくれた。
それから僕が中学を卒業するまでパズルゲームをひたすらやる僕がリビングにいて祭子さんがソファーでうたたねをして賢治さんは芸術鑑賞といった図ができるようになった。
感謝しているのはワイドショーやバラエティなど僕のパニック症が悪化するかもしれないものは絶対、僕の前では観なかった。
それでも僕はスマホで美希人の裁判が終わり罰金刑になり前科がついたのを知っていた。
美希人のことは大嫌いだから同情はしないけどお父さんのことは心配だった。
お父さんは1日に1回は必ず電話をしてくれた。
「元気か?」
「ごはんは食べれてるか?」
余計なお世話だけど「彼女は出来たか?」とかの何気ない会話ばかりした。
もうお父さんは芸能界の先輩ではなくただのお父さんになった。
もっと早くただのお父さんに戻ってほしかった。
僕はお父さんに甘えたい会いたい気持ちでいっぱいになってたけど言えなかった。
今、お父さんは大変な状況だから僕が甘えたら会いに行ったらお父さんの負担になる。
僕はお父さんのために我慢するいけない癖がついてしまった。
パニック症の影響で僕は高校受験ができるまで学力が追いつかず通信制の高校に通うことになった2016年、高校に通い始めてすぐに熊本地震が起き僕が住んでいる地域も夜中に大きな余震が続く日々で僕は眠れない日々が続き疲弊してしまった。
スマホの「地震です」のアラートが怖くて電源を切った。
祭子さんも賢治さんも地震が落ちつくまでテレビをつけなかった。
直に災害に直面した訳ではないけど震災は人の心を容赦なく削る。
改めてわかった。
震災が起きた3日後に賢治さんに親戚から電話が来て賢治さんは対応に追われ夜中まで祭子さんと話し込む日が続いていた。
「ゆきくん。大事な話があるの」と祭子さんに言われたときは緊張しながら「僕、東京に帰った方がいい?」と思わず聞いたけど「違う…このニュースを見て」と2つのニュースを見せた。
熊本県内で発生した地震の混乱の中、近隣住民や自衛隊が救助活動を行う中、推定7歳の少女が自宅近くの崩れかけた住宅から発見されました。少女は裸足で町を歩き回っており、自衛隊員により安全な避難所へと連れて行かれました。
避難所では体調を崩しており、温かい飲食物が提供されましたが、少女は極度の空腹からか噛まずに飲み込むように食べていたということです。
関係者によると、少女は家庭内での長期的な栄養不足の影響を受けており、専門機関でのケアが急務とされています。
自衛隊や地域の支援者は「震災下でも子どもを守ることが最優先」として、引き続き保護とケアを進めています。
もう1つのニュースは熊本県警は、震災直後に自宅で裸足の状態で彷徨っていた少女の祖父母を、児童福祉法違反および保護責任者遺棄の疑いで逮捕しました。
調査によると、祖父母は崩れかけた住宅に少女を置き去りにして避難を行わず、少女が自衛隊によって保護される事態となったということです。
警察は「震災という緊急時であっても、保護者は児童の安全を確保する義務がある」として、今後裁判での責任を問う方針です。
児童相談所関係者は「虐待の長期化と緊急時の無視が重なった事案であり、地域全体で子どもを守る仕組みの重要性が改めて浮き彫りになった」とコメントしています。
深刻な事態の子どもがいることだけはわかった。
「その女の子、賢治さんの親戚の子なの。今は児相で保護されてる」
「うん」
「私が精神科の看護師で賢治さんが在宅で仕事をしているから、そっちで引き取れないかって」
「それ…その子が盥回しにされてるってこと?」
「そう。だから私達は引き取りたいって思ってる」
「なんで?」
「わからないけど…この子は施設より家庭の温もりを感じないと生きていけない気がする。私達には子どもはいない。言い方が正しいかわからないけど私も賢治さんも人生経験を重ねた今がこの子を預かるタイミングだなって思った」
「僕は何をすればいいの?」
「ゆきくん。絶対にこの子に声を荒げないで。ゆきくんなら大丈夫だと思うけど絶対に手をあげないで。後、お風呂とか塗り薬を塗ったり体に触れなきゃいけないケアは私が全部やる。まだ子どもだけど体に触れることに関しては1人の女性として接してあげて」
それはこの子に性的虐待があったかもしれないことを察さなくてはいけない事態だと僕は察した。
「わかった」
「明日、児相の人がこの子…みゆちゃん。果実の実に結って書いて実結ちゃんっていうの。彼女を連れてくるから。ゆきくん、しんどくなったら決して無理をしないで」
「うん」
僕はまだ知らない。
実結が僕に教えてくれたたくさんのことが僕が勇気を出す未来に導き2020年に世界が揺るがされるコロナ禍で何かを僕に決断させることを僕はまだ知らない。
ー続く。
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