第17話「商人の護衛ー2」

「とりあえずモンスターを退治するべきだろうな」


 マーカスが出した意見に俺も賛成だった。

 うなずきながら、


「街道にモンスターがあふれているのはまずいですからね」


 と言う。


 人と物資の流通に支障が出るし、この世界のほとんどの町はそういったトラブルに弱いのだ。


 ここはラヴェンドとイヴレアの中間(よりすこし東)くらいなので、救援を求めるにしても時間がかかる。


「俺としては経験豊富そうなあんたらには、ボルシ大森林へ調査に赴いてもらいたいんだが」


 とリドムが言った。

 

「町の安全確保を先にしたほうがいい」


 マーカスの考えは違うらしく言い返す。


「確認されているのは一角リス、牙兎といった下位のモンスターたちだ。この町の冒険者たちでも時間をかけりゃ何とかなる」


 リドムはひるまずに言い返す。


「なるほど」


 俺は一理あると認める。


 百という数には驚いたが、ひとつの町に滞在する冒険者が全員で対応するなら、処理できる範疇だ。


「手段を選ばなくてもいいなら、俺たちで処理してからボルシ大森林に向かうことは可能ですが?」


 と俺は提案してみる。


 キーラに事前に相談してないのはよくないけど、彼女は死霊系魔法を使うこと自体に忌避感を持ってない。


 あとから話しても大丈夫だと思う。


「手段を選ばないってぶっそうだな」


「具体的には何をする気だ?」


 マーカスはちょっと引き、リドムは警戒をむき出しにした視線を向けて来る。

 言い方がまずかったか。


「いや、あまりイメージのよくない魔法を使うという手があるんですよ。一対多用の魔法が得意な仲間がいまして」


 と俺が説明すると、キーラのことを知っているマーカスの瞳に理解の色が浮かぶ。


「そうか。死霊系魔法か」


 納得してくれたらしい。


「死霊系魔法? ゴーストか? それともネクロマンサーか?」


 リドムは警戒を解かずに問いかけて来る。


「ゴースト系ですね。弱いモンスターなら、ひとりで追い払えるでしょう」


 俺は断言した。

 生気を吸い取って殺すなり、恐怖をまき散らして追い払うなりできる。


「とんでもない奴がいるもんだ。そりゃあ上級冒険者なら、誰でもできるんだろうが」


 リドムの言葉に俺とマーカスはうなずく。


 上級冒険者がひとりでもいるなら、そもそも下級モンスターの百や二百であわてる必要がない。


「支部長として許可をもらえるなら、おそらく問題は解決すると思いますが」


 俺は改めてリドムに言う。


「そうだな。町の中ではまずいが、外で使う分には許可しよう。町を助けるための行動だしな」


 思ったよりもすんなりとリドムは許可をくれた。

 それだけ余裕がないということなんだろう。


 町の中で使用許可が出ないのは、無用な混乱を避けるためと考えれば当然である。


 ……キーラってもしかして、前のパーティーに理解がなかっただけでは?

 なんて思えてきた。


「あと、俺たちは商人の護衛依頼の最中なんだ。許可なく勝手なことはできないね」


 とマーカスが言う。

 その通りなんだよね。


「……仕方ない。よそに依頼を回すか」


 リドムはあきらめた顔で頭をぽりぽりとかく。

 冒険者協会への信用問題にもなりねないことは要求できないよね。


 


 

 打ち合わせを済ませてトーレさんたちのところへ戻る。


「マーカス!」


 大きな声をあげて手をふるのはジュリー。

 キーラたちは俺を見てほっとした様子だった。


「何かわかりましたか?」


 トーレさんが不安そうに、俺とマーカスの顔を交互に見る。


「下級モンスターが百ほど、街道を塞ぐような暴れ方をしているらしい」


「ひゃ、ひゃく!?」


 トーレさんはぎょっとして声を上ずらせた。

 隣の見習いの少年の顔も蒼白になり、冷や汗を流す。


 まあ戦えない人からすれば、こういう反応になるよね。


「ひゃ、百? どうしてそんなことに?」


「ボルシ大森林って大物はいないはずですけど?」


 キーラとアロンは驚き、ふしぎそうに首をかしげあうけど、そこに恐怖はない。


「キーラに一掃を頼みたい。ここの支部長の許可はとってきた。町の中では使わないという条件で」


 俺が告げると、キーラはきょとんとして、


「そ、それは……ありがたいです」


 と言う。

 死霊系魔法を存分に使えるなら、どうにでもなるという考えの表れだろう。


 自己評価は低めなのに、ふしぎな性格だなって思えるが、この際はありがたい。


「えっ?」


 驚いたのはトーレさんで、信じられないという顔でキーラを見た。


「やってもらうほうが速いでしょうね」


 口で言ってもおそらく商人では理解できない、と俺は思う。


「そ、そうかもですね」


 トーレさんは驚きを浮かべたまま引き下がる。


「原因の調査はどうするの?」


 ジュリーがマーカスにたずねた。


「他の奴に任せるさ。俺たちは護衛依頼の真っ最中だからな」


 マーカスは答えて肩をすくめる。


「なるほど。ただ、私としては気になりますね。この付近はよく往復するので」


 トーレさんは意外なことを言い出す。


「急ぎじゃないなら、あんたらにはここで待ってもらうという方法はあるが」


 マーカスは顔をしかめながらも、意見を口にする。


「大量のモンスターを今日中にどうにかできるなら、日程的な余裕はありますね」


 とトーレさんは答えた。

 まじか。


 思わずキーラたちばかりじゃなくて、マーカスたちとも顔を見合わせる。


「無理を言ってる自覚はありますが、情報は商人の生命線なので。つかめるならつかみたいのです」


 トーレの主張には一理あった。

 自分の命綱と考える部分では、そんな簡単に妥協できないことも理解する。


「トーレさん、わかってるんだよな? 俺らの仕事はあんたを危険から守ることだ。あんた自身が危険に近づくっていうなら、料金はべつになるぜ?」


 マーカスがシビアなことを言い放つ。


「そ、そんな?」


 見習いの少年は驚いているけど、これは彼が甘い。


「承知しております。危険手当を上乗せしてお支払いします」


 トーレさんは当然という表情で即答する。


「なら報酬次第で俺たちは引き受けてもいいな」


 とマーカスは言い、ジュリーたちは反対しなかった。


 さすが四級冒険者で構成されたチームだけあって、肝が据わっているし決断も速い。


 視線が俺たちに集まり、そしてキーラたちは俺を見る。


「ど、どうするんですか、こういうとき」


 とアロンが訊いてきた。


「基本は逃げる」

 

 俺は即答する。

 何しろイレギュラーを引き起こした何かがいるんだ。


 戦力を考えれば逃げの一択である。


「即答か。まあアリだな」


 ルーカスは理解してくれた。


「グレックさんは反対ですか?」


 トーレが探るように見てくる。


「ええ。状況的に五級冒険者チームが欲しいところです」


 俺は言外に「この戦力じゃあ無謀だ」と匂わせた。

 下級モンスターは臆病かもしれないが、さすがに影響を受けた数が多すぎる。


「む……思っていた以上に無茶を言ってしまったみたいですね」


 トーレさんはさすがに怯んだようだ。


「あー、待て待て」


 マーカスが割って入って来て、


「そりゃまともにやろうとしたらグレックの言うことは正しい。だが、ヒントをつかむだけならやりようはあるんだぜ」


 と告げる。

 なにやら自信がありそうな態度だ。


 たしかに手がかりをつかむだけなら、俺だってやりようはある。

 マーカスたちは俺とは異なる手段を持っているということか?


「ではお任せします」


 と俺は告げる。

 こっちはキーラ、アロン、ラタだし、リスクは冒せない。


「えっと……わたしたちのために、グレックさんは自重してますか?」


 ラタがじっと見ながら訊いてくる。


「そんなことはあるけど、それなしでも避けるべき危険は避けたほうがいいよ」


 俺は彼女の性格を考慮して答えた。


「あるんですね!?」


「否定しないんですね」


 ラタだけじゃなくてアロンとキーラにつっこまれ、マーカスたちから笑いが起こった。


 ちなみにここまでが一般論です。

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