第16話「商人の護衛」
話がまとまったので俺たちは建物の外に出た。
「同行する者たちを紹介しましょう」
とトーレさんに言われる。
ほかには簡単な自己紹介をおこなう。
トーレさんはそろそろ自分の店を持つことを考えている若手らしい。
いっしょにいる俺と同じ年くらいの若者は、商人の見習いだそうだ。
「グレックさんは、都市ギーズでほかのギルドに所属されていたとか?」
道を歩きながらトーレさんに話をふられる。
「ええ。『天を翔ける
どうせいつか仲間たちには言う機会があるし、素直にしゃべった。
「おお、知ってますよ。マスター・レムスをはじめ、有名な冒険者が何人もいたところですよね」
トーレさんは驚き感心しながらも、しっかり過去形を使った。
ロレントが本気なら、何人もの冒険者を人員整理していることだろう。
「『天を翔ける
ラタも知っていたらしい。
……辞めてから一度も名前を出してないから、どれくらいの知名度があるかなんて、想像もしてなかった。
キーラとアロンのふたりは知らないらしい。
「グレックさんも有名な異名をお持ちでしたか?」
トーレさんは何気に訊いてきた。
興味本位と言うよりは、話の続きのつもりなんだろう。
「俺は支援と事務がメインだったので、大したことがないですよ」
と答えるけど、これはべつにウソじゃない。
ほかに有名人だろう冒険者は何人もいるギルドだったしね。
「レナータさんとかジェリウスさんとかアリーチェさんとか」
ラタが名前を挙げていく。
その三人はソロでもやばいので、独立したとしても平気だろう。
「あ、その三人はわかります」
とアロンが反応する。
そういうものなんだなぁと思っているうちに門をくぐり、三人の男女がトーレさんに手をふっていた。
あれが戦士と神官をのぞいた護衛たちだろう。
「よろしくー」
トーレさんにお互い紹介された。
マーカス、ジュリー、ガルンというらしい。
「俺がタンク役、ジュリーがスカウト、ガルンが射手だな」
とマーカスがリーダーとして説明する。
こっちの説明も俺がすませた。
「魔法使いと支援職もいるのは大きいな」
マーカスがうれしそうに言う。
キーラの死霊系魔法にもいやな顔をしなかった。
実直な経験者という印象である。
「順調に進んだとしても、ここからイヴレアまでは十日くらいはかかるでしょうし、助け合っていきましょう」
と俺は言った。
この世界の馬車は天候の影響を受けるし、モンスターや盗賊の襲撃回数の問題もある。
日本って治安が良かったんだなとしみじみ思わされる。
実績ゼロと一では信用が違ってくるので、小規模都市で護衛依頼を受けられたのはかなり大きい。
トーレさんには言いづらいことだけど。
「よければ俺が馭者をやりましょうか?」
と申し出る。
「おお、グレックさんは馭者もできるのですね。では交代で頼みたい」
トーレさんはうれしそうに応じてくれた。
馭者ってけっこう大変なんだよね。
キーラ、アロン、ラタの三人は目を丸くしている。
馭者ができるって話はしたことがなかったね。
「へー、『天翔ける
とマーカスに感心された。
馭者の席に座って大きめの馬車を走らせる。
ほかのメンツは護衛を兼ねてトーレさんたちのそばに座っただろう。
「女が三人もいてくれてありがたいよ。ひとり抜けちゃったから」
ジュリーのはずんだ声が聞こえてきた。
同性がほかにいない環境が大変だという気持ちは共感できる。
俺もイヴレアで男の仲間を探したい。
馭者ができるのは俺とトーレさん、商人見習いの少年リックだけ。
「だからグレックさんができるのはありがたいですね」
俺との交代で馭者の席に来たトーレさんが言った。
「支援魔法をかけておきましょう。座っているのが楽になる呪文です」
俺が申し出ると、
「それはありがたい。腰とお尻にダメージがきますからね」
トーレさんは目を輝かせる。
この世界での馭者役の宿命みたいなものだよね。
護衛の旅は順調なまま五日目を過ぎ、六日目の朝を迎えた。
「何もないまま護衛料だけもらえるならおいしいね」
トーレさんたちには聞かれたくない会話を、マーカスたちとする余裕があるくらいに。
「ちょっと申し訳ないですけどね」
と言ったのはラタ。
神官らしい考え方だなって感心する。
指定されていた合流場所である町の門に行くと、トーレさんが困った顔をしていた。
「みなさん、厄介なことになりました」
トーレさんの開口一番である。
何かのトラブルだろう。
顔を見合わせた俺たちに向かってトーレさんは、
「この町の北に位置する大森林から、たくさんのモンスターが南下してきているようです」
と告げる。
「スタンピード、ではないですよね」
マーカスが言い、
「それが起こる原因がないもんね」
ジュリーが賛同した。
スタンピードとは主にダンジョンからモンスターが大量にあふれ出す現象を指す。
「それに似たようなことが起こった可能性は否定できませんよ」
とりあえず知っていることは話さなきゃなので、指摘してみる。
「似たようなこと、ですか?」
トーレさんが困惑をにじませた視線を向けてきた。
「ええ。何らかの要因で強大なモンスターが現れた場合、弱いモンスターたちはパニックになって逃げ出します。有名なのは竜ですね」
俺の説明にみんな「ああ」と声を出す。
竜は有名すぎて、例にするにはぴったりだね。
「なるほど。あり得ますね。モンスターはどれも怯えているらしいので。さすがにここらに竜が出たとは思いませんが」
トーレさんが納得した様子で話す。
「竜が出たなら、もっと大騒ぎになりますからね」
と俺は相槌を打つ。
すくなくとも原因なんてあっという間に特定されるはずだ。
「なら、俺たちが冒険者協会に顔を出して、情報を集めましょうか」
とマーカスが提案する。
今回は護衛の仕事に専念するだけで、情報収集はトーレさんたちに任せていたからね。
「お願いできますか」
トーレさんはホッとした様子で認める。
冒険者が駆り出される事態になってるなら、俺たちが出向くほうがいいに決まっているしね。
「じゃあ俺とマーカスさんのふたりで行きましょう。ほかは護衛ということで」
俺は言った。
町の中だからめったなことはないと思うけど、護衛依頼の最中にトーレさんたちの周囲から人を減らすわけにはいかない。
「無難なところだな」
マーカスが賛成し、トーレさんも異論はなかったので、俺たちふたりで冒険者協会の支部に顔を出す。
支部は当然すでに知っていて、冒険者たちが集まってちょっとした騒ぎになっている。
「いったい何事だ!?」
「こんなの初めてだぞ!?」
……騒ぎと言うよりは怒鳴り合いだね、これ。
「俺は四級冒険者のマーカスってもんだ」
マーカスはいいながら、四と刻まれた鉄のプレートを見せる。
「おお、四級冒険者か」
感心され、周囲は静まった。
四級ともなれば中の上に位置している。
小さな町だと最高峰クラスの実力者と言えるかもしれない。
「こっちは三級のグレック」
とマーカスは俺を紹介してくれたが、あまり反応はなかった。
三級までならべつに珍しくはないしね。
ちなみに三級って『
「何かあったか、詳しく教えてくれ。力になれると思うぜ」
マーカスの言葉に、カウンターに座る三十代くらいの男性が口を開いた。
「昨日の段階で北部のボルシ大森林が騒がしいという報告はあり、調査チームを派遣していたのだ」
「軽く百を超えるモンスターがボルシ大森林から逃げるように移動し、半数以上が東と北の道を塞いでいる」
「調査チームは身の危険を感じたため、一度撤収しているが責められん」
もたらされる情報に俺はマーカスと顔を見合わせる。
「お前たちは旅の冒険者だな? モンスターを排除しながら、原因を調査しなければならないが、可能だと思うか?」
とカウンターに座る男性に訊かれる。
「俺はこの協会の支部長のリドムという。知恵を貸してほしい」
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