第50話 食いしん坊なソフィア様はこれが欲しいんでしょう?

 断川と待打、黄梅の竜騎士団に所属するドラゴンを進化させた後、優月達は竜神神社に戻って来た。


 国に見捨てられた町のドラゴンを10体以上進化させたため、ソフィアが課した達成項目アチーブメントを満たしており、ソフィア像が光っていた。


 その光に導かれ、優月達はいつの間にかソフィアがいた領域に転移していた。


「優月、ユノ、ナギ、ドラガイアのドラゴンを進化させて下さりありがとうございました」


「ソフィア様、なんで【人化ヒューマンアウト】を使ってるんですか?」


 ユノが神域に来て早々にジト目になったのは、ソフィアがドラゴンの姿ではなく人の姿で自分達を出迎えたからだ。


 竜神として登場するならば、威厳のある姿として出て来る者だと思っていたが、馬肉メンチを食べた時と同じドレス姿になっていたので、優月に対して雌を出しているのではと疑っている。


「威厳のある姿で出迎えるよりも、親しみの湧く姿で出迎えたいと思っただけですよ。お願いをしているのは私なのに、体躯のせいで見下ろすようになるのは相応しくないでしょう?」


 理論武装しているが、ソフィアが語ったのは上辺だけだ。


 親しみの湧く姿と言ったが、実際のところは優月の好感度を上げられたら良いなと思ってのことである。


 年齢=番いない歴のソフィアは、自分の窮地を救ってくれた上に自分の胃袋を掴んだ優月に惚れてしまったのだ。


 ユノも一応は相手が異世界ドラガイアの竜神だから、優月に手を出さないならこれ以上はツッコまないでいることにした。


「そうなんですね。俺はどちらの姿も凛として素敵だと思いますよ」


「…そうですか。素敵ですか」


「優月、ソフィア様を口説いちゃ駄目」


「口説いてるつもりはないよ? 正直な感想を言ったんだ」


 父親藍大が地下神域にいる女神に接するように、優月もソフィアに接したつもりだったけれど、ソフィアが顔を赤くしているので勘違いさせてしまいそうである。


 血は争えないと思いつつ、お世辞ではなく相手を褒められる素直な優月を見て、ユノは自分が優月を守らなければと気を引き締めた。


「…優月はそのままでいてね。優月の素直さを利用する奴は、私が全員倒すから」


「私も優月を守るよ~」


 ユノが微笑みながら言えば、ナギも優月によく懐いているから自分も守ると告げた。


 ソフィアはユノに警戒されたままでは良くないと冷静になり、咳払いをして本題に入る。


「オホン、本題に戻りましょうか。まずは、優月達の功績に対して報酬を渡します」


 そのようにソフィアが言ってすぐに、淡い光の球が現れてユノの体に吸収された。


「【聖刃衛星ホーリーサテライト】が強化されてる」


「その通りです。前回はナギを強化しましたから、今回はユノの【聖刃衛星ホーリーサテライト】を【竜聖剣ドラガラッハ】に強化しました。見た目と出力、応用力の全てパワーアップしておりますし、私の使徒のパートナーとして申し分ない力であることを保証します」


「「ありがとうございます」」


 ユノが強くなってくれるのは良いことなので、優月とユノはソフィアに感謝した。


「試し撃ちしたいでしょうから、的を準備しますね」


 ソフィアが指パッチンすれば、離れた位置にアダマンタイト製の案山子が出現した。


「ユノ、強化されたアビリティを見せて」


「うん。やってみる」


 優月の期待に応えるべく、ユノは【竜聖剣ドラガラッハ】を発動した。


 ユノの【聖刃衛星ホーリーサテライト】はチャクラムを模っており、ユノが自在に操っていた。


 それに対し、【竜聖剣ドラガラッハ】は柄に竜の意匠がある聖なる諸刃の剣を顕現させ、それを自在に操れるアビリティだ。


 見た目だけでも十分に特別感があるが、ユノが実際に【竜聖剣ドラガラッハ】で案山子を切断してみると、切断面は綺麗で切断する際にほとんど音がしなかった。


「すごいですね。アダマンタイト製の案山子があっさりと切断されてしまいました。ここまで綺麗に切断できたのは、ユノの技量があってこそです」


「ドヤァ」


「やるじゃん。流石ユノだ」


 ソフィアが褒めたことでドヤ顔を披露するユノに対し、優月はその頭を優しく撫でた。


「報酬のお渡しも済んだことですし、優月達の今後の方針について聞かせて下さい」


「熱木と織田原、新漸、当海のドラゴン達を進化させようと思ってます」


「良いですね。1つ注文するならば、熱木と織田原、当海の3つの町の竜騎士団を集めて下さい。竜神神社の南東の位置に、何種類ものモンスターが群れています。それを蹴散らせば、ナッカーと蛟、ヌハングが進化することでしょう」


 熱木と織田原、当海のドラゴンを進化させるにあたり、ソフィアは優月達に注文した。


 それは優月にとって効率が良い話だから、断る理由がなかった。


「わかりました。新漸は単独で対応して構いませんか?」


「新漸の北西に隈谷くまがやという町があり、そこの竜脈を活性化した後、2つの町で協力してモンスターの群れと戦ってほしいです」


「そうなると、進化させるかはさておき、先に隈谷の竜脈を活性化させた方が良いですよね?」


「はい。まずは隈谷の竜脈を活性化させて、新漸と顔繫ぎした後に熱木と織田原、当海のドラゴン達を進化させて下さい。新漸と隈谷のドラゴンを進化させるのは、その後にしてもらうのが良いでしょう」


 ソフィアは優月の行動予定を聞いた上で、最も効率的なスケジュールを提案した。


 隈谷の竜脈を活性化してすぐに、新漸と合同でドラゴンの進化に移れば、当海はさておき熱木と織田原が順番を抜かされたと不満を抱く可能性がある。


 そうならないスケジュールを立てているのだから、ソフィアは優月達に対して親切と言えよう。


「わかりました。明日はまず隈谷に行ってみます」


「お願いします。それはそれとして、私からお願いがあります」


「食いしん坊なソフィア様はこれが欲しいんでしょう?」


 お願いがあると言ったソフィアに対し、ユノは優月に目配せして【無限収納インベントリ】の亜空間からマンティコアのジージンジャー焼きを取り出した。


「…その通りなのですが、お願いを先回りされるというのは恥ずかしいものですね」


 優月とユノが自分の思考を読んでいたとわかり、ソフィアは赤面した。


「恥ずかしがらなくても良いんですよ、ソフィア様。神様だって腹が減るのは当然ですし、実家では食いしん坊な神様がちょこちょこいましたので、我慢しなくたって良いんです」


 その時、地球の実家シャングリラの地下神域では、何柱かの神がくしゃみしたのだが、ドラガイアにいる優月達は知る由もない。


 フォローのつもりなのか、ナギがソフィアの気にしていることを口にする。


「優月はいっぱい食べる私が好きって言ってくれたよ~」


「…優月、いっぱい食べる竜神はお嫌いですか?」


 ナギの言葉に背中を押され、ソフィアは意を決して優月に訊ねる。


「遠慮しながら食べる料理は、あまり美味しいと感じられません。気持ちの良い食べっぷりを見る方が好きですよ」


 家族や知り合いの神々に食いしん坊ズが多いから、優月はいっぱい食べる者がいても引いたりしない。


 むしろ、自分が料理を作るなら、美味しそうにいっぱい食べてくれた方が良いとさえ思っている。


 優月の口から出た言葉は、ソフィアの懸念事項を払拭するのに十分だったから、両手を合わせる。


「いただきます」


 ソフィアはフォークとナイフを巧みに使い、美味しそうにマンティコアのジージンジャー焼きを食べた。


「う~ん、やはり優月の料理は絶品ですね。都市のくだらない奉納品よりも、優月の作ってくれた料理の方がずっと嬉しいです」


「その通りです。優月の料理の方が良いに決まってます」


「優月の料理は美味しいもんね~」


 優月の料理をソフィアに褒められ、ユノとナギは自分のことのように喜んだ。


 マンティコアのジージンジャー焼きはあっという間になくなってしまい、ソフィアはしょんぼりしてしまう。


「ユノ、ベルゼゴートの香草焼きも出してあげて」


「わかった」


「優月~、私も食べた~い」


「しょうがないな」


 ナギは小腹が空いたようで、ソフィアと一緒にベルゼゴートの香草焼きを食べたいとリクエストした。


 ソフィアはナギが食べ始めると、競うように食べ始めた。


 元々、ナギに競うつもりはなかったけれど、ソフィアと大食い対決のようになったことに気づき、楽しそうにベルゼゴートの香草焼きを食べていく。


 結局、両者共にお腹がポッコリするまで食べたところで、大食い対決は終わりを迎えた。


「もう、食べられません…」


「満腹~」


 ソフィアもナギも満足したようなので、優月とユノはしょうがないなと笑った。

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