第49話 気持ちの良い食べっぷりだな。まだあるから慌てなくて良いぞ

 ラプトルはラプトルジェネラル、ワイアームはワイアームジェネラル、アンフィスバエナはアンフィスバエナジェネラルに進化するのが一般的であり、特殊進化組は自分はもっと強くなれると期待に目を光らせる。


 町の外で呑気に調理を始める訳にもいかないから、優月達は空を飛べないラプトルに配慮して断川に移動した。


 断川で開けた場所に移動し、優月は屋外で調理を始める。


「優月~、これから何を作るの~?」


「マンティコアとミストジャガーは肉食でクセが強いから、マンティコアはジージンジャー焼きにして、ミストジャガーは林檎煮にして特殊進化組に出すつもり」


「美味しそ~。私達が食べる分はある?」


 ラインナップを聞いただけでも、食欲が刺激されたようでナギは優月に味見したいと素直に告げた。


「進化させるのが目的だから、味見するだけだぞ」


「わ~い♪」


 ナギが大量に食べてしまって、特殊進化させたい者達の分の料理がなくなるのは困るから、味見程度なら良いと優月は言った。


 既に進化した者達も、優月が作る料理に興味を持っているらしく、全くこの場から離れようとしない。


 彼等には何もないというのは、ドラゴン達の間で精神的なしこりになりかねないので、優月は他にも料理を作るつもりだ。


 幸いにも、大氾濫スタンピードのおかげで食材となるモンスターは多く回収できたため、この場で振る舞うのに支障はないと睨んでいる。


 (大量にあるのは、ベルゼゴートの肉とホッピンマッシュ、ウィードタートルの背中に生えたハーブか…。進化に関係ないメンバーの分もどうにかなるな)


 使って良いモンスター食材をチェックし、優月は頭の中で何を作るか決めた。


 ミスリルとユグドラシルの調理器具の数に限りがあるから、調理に時間がかかってしまう。


 普通の調理器具を借りて作ることも可能だが、自前の調理器具の方が美味しく作れると優月が言えば、食べるだけの者達はおとなしく待つことを選んだ。


 ミストジャガーの林檎煮は煮込むのに時間がかかるから、先に完成したのはマンティコアのジージンジャー焼きである。


 優月はユノとナギに味見してもらい、仕上がりがばっちりであることを確認してからロードに進化させたいドラゴン達を優先してサーブする。


 騎士団長組も食べたそうにしていたが、まずは各々のドラゴンが優先なので我慢してもらう。


 3体のドラゴンは出された料理にがっつき、こんなにおいしい料理は食べたことがないと言わんばかりにぺろりと平らげる。


 進化条件を満たすまでは食べ続けてもらう訳だが、3体とも食べられるだけ食べてしまい、気づけば用意していたマンティコアのジージンジャー焼きは全て3体の腹に収まってしまった。


「少しで良いから食べたかった」


「これが飯テロなんですね…」


「腹が減った」


 騎士団長達は羨ましさ全開のコメントを口にしていると、それぞれのドラゴン達の体が光に包み込まれて進化が始まる。


 光が収まった後、3体のドラゴンはそれぞれ無事に進化していた。


「シド、立派になったな」


「ニコル、ロードの風格が備わりましたね」


「オーズ、黄海の象徴として申し分ないな」


 騎士団長達は各々の騎竜の進化した姿を見て、感慨深いという様子だった。


 苦楽を共にしたパートナーが強くなれば、嬉しいのは当然である。


 シドはラプトルロードで、鶏冠が生えて両腕には刃が生えた。


 これならば敵の攻撃を躱す際、生えた刃ですれ違いざまに攻撃することもできる。


 ニコルはワイアームロードになり、体が一回り大きくなっただけでなく、腕のような前脚と尻尾の先端に刃が生えた。


 尻尾を鞭のように使って攻撃することもあったが、進化によって殺傷力は上がったと言えよう。


 オーズはアンフィスバエナロードに進化し、体が一回り大きくなって頭部に骨のヘルムが追加されていた。


 進化前は噛み付いた時に頭部ががら空きになっていたが、頭が守られて致命傷を負うリスクが減ったのは良い変化だ。


 それぞれの町のジェネラルが、ロードの誕生に喜んで近づく。


 シドとニコル、オーズはロードに進化できたことで得意気な様子だ。


 その一方で、康二のラプトルと聡太のデュオはミストジャガーの林檎煮の完成をじっと待っていた。


 自分達も早くあの輪に入りたいという気持ちと、ミストジャガーの林檎煮を早く食べたいという気持ちがそうさせている。


 そろそろできたと思い、優月は小さく切って味見をしてみる。


 限りある食材で納得のいく味ができたが、念のためユノとナギにも意見を聞く。


「こんな感じでどうかな?」


「…うん、美味しい。そこの2体が待ってるから、早く出してあげて」


「もっと食べたかった~」


 康二のラプトルと聡太のデュオの目がガンギマリしており、ユノは2体が我慢の限界を迎えたと悟って優月に早く出してあげるよう言った。


 ナギはマイペースだから、一口では満足できないと自分の心に正直なコメントをした。


 ユノとナギのリアクションを見て、優月は出してOKだと判断したから、ミストジャガーの林檎煮を康二のラプトルと聡太のデュオに出す。


 もう辛抱堪らんと言わんばかりに、両者とも自分達用の料理にがっつく。


 よっぽど気に入ったようで、ぺろりと平らげて煮汁も飲み干した後、優月におかわりを所望する程だった。


「気持ちの良い食べっぷりだな。まだあるから慌てなくて良いぞ」


 結局、鍋が空になるまで康二のラプトルと聡太のデュオは食べまくり、完食すると共に体が光に包み込まれた。


 進化が始まり、光の中でそれぞれのシルエットが変わる。


 光が収まったら、康二も聡太もその変化に喜ぶ。


「バレット、最高にクールだ」


「デュオは森の守護者みたいだな」


 バレットとは康二のラプトルの名前で、弾丸のように速く走れるように願いが込められているらしい。


 ラプトルアサシンに進化してバレットの体色は黒くなり、【影移動シャドウムーブ】や【無音突撃サイレントブリッツ】を会得して奇襲が得意になった。


 デュオはアンフィスバエナドルイドに進化し、体色は元と変わらぬ緑色だがドルイドとあるように森のスペシャリストの風格が出ていた。


 進化のおかげで、【根拘束ルートバインド】や【脈動回復パルスヒール】といったサポート寄りのアビリティも会得できており、周りと協力して戦う時に重宝されるだろう。


 鉢桜路のワイバーンが先に進化したが、こうして断川のラプトルと待打のワイアーム、黄梅のアンフィスバエナも進化できたため、竜神神社に届いた手紙に記された願いは聞き届けられた。


 (これなら都市のドラゴンとも張り合えるな)


 どの町のドラゴンも進化前なら都市のドラゴンに敵わなかっただろうが、進化した今ならば十分に渡り合える強さに育ったように優月の目に映っていた。


 きっと、竜希や怜が進化したドラゴンを見たら、目を丸くするに違いない。


 それはさておき、ロード3体とラプトルアサシン、アンフィスバエナドルイドは食事を取った訳だが、他のメンバーは食事を取っていない。


 3種のジェネラル達に加え、竜騎士団の者達までチラチラと優月の様子を窺うものだから、優月は次の料理を作り出す。


 ベルゼゴートの肉とホッピンマッシュ、ウィードタートルの背中に生えたハーブを使って作るのは、ベルゼゴートの香草焼きだ。


 ベルゼゴートは雑食で、肉食のモンスターよりクセは強くないが万人受けする肉ではない。


 それゆえ、ハーブで香り付けして食べやすくするのだ。


 ポッピンマッシュは薄くスライスし、付け合わせとして添える。


 ボリュームのある一品だから、大氾濫スタンピードで戦ってお腹を空かせた者達も満足できること間違いなしである。


 焼き上がったものから提供され、全員にベルゼゴートの香草焼きが行き届くまで優月は焼いて焼いて焼きまくった。


「優月、お疲れ様。食べさせてあげる」


「ありがとう」


 料理で疲れているだろうから、ユノはベルゼゴートの香草焼きを適当なサイズに切り、優月に食べさせてあげる。


 優月は雛鳥のように口を開けて待ち、ユノに食べさせてもらった。


「うん、大量に提供したにしてはよくできたと思う」


「実家で優月がこれだけのお肉を焼くことってないものね」


「それな。こういう時に改めて思うけど、父さんって本当にすごいよ」


「大丈夫。優月もきっとお義父様と並び立てるようになるわ」


 地球の実家では、この場の全員よりももっと食べる食いしん坊ズがいて、父親藍大はそのお腹を満たすべく料理をしており、優月もそれを時々手伝っている。


 それが本業ではなく、あくまで父親藍大職業技能ジョブスキルも従魔士なのだが、世界を救うだけでなく大量に絶品な料理を作れるのだから、優月は父親藍大を改めて尊敬した。


 ユノは父親藍大に憧れる優月に対し、本気でいずれ並び立てると思っているから優月に素直な気持ちを告げた。


 何はともあれ、町のドラゴンの食育は大成功と言って問題あるまい。

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