番外編7 ワーウィック、ナギ村に行く

「首が繋がっているだけでも御の字か……いや、御の字なのか?」

ワーウィックは独り言を言いながら玉座の間に向かっていた。


「今回の国家転覆に加担した貴族は爵位はく奪とする」

 サイラスが宣言した。


 やはりと言った空気が流れる。

 ワーウィックは何とか生き永らえたものの処分は免れなかった。


「ま、生きているだけでも良しとするか」

 ワーウィックは独り言を言った。


「そしてもう一つ、今回はく奪された元貴族たちには大事な任務を任せる。その魔力量を武器に魔導士になるのもよし、剣士として魔力を含まない切り方も訓練するなり、どちらか選ぶとよい。使い物になるようになったら各地の黒い根の伐採に行ってもらう。どちらにしても二週間ほどで退去して決めるように」


 下を向いてしまったワーウィックに、さらにサイラスの声が飛ぶ。


「といいたいところだが、この度の情報を命からがらこちらにもたらしてくれ、解決に導いたことは評価する。よってワーウィックは伯爵から子爵への降格にする」



 今回の国家転覆に関わった貴族たちは、家も家財道具も没収され、新しくその家に住む貴族たちもどんどん紹介されている。

 そのなかで。ワーウィックはとても微妙な立ち位置ではあった。


「敵国と組んだせいで、お取りつぶしだってよ」

 とうわさされている貴族のなかでは降格で済んだ人はワーウィックただひとりであった。



 嫉妬交じりの視線を感じつつ玉座の間を去ろうとする。


「こりゃあ、この地にとどまるのも勇気がいるわい」



「ワーウィック子爵。この後ちょっと話がある、残れ」

 陛下の筆頭文官であるバルタザールが呼び止めた。






「は? ナギ村と言ったらかなりの辺境ではないですか?」


「はい、新しくナギ村に王族も泊まれるような地域の要になる大規模宿泊施設を作ることになりまして。要はそこの現場監督をお願いしたい。先程の視線をみても王城にとどまるのはかなりつらそうに感じますが」


 バルタザールは先を見越したように言う。


「私には建築のけの字も知識がないのですがいいのですか?」

 恐る恐る質問してみた。


「ちゃんと当初の通りに建てられているかを始終チェックしてくれればいいんですよ。ま、ちょっとは勉強していただきますが」

「勉強ですか。こうなったら、なんでもやります」

「ですから、暫くナギ村に滞在することになりますね」


 バルタザールはこともなげにいった。

 ワーウィックは尋ねる。

「寝れるような施設。あるんですか?」

「集会所に何とか寝泊まりしてもらうことになります」

「しゅ、集会所......」

 ワーウィック子爵は目を真ん丸にした。

「寝台? あるわけないよなぁ。じべたでねるのかぁ」


「どうしますか? これを引き受けていただけない場合は王も処分をもういちど考えなおすそうですが」

「わかったわかった、知識がなくても務まるんならやりますやります」



 *



 ナギ村の集会所はせいぜい15人くらいが雑魚寝するほどの広さだった、

 しかし、なんと2週間に一回くらいお風呂の順番が回ってくるという贅沢だった。こんな辺境のナギ村にはこんな贅沢はありえなかった。大規模宿泊施設の工事中、レイとクリスティーヌはお風呂のサービスを毎日に変更して、作業員が交代でお風呂にはいれるようにしたのだ、近隣に向かうための魔導士の修行もかねて。


「大規模宿泊施設には、もっと大きなお風呂も作りますからね、それまでの修行のためだと思ってくださいね」




 ある日のことだった。村人や工事の人が行きかう中でいつものように工事を監視していた子爵の後ろから

「どうもおつかれさまです」

 と男に声をかけられた。


(ん? あの声どこかで聞いたような)


 次に女性の声がする。

「村にはなれましたか」


 子爵は辺りを見回すと震えあがった。

 たくさん人がいて、自分に声をかけてきたのが誰かはわからなかった、


(あの時の声だ。自分は、降格で済んだとはいえ、まだ監視されているのだ)


 それからというもの、時間は絶対守る、とか材木の数を正確に数えたり、材料の手配を率先してやったり、絶対にボロを出さないように注意して生活した。



 何日かナギ村で暮らし始めて分かったことがある。村の責任者はたしかに村長だが、その村長には必ず相談する相手がいること。夕食時にはその人からの差し入れとして、野菜を使った料理が届くこと。


 これがまた、素朴な味わいでうまかったこと。会ったこともないのに、勝手に親近感を感じるほどだった。何より、「火魔法のコンロ」という卓上のコンロを初めて見たが、この村の住人は当たり前だという態度をとっていたことだ。こんなものを王都に持って行ったら大騒ぎになる。


(王都よりここで暮らす方がよっぽど贅沢じゃないか?)

 子爵の心に、もやもやとした思いが沸き上がる。


 そんなことを考えていたある日のこと。

「今日はいつもお野菜を届けてくれるレイさんが顔を出すそうですよ」

「火魔法のコンロもレイさんの奥方の発明ですからね」


「昔は王都に住んでたようですよ?」

「つい最近も黒い根の処分の大問題で、王都に行ってましたよ。お会いしたことあるんじゃないですか?」


「はて、レイさん? 多分お会いしてないと思いますが」

「数年前までは『剣聖』だったそうですよ」

 食事の支度をしていた村人たちは自慢そうに口々にレイの話をする。


「剣聖!そんなえらい立場の人なら自分なんて遠くから見るのがせいいっぱいでしたよ」

「そういうもんですか」


(それにしても元剣聖が何でこんな辺境にいるんだ?)


 程なくして食事の時間になり、相変わらず野菜の美味しさに感動しているときだった。


「こんにちは。野菜はおいしいですか?」

「レイさん」

「ご挨拶が遅くなりましたが、宿泊施設の建設、頑張ってくださいね」

「こんなお食事毎日食べてたら、やる気も出ますよ、なあ」


 王都から来ている面々は大満足の様子だ。


 レイはぐるりと見渡すといたずらを思いついた子供のような目をした。

「あなたが監督のワーウィック子爵ですね? よろしくたのみましたよ」

 クリスティーヌも面白そうに言う。

「お野菜美味しいでしょう。田舎もまんざらでもないでしょう?」


「!」

(この二人だ! あのとき一緒にいたのはこの二人だ!)


 ワーウィック伯爵は思わず立ち上がってうわずった様子で直立不動になる。

「や、や、やさいがおいしいでふ」

 他の人は怪訝な顔をしてみている。


 そりゃそうである、この場合貴族なのはワーウィックのほうなのだから。


 二人はワーウィック子爵と目を合わせると意味ありげににこりと笑って次のテーブルへと挨拶しに行った。


二人の背中を見送りながらワーウィック子爵は胸をなでおろした。どうやら監視されていたわけではなさそうだ。


「な、なんだ驚かせるな、もう」




「また来てくださいね。お貴族様がたまにいらしてくれると村の格も上がるってもんです」

「あのお貴族様は言葉使いもあんまり堅苦しくないから助かる」


 何故か村の人達にも慕われてしまった。

「いっそここに別邸を構えるか。本拠地の領地は優秀な部下に任せるとして、王都にいるより、居心地がいい」

「なら畑仕事も覚えないとですね。明日、古くなって今使ってない農具を持ってきますよ。基本自給自足ですから。お手伝いしますよ」



 ワーウィックのお屋敷がナギ村にできるのも時間の問題かもしれない。





 ────────────────────────────────────(あとがき)


ワーウィック子爵、意外と順応性が高かったようです。レイとクリスティーヌはわかっていて声をかけました。ナギ村に別邸を構える日も近いかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結済】農夫になった元剣聖、国を救う~雑草は抜かないと~ 赤木典子 @c009mp

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画