不可逆的レクリエーションオフィス『Rec』
音彩
第1話
プロローグ
買い物をして、家に帰る途中だった。
すれ違った人たちの声が、背中の方から聞こえてくる。
「今の人、男、女どっち?」
「ちょっと、声大きいよ?」
聞こえていた。
これは、よく言われる言葉だ。
ボクは男でも女でもない。
Xジェンダー、という言葉が一番近い。
髪は黒のショートウルフ。
服やカバンは、いつもウィメンズのものを使っている。
身長は170センチある。
学生時代の制服はどうしていたのか。
これも、よく聞かれる。
ボクは小学校から大学まで、ずっと私服の学校に通っていた。
校風は自由だったけれど、勉強には厳しかった。
勉強はそれなりに出来た。
男女関係なく友達もいた。
ただ、恋人がいたことはない。
そもそも、男女を問わず、
どうして人を好きになるのかが分からなかった。
友達として楽しくやれれば、それでいいじゃないか。
ずっと、そう思っていた。
苦労したことはあるか、と聞かれたら、二つある。
一つ目は、性別の欄だ。
「男」「女」しか選べない書類。
「分からない」という選択肢は、どこにもない。
就職活動の履歴書では、そこだけ空欄になった。
エントリーシートや自己紹介書では問題にならないのに、
履歴書だけは、必ず引っかかる。
Xジェンダーです、と正直に話した会社が一社だけあった。
そこから内定をもらえた。
他の会社では、
「変な人が来た」という目で見られた気がしたけれど、
その会社だけは違った。
だから、安心できた。
二つ目は、名前を書く場面だ。
テスト、申請書、名簿。
何かあるたびに、自分の名前を手書きする。
画数が多く、書くのに時間がかかる。
苗字と名前が、どちらも漢字二文字。
字面だけでは、
男か女かも分からない。
クラス替えのとき、担任の先生が名簿を見て止まる。
「中国の方?」
「どこの国ですか?」
そう聞かれることも、一度や二度じゃなかった。
それでも、友達には恵まれていたと思う。
みんな、ボクのことを
「まとい」と呼んだ。
親も、先生も、職場の人も。
ボクの名前は、
鐡 纏(くろがね まとい)。
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