一手遅れ




 ◇―――――――――――――――――――――――――――




 翌朝。

「さぁ、行くわよ。」

 モカ達一行は宿の前に集まっていた。

 睡眠は十分にとって意気軒高。武具の手入れも問題なし。ポーションなどの消耗品も十全に用意してあり準備万端だ。


 今日はいよいよダンジョン、魔物の巣窟に突入するのだ。備えはどれだけしてもし足りない。


「みんな!」

 いざ出発といったところで背後から声をかけられる。

 振り返ると、そこにいたのはリルルーラだった。


「リルちゃん。見送りに来てくれたんだ。」

「今日はたいへんな日なんでしょ。だから応援しにきたの。」

「心配してくれたんだね。」

「ん~ん。」

 その言葉に、リルルーラは頭を振って否定する。


「心配なんてしてないよ。だってみんなならぜったいにだいじょうぶだって、わたし知ってるもん。」

 そこには子供特有の、無邪気な信頼があった。

 キラキラとした澄んだ瞳に見つめられて、背筋が伸びると同時に、むず痒さに身を捩りたくなる。


「うん、頑張るよ。」

 この子に恥ずかしい姿は見せられないという気合が、全員の身体に満ち満ちた。

 これからのダンジョン攻略に、最高のバフが与えられた気分だった。


「いってらっしゃい。」


「「「いってきます。」」」


 手を振るリルルーラに見送られて、一行は出発した。



 ◇………………………………………………………………………



「それじゃ、ダンジョンに入ってからの行動をおさらいするわよ。」

 村の通りを歩きながら、昨日決めた内容の再確認を行う。

 隊商の冒険者が自分達の後をつけるのは門を出た辺りだと予想されるので、確認できる機会はここしかない。


「ダンジョンに入ってしばらくすれば、クンストメル商会の冒険者が私達に魔物を嗾けてくるでしょうから、ラテは冒険者の居場所を探すのに集中して。」

「了解いたしました。」

「冒険者が見つかったら、そちらに向かって魔物を誘導。擦り付けが成功したら、その隙にボスを探すわよ。」

「オッケー!」

「わかりました。」

 大雑把な作戦だが、ダンジョンの中では何が起こるか分からない。ある程度行き当たりばったりの方が上手くいくことも多いのだ。

 最悪、上手くいかなかったとしても、それならそれでグリムハットの依頼通りに動けば少なからず報酬は得られるのだ。


「それじゃ~、気合を入れていってみ――――。」



 気合は十分。


 作戦もある。


 後は実行するだけ。


 彼等に問題はなかった。


 それでもなお彼等に足りないものがあったとすれば――――。




「きゃあああぁぁぁ――――――――――――!!??」




 一手遅かったということだけだ。



「な、なに!?」

「悲鳴!?」

「っ行くわよ!!」


 早朝の村中。

 穏やかな空気を斬り裂くような鋭い悲鳴。


 その瞬間、全員が弾かれたように走り出していた。


 聞こえてきた悲鳴は尋常ではなく、一同の脳裏に嫌な予感が過る。


 ルーンを発動し、風のような速さで駆けていく道すがら、恐怖に顔を歪ませて、必死に逃げ惑う村人達とすれ違った。


「――――あそこよ!!」


 村の入り口広場。

 早朝であっても、早起きが基本の村人達が集っている筈だった。


 騒動の発生源に到着したモカ達が目にした光景は、平和なモント村とはかけ離れたものだった。


 傷付き倒れ伏す人々。


 倒壊する家屋。


 武器を振るう冒険者達。



 そして――――――――魔物の群。



 恐れていた事態。


 魔物の襲撃が起こっていた。



 一瞬目の前の光景に気圧されたものの、そこは彼女等も優秀な冒険者。

 すぐさま思考を回し行動に移す。


「サノン、モカ、ラテ!あなた達は村人を守りながら魔物の討伐に当たって!

 ポムニットは魔法で攻撃!魔物の数が多いから複数まき込める範囲が広いものよ!

 私はポムニットを守りながら援護するわ!

 人命優先!!行くわよ!!」


「「「了解!!」」」


 マリエルの指示と同時に全員が走り出した。


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