第35話: ただ寄り添って
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部屋は、やけに静かだった。
外では人が行き交い、
世界は「平和」という名前の音を立てて進んでいるのに、
この部屋だけが、時間を失っている。
ベッドの上で、ザコは眠っていた。
眠っている――
そう言い聞かせないと、不安になるほどに動かない。
エリアス
壁際に立ち、腕を組んだまま。
一歩も動かず、視線だけをザコに向けている。
(戦場より、よほど神経を削るな)
槍を構えている方が、まだマシだった。
敵がいれば、やることは明確だ。
だが今は――
何もできない。
「……遅いな」
誰に言ったわけでもない。
それでも、言葉がこぼれた。
アリア
ベッドの脇に膝をつき、
ザコの手をそっと両手で包んでいる。
温度を確かめるように。
それが、人の手であることを確かめるように。
「……まだ、熱が下がりません」
声は静かだが、震えは隠せない。
アースエレメンタルは反応している。
自然の理は、彼を“生かそう”としている。
それなのに――
目覚めない。
「大地は拒んでいません。
でも……呼びかけに、応じてくれないんです」
それは治療師にとって、最悪の状況だった。
マッテオ
少し離れた位置で、祈りにも似た所作を繰り返していた。
魔法陣を維持しながら、同時に観察している。
「……肉体は、持ちこたえています」
穏やかな声。
だが、続く言葉が重い。
「問題は魂です」
エリアスが視線を向ける。
「眠っているのではない。
“留まっている”」
アリアの指先が、きゅっと強くなる。
「……選んで、いる?」
マッテオは、少しだけ沈黙した。
「もしくは――
選べなくなっている」
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その時。
ザコの喉が、かすかに鳴った。
三人とも、同時に息を止める。
唇が、わずかに動く。
「……」
音にならない。
だが、確かに“言葉”だった。
アリアが顔を近づける。
「ザコ……?
聞こえますか?」
しばらくして、
低く、別人のような声が漏れた。
「――まだ……」
マッテオの背筋が、凍る。
「……まだ、早い」
その声は、苦しそうでも、弱くもない。
むしろ――冷静すぎた。
エリアスは、思わず一歩前に出る。
「誰だ」
返事はない。
ザコの表情は、すぐに元へ戻り、
再び深い眠りに沈んだ。
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沈黙。
アリアの目に、涙が滲む。
「……今の、ザコじゃない」
マッテオは静かに頷いた。
「ええ。
しかし、ザコでもある」
エリアスは歯を食いしばった。
(行ってくれ……間に合え)
誰に向けた祈りかも分からないまま、
彼は初めて、目を閉じた。
⸻
外では、仲間たちが歩いている。
アルカディウスへ向かって。
この部屋では、
世界そのものが、答えを出すのを待っている。
ザコが目を覚ました時、
世界は――もう、同じではない。
静かに。
だが確実に、物語は進んでいた。
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