第2話:あいつといると、なぜか死なない



ガロンは、三度、死にかけた。


一度目は、魔獣の突進。

二度目は、流れ弾の氷槍。

三度目は、崩れた城壁。


――全部、外れた。


全部、

あの一兵卒のおかげ?で。


「……おい」


ガロンは、前を歩く背中を睨んだ。


細い。

弱そう。

どう見ても、ただのザコ。


「お前、なんなんだ」


「は?」


振り返った男は、

いつも通り、情けない顔をしていた。


「いや俺なんもしてねえけど!?」


「それが、してんだよ」


ガロンは低く言った。


「魔獣の時」


「お前、急に進路変えたよな?」


「……」


「その直後よぉ…突進コースが地面ごと抉れた」


ザコは、視線を逸らした。


「……偶然だろ」


「んで、二回目だ」


ガロンは続ける。


「氷槍(ヒョーソー)」


「お前、“しゃがめ”って言ったな」


沈黙。


「まぁーだあんだよ…三回目ぇ」


「城壁」


「お前がいた場所だけ、崩れなかった」


周囲では、兵士たちがひそひそ話していた。


「また生き残ったらしい」

「第七分隊、壊滅だったのに」

「汚ねえ奇跡とか言われてる」


ザコは顔をしかめた。


「奇跡とかやめろ。気持ち悪い」


ガロンは、鼻で笑った。


「奇跡じゃねえ」


「……?」


「もっと、現実的で」


「もっと、嫌な感じだ」


その時。


遠方の空に――

巨大な魔法陣が展開した。


空気が、歪む。


「……まずいぞ」


ガロンが呟いた。


「あれ、魔導国家の殲滅術式だ」


ザコは、意味が分からない顔をした。


だが。


その瞬間。


ザコの右眼が――

微かに、熱を持った。


「……ガロン」


「なんだ」


「……しゃがめ」


「は?」


「今すぐ」


声は震えていた。


だが。


妙な確信があった。


ガロンは、舌打ちして――

従った。


次の瞬間。


上空を、

極太の光が薙いだ。


空気が裂ける。


背後の兵士たちが――

消えた。


音もなく。

抵抗もなく。


「……」


ガロンは、ゆっくり立ち上がった。


息を吐く。


そして、言った。


「……なあ」


「なんだよ」


ガロンは、少し迷ってから言った。


「普通さ」


「三回も死ぬ状況に巻き込まれて」


「三回とも生きてる奴って」


「……いねえんだよ」


ザコは、黙った。


ガロンは続けた。


「英雄でもねえ」

「強くもねえ」

「むしろ逃げてる」


少し、間。


「……なのに、死なねえ」


ガロンは、肩をすくめた。


「だから思った」


「お前」


「世紀末級のザコだな」


「だからそれ褒めてんのか!?」


「褒めてねえ」


少し、間。


「……でも」


「嫌いじゃねえ」


その瞬間。


ザコの右眼が、微かに熱を持った。


――そして。


頭の奥で、声。


『観測成功』


『生存率上昇』


『……本当に』


『面倒な宿主ですね』


ザコは、小さく呟いた。


「……うるせえ」


ガロンは、それを聞き逃さなかった。


「……誰と喋ってる」


「……いや」


ザコは、目を逸らした。


「独り言だ」


ガロンは、しばらく黙っていた。


そして。


「……まあいい」


「ただな」


「お前といると」


「死ぬ気がしねえ」


その言葉を聞いた瞬間。


右眼の奥で――


何かが、わずかに、震えた。


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