読み始めは、実に穏やかな気分で、何と静かで整った書きぶりなのだろう、という気持ちの良さを感じました。
おばあちゃんとの思い出を大事にし、精神を整え、静かに書に向かう。
その時間はひたすらに穏やかなる無が広がり、現実の煩雑さを忘れることができる……。
と、ここまでであれば、ちょっとした現代ドラマのようないいお話なのですが、このお話のジャンル、ホラーなのですよね。
写経を行う主人公の耳に、静謐なる時間に似つかわしくない音が聞こえてきます。
そして徐々に、いえ、ある一定の段階でいきなり、それまでの「穏やかな無」が全く違う意味となってしまうのです。
そして、読み終えた時には、その静かさが、無が、複雑な気持ちを伴う恐ろしさとなって感じられてしまい、また最初から読み直したくなることでしょう。
一度で二度面白い、良い作品でした。