HUMAN ARCHIVE:013 人間の強さと証明
はいはい、聞こえてるかい。
……まあ、聞こえてなくてもいいか。どうせ独り言だしね。
あたしは今、島にひとり。
名前? 今さら名乗るほど立派なもんでもないよ。
まずね、これだけは言わせて。
このコンテナに入ってたもの、本当に助かったよ。
ここには、生きるだけじゃない、大切なものが入っていた。
中に入ってた布と洗剤でさ、久しぶりに体を洗ったんだよ。
髪も、腕も、足も。全身をごしごしってね。
そしたらさ……変な話だけど、泣けてきちゃって。
ああ、あたし、まだ人間なんだなって。
泥まみれで、汗だらけで、ちょっと匂ってた自分の身体がさ。
ちゃんと洗って、清潔になったらさ。
みすぼらしいおばちゃんが、人間らしい姿に戻ってたんだよ。
それだけで、気分が爽快になった。
それで、このログをあらためて聞かせてもらったよ。
そしたらなんだい?
ひとつ前の、あんた。
……まったく。
なんて情けないこといってるんだい。
世界が終わったのは、自分のせいだ?
ばか言いなさんな。
終わりを願った人間なんて、山ほどいたよ。
あたしも、こんな目にあっておもったさ。
一思いに終わらせてくれりゃよかったのにって。
疲れて、追い詰められて、もう全部なくなればいいなんて思う夜、誰にだってある。
でもね。
あんたひとりの願いで、世界は壊れたりしない。
そんな力、たかが人にあるわけないじゃないさ。
残念だけどね。
だからさ。
自分を責めるのは、直ぐにでも終わりにして欲しいね。
あんたは生き延びたのさ。
あんたを蔑んだ人間より、生き延びて。
物資に巡り合って、声を聞いて考えて、託すという行動した。
それだけで、十分すぎるくらいだよ。
役立たず?
冗談じゃない。
何もしなかった人間の方が、よっぽど多いんだから。
このログを聞いてるあんたたちも、そう。
もし、同じこと考えてたなら、よく聞きな。
生きて、そこにいる以上、あきらめちゃだめだ。
怖くても、情けなくても、手が震えててもいい。
生きて、動いた人間は立派だ。
胸張っていい。
さて。
あたしの番だね。
あたしのところには、豆がある。
大したもんじゃないけど、植えたらちゃんと実った。
豆ってのはね、栄養がある。
腹も満たすし、力も出る。
今日を越えるだけの元気をくれるし、明日を考える余裕もくれる。
だから、これを入れるよ。
このコンテナに。
誰かの明日になれば、それでいい。
いいかい、みんな。
あきらめるんじゃないよ。
生きて、洗って、食べて、育てて。
それだけで、人間は十分立派なんだから。
じゃあね。
次に拾うのは、どんな人だろうね。
……負けるんじゃないよ。
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