第11話 ちょっと、お願いに

「シリウスちゃんいらっしゃい」

 ノースウッド辺境伯夫人ミスティアが満面の笑みで出迎えてくれた。

「お義母様。お邪魔します」

「いいのよ。いつでも来てちょうだい。今日はどうしたの?まさか、夜の生活が上手くいかないとか?」

「えっ!?あの…そっちは、レオがちょっとずつ教えてくれるらしいのでたぶん、大丈夫です。

 用事というか、お願いがあって来ました」

「あら、どんな用事?」

「上下水道を引きたいんですよね」

「どうして?」

「長い目でみれば民のため、本音は汚いのが嫌だから」

「正直ねえ…でも引いたくらいじゃ駄目じゃない?」

「浄化の魔法陣なら、僕が描きます。あれを作ったのは僕なので、自由に使う権利がありますから」

 ということは、シリウスは働かなくとも収入があるということだ。

 魔法は開発者に権利がある。

 スクロールや本、魔法石の売り上げの一部はシリウスの収入になるからだ。

「それに、どうせならノースウッド全体に引けないかなって、魔法陣を描くのは一年くらいかかるだろうけど、やる価値はあると思ってます」

「いいぞ。こういうのは、レイの方が得意だから任せていいだろうか?」

 お義父様が来て、了承してくれた。

「はい。お願いします。あの…それとこのお家の水回りの魔法陣を見てもいいですか?」

「いいよ」

 シリウスがぱあっと嬉しそうに笑った。シリウスが家の者と出て行くと、レグルス・ノースウッドが言う。

「レオ二ード、お前いい嫁をもらったな」

「?」

「王宮魔法師団の魔法使いと結婚なんて凄いぞ。はっきり言って、魔法師団を呼ぶと凄い金額がかかるからな」


 この日、ノースウッド家の水回りが最新の魔法陣になり、シリウスの手により改造されたので、お風呂はいつでも入れるようになり、お風呂もトイレも台所も、とても綺麗になって、使用人のシリウスに対する好感度が爆上がりした。

 魔石ひとつで水とお湯が出る。もう、寒い日に我慢して冷たい水で洗い物をしなくて良くなったのは、ありがたかった。

 シリウスに何かあったら、自分の出来る範囲で助けようと思うくらいには、忠誠度も上がっている。


 そして、おやつにふわふわのパンケーキを焼いてくれた。

 見たことのないパンケーキは、ふわりとしていて、クリームと食べると、溶けるようになくなる。

 甘さも控えめで、それでいて美味しい。


「これは、どこで習ったの?」


 お義母様ことミスティアに尋ねられて、シリウスはなんてことないように答えた。


「ヴィオレに雲が食べたいと言われて、頑張りました」

 恥ずかしそうに口に合ったなら良かったと笑う。

「作り方なら、料理長達に教えてきましたから、しばらくしたらお茶の時間に出るかもしれませんね」

「ありがとうシリウスちゃん」

「いつかお茶会の時に出したら喜ばれるかもしれませんよ」

 ほかの人には教えてないとシリウスは言う。

「レシピは登録したの?」

「いえ、してません。するなら、ノースウッド家名義でお願いします」

「どうして?」

「その、僕は魔法関連の登録をたくさんしていて、これ以上お金があっても、どうしていいか…」

 わからないんですよね、と小さな声で言う。

 

「だったら家名義にして、売り上げの一部は、孤児院に寄付するのはどうだろう」

 レグルスに提案されてシリウスは頷いた。


 たぶん、シリウスの言ったことは見栄でもなんでもなく真実だろう。

 何しろ、シリウスはメレの領主でもある。

 シリウス個人とメレの収益を合わせたら、国内でも指折りの金持ちのはずだ。

 

「あと、よければお義父様達にお守りを作りたいのですが、いいですか?」

「私達に作ってくれるの?」

「はい。迷惑でなければ。好きなモチーフとかありますか?」


 シリウスは、女性陣に連れて行かれた。あれは、しばらく帰って来ないだろう。

「父上と兄上も、後でシリウスに話して下さいね」

「わかってるよ」

 でも、今日は疲れて無理じゃないかと、思うのだ。

 女性のアクセサリーに対する情熱は、理解の範疇を越えているので。 

 

 後日。

 ノースウッド辺境伯家に、シリウスから、綺麗なアクセサリーが届いた。

 お守りとは到底呼べないクオリティの高さに、喜んで身につけた。

 しかも、男性陣に贈った剣のブローチは本物の剣になるという芸の細かさ。

 綺麗で実用的。

 シリウスらしい贈り物だった。



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