壮大な『力学』『物理学』の物語である。
この世は全て何某かの法則により成り立って
いる。それは地球という惑星の表層で日々
為されるが、ヒトの心の有様や歴史、そして
此岸と彼岸を分かつ事も又、物理学で
解釈されるだろう。海流が滞れば惑星は
死滅する。荒ぶるも又、同じこと。
これは 特級激甚災害 という極めて
特殊な災害を処理する陸上自衛隊の隊員達と
彼等が対峙する、この世の『理』から
外れた現象の、そして作者自身があたかも
ライフワークとして書き連ねた幾篇もの
短編達の集大成。まさに
記録 と 顛末 である。
事の次第は、瞼の裏に百鬼夜行を見た娘が
眼球に双子を孕む。方や人に寄った山彦、
そしてもう一方は魔に寄った海彦。
泥濘の中に佇む少女、死というモノを
愛しむ女性、花の香と共にWEBの中を畝る
黒髪に、白昼夢の様なスクランブル交差点の
百鬼夜行、神木に貼り付けられた黒い怪鳥。
山彦の末裔の弓持つ白い少女。巨人の骨。
高濃度の塩雨が降り止まない。
それは雨の中で凝っと迎えを乞う寂しさだ。
人に寄った弟、魔に寄った兄。
天変地異と神話の世界が、現代に傾れ込む。
その整合性の妙味には驚きと共に感動すら
覚えるだろう。
これは壮大な 神話 でもある。
瑞々しい作者の筆致は、激甚災害の最中で
すら美しく咲く植物や細やかな人の感情を
描き出す。故に、何とも言えない感慨を
齎すのだろうか。
『理』を壊した所に、何が在るのか。
そして、何に成るのか。
深く胸に沁み渡る水の如く。